十三話 元勇者と現魔王
「僕は転生者だ」
まず最初にアルは俺に向かってそう言った。
何となくだが、いや直感で俺はそれが嘘ではないと理解する。
「そして闇野君も転生者だ。違うかい?」
俺は手を挙げて、それを肯定する。
赤い外套を脱ぎ置き、アルは話を続けた。
「僕はね、老い知らずの呪いでずーっと生き続けている。実質何歳だろう。はは、もう覚えてないや」
それは、何という罰だろうか。
俺はその有り得る可能性に悪寒を隠せない。
人生というのは、数えられるものだ。
それを放棄する。
つまりそれは、もう数えられないくらい年を越した事を意味する。
「転生したときは驚いたよ。多分闇野君も分かるだろうけど、前世の記憶がないんだから。けど、幸いにも僕は能力を持っていた。無限の魔力と老い知らずの呪い。それに、この目だ。これは『違わずの目』と言ってね。自分の未来を選択できるっていう優れものだ」
ああ、これこそ本物のチートだ。
なら、誰が相手だろうが関係ない。
どんな可能性だろうが、それがあれば必ずそうなるのだから。
隕石が落ちる可能性があるのなら、それを選択出来る。
そういう能力だ。
「けどね、ある時僕が魔王退治をしている時に気付いたんだ。この世界はどこかおかしいって」
「それが勇者を辞めたきっかけか?」
アルは苦々しく頷く。
「魔王は絶対じゃなかった。流石に全部の勇者が魔王を討伐できるわけじゃなかったけどね。魔王が倒されたとはよく聞いていたけど、勇者が倒された話を耳にしたことがなかったんだ」
「今でも、そうだ」
俺はアルの目を見て、今もそれが変わっていないと口にした。
「だね。そこで僕は色々考えた。それまで強いと、天下のアルがいれば魔物なんて怖くないと言われ続けて考える事をやめていたんだ」
俺だってアルの立場ならそうだろう。
いつまでもそのままで。
考えなんて捨てて、英雄のままで。
「そこで違わずの目を使って、魔王の消滅を防いでみた。今でもその魔王の事をよく覚えているよ。悲し気だけど、どこか満足気でね。けれど、消えた。今までどんな可能性だろうが掴み取ってきたこの目でも魔王の消滅は、避けられなかった」
悲しそうに、己を呪うように。
アルは手のひらを見つめた。
きゅっと胸が苦しくなる。
ああ、こういう勇者もいるんだな。
そういった安心と共に、これが少数なのだと思い知らされた。
「分かったんだ。どう足掻いても避けられないと。じゃあ、何が悪いのか。一つの結論に辿り着いた。魔物組合だけではない。……もっと、もっと大きな。そう、例えるなら管理する神がいる」
それはフライパンで頭を殴られるよりもずっと強烈なインパクトだった。
「僕はね、この世界を変えたい。その為にずっとここで共に戦ってくれる人たちを探していたんだ」
アルは改めて外套を羽織って俺を見る。
消えた人たち、それは魔物組合ではなかった。
このアル・グレイによって仲間になっていたんだな。
「ああ、そうだな。……けど、俺たちも俺たちの目的の為に、旅をしなくちゃならない。だからアルの力になれるようにもう少し戦ってみる。まずは魔物組合とな」
「おー! それは頼もしいね。まぁ、そう言われるのは分かっていたんだけど。それにしたって、不思議な魔王だ。初めてみるよ、君みたいな魔王は」
「それってどういう意味だよ」
「そうだね、魔王らしくないって事かな。……元勇者と魔王が手を結ぶ、か。本当に世界が変わるかもしれないな」
アルは悪戯っぽく笑った。
「そうだ、何かあったらこれで呼んでくれれば良い。僕はここでもうしばらく仲間を集めるから」
アルは俺に青の石がついたネックレスを渡した。
俺はそれを握りしめ、同じ転生者の先輩に礼を言う。
「じゃ、いつかまた」
「うん。では、君の旅に幸あれ」




