十二話 終わらぬ階
「何ここ超リゾートっぽいな」
八階まで来たが、今度は海。
それも南国とか、楽園とかそういう言葉が似合いそうな場所だった。
あっ、もしかしてこれボーナスステージじゃないか。
そんな淡い期待を抱く。
「けれど、どうしてでしょう。全く泳いだりゆっくりとする気にならないのは」
「え、ゆっくりすれ……ば。……うん」
リザが海を眺めながら、そう呟く。
奇遇だな、俺も今そう思った。
だって見えてたんだもの、海の中にわんさか敵がいるのが。
俺たちは海に面した町にいた事がある。
海竜の名を聞いた事もあるし、その姿を見た事もあるが何というかイルカとか、クジラに近かった。
こちらを襲うこともなく、海中を優美に泳ぐのは見ていて楽しいものだった。
けれどここで泳いでいる海竜は、違う。
まず単体でしか見たことないのに、群れでいる。
次に今俺たちが立っているのは先ほどの広いエリアとは打って変わって、とても狭い。
海の上に椰子らしい木一本と、こじんまりした砂浜があるのを想像してもらいたい。
それ目掛けて、海蛇のように海中を蛇行しながら向かってくるその姿は餌を投げ込まれた水族館の魚だ。
「いやあボーナスかと思ったんだけど。ねぇ何あの海竜の群れ、やばいんですけど。一、二、三……十はいるんですけど」
「うむ。しかもあの海竜は相当腹を空かせているらしいな」
「蛇ね、あの海中をうねる姿は」
カレンとレイオンが海竜を見て、そう言った。
蛇行するスピードは今まで見たどんな海の生物よりも速い。
「じゃ、数に対しては私たちの出番かしら。私が撃ち漏らしたらリザちゃんとエクシスちゃんお願いね」
アナシスはそう言ってリザとエクシスを見る。
こくりと二人は、準備に取り掛かった。
「竜殺しの槍よ、ここに顕現せよ」
何もない空間から現れるのは、槍。
海竜の数に合わせて丁度十本の槍がアナシスを取り囲むように浮遊した。
アナシス・マジク。
二位の魔法使いは、その無尽蔵にさえ思える魔力をもって敵を殲滅せんと魔力を迸らせる。
氷弾、空間切断を行ってなおまだ魔力を心配する様子はなく焦る気配すらなかった。
そして海竜が海中から俺たち目掛けて、跳ね上がる。
「タイム」
短く言うと、出会った時と同じように海竜の時間が止まる。
カチリと時計の針が止まるように、海竜は止まっていることすら気付いていないだろう。
「槍を移動させて、っと。じゃあ解除」
ズブリ、串焼きにされる魚のように海竜は腹を穿たれた。
時を止められめ、再び時を動かされた十頭の海竜は何が起きたかきっと分からないうちに殲滅されただろう。
弛む空気、何度か繰り返した終わり。
油断したつもりはなく、この階層の終わりを意識する。
次の階層は、どんな……あーー?
「……世界の足元に!!」
「移動穴⁉︎ ダメ、私の魔法も間に合わない!」
ーーああ、俺は油断したつもりはなかった。
けれど、安堵は油断だ。
いったい、どうして。
俺の足に広がる、この奈落の穴はなんなのだろう。
最後にカレンの驚いた顔と、アナシスの叫び声と共に深く、深く吸い込まれる。
「……ってえ。俺は不思議な国のアリスかよ」
一人で穴に吸い込まれ落ちた、頭では分かっているが冗談でも言っていなければやってられない。
見渡してみても、そこにあるのは白の石柱と壁だけだった。
地は石。
綺麗に四角に区切られていて、石のタイルのようなものが張り付けられたのだと分かる。
ヒンヤリとした冷蔵庫のような空気に、思わず身震いした。
ここに来てから温度で寒いと思ったのは初めてで、戸惑いながらもまだ生きているのだと実感する。
「ようこそ、闇野世界君」
音が這う。
響くとはまた違う感覚だ。
「地面に引きずり落とすなんて、手荒い歓迎だな。……姿ぐらい見せたらどうだよ」
俺の名前まで知ってる奴はそういない。
噂通りであれば、相手は魔物組合だろう。
「そう怒らないでくれ。敵意はないんだ。ただ、君と話をしてみたかっただけなんだよ」
ここから対面にある石柱の裏から、一人の男が降って湧いたように現れた。
赤い外套を羽織りながら、精悍な顔つきの男が糸が解けるように笑う。
「初めまして、闇野世界。アル・グレイです」
……紅茶みたいな名前だな。
まぁ、名前に関しては俺もとやかく言えないけど。
「どうも」
悪い人ではなさそうなので、ぺこりと頭を下げた。
別にイケメンが嫌いなわけではない。
けれど、この呼び出し方。
そのやり方が気に食わない。
「闇野君、君に提案があってここに呼んだんだよ。聞いてもらえるかな?」
「無礼なら帰るが、それでいいなら」
「いや、それでいいよ。……面白いなぁ。では、勇者を辞めた僕の話を最後まで聞いてくれるように願っているよ」




