十話 ダンジョンの狭間で
「まぁ、あれで終わりじゃねーよな」
潰れて消え去った兵を踏みにじり、一人の骸骨、いや将が悠然と馬に乗り現れる。
全身を覆う銀の鎧に、二メートル近い巨大な漆黒のランスを片手に抱えていた。
「ワイトナイトよ、あれ!」
カレンがその姿を見て、大きく声を荒げた。
ゲームなどで一度は見た事のありそうな姿、そんな骨の騎士は同じく骨の馬の手綱を引き、突如疾走する。
「では、今度こそ私が行こう」
レイオンはニヒルに笑って、飢えた獣のような目をしていた。
手を出すなと、そう手で他のみんなを制して一人で一歩ずつ歩く。
一方でワイトナイトは地の裂け目をまるで物ともせずに、乗り越えた。
跳躍もさることながら、着地した後も勢いを殺さずに迫り続ける。
「アナシスやリザ、エクシスに良い所を持って行かれたが、これでも私は魔物の王だ。さぁ死兵の将よ、目を閉じず我が剣の輝きを見よ!」
構えさえしない。
だらしなく剣を下に向けながら、そう軽やかに告げる。
ここに目も眩む程の光を放つ剣と、漆黒のランスが交錯するーー。
音が消えたのか、それともあまりに一瞬だったからか。
獅子女王の剣は俺が瞬きをしている内に、既に死兵の将を綺麗に切断していた。
どんな技だったのか。
ランスで突くことさえ許さない。
レイオンが一歩大きく踏み込み、下から叩き上げる。
ただそれだけでワイトナイトとを馬ごと左右対称に切った。
深海のような静寂と共に終わったと確信する。
みんなもそうだ、確かにこれでこの階層は終わりだと思ったはず。
だが、まだ戦いは終わらない。
「伏せろ、レイオン!!」
こちらに戻ろうと振り向いたレイオンに俺は思わず叫んでいた。
本能というのか、脳を通さずにその指令は出される。
「やらせるかああ!!」
俺が叫ぶのとほぼ同時。
カレンは新しい武器の二対の双剣を振るう。
レイオンを守るように敵の前に庇うように立つ。
後頭部を狙い穿たれたランスの方向を変えた。
ガキンと金属がぶつかり、鼓膜を襲う金属音が鳴り響く。
「これで、終わり!!」
赤と青の剣がギロチンのように首を刎ねて、今度こそワイトナイトはランスを地に落とす。
安堵の息が漏れる。
『地下十階、クリアです。最速タイム更新。このまま続けますか?』
再び無機質なアナウンスが聞こえた。
俺たちはゆっくりと頷き、次の階層へと歩み始める。
音を立てて、現れる階段はまるで俺たちを歓迎しているように金色に輝いていた。
「うーん、森か。そうだ、それにしてもカレンは本格的に双剣使いになったんだなぁ。勇者というより忍者っぽかった。速かったし」
元々、声を使った魔法を多用していたカレン。
そのカレンは愛用していた一本の剣を止めて、手数の多い双剣に切り替えていた。
その為にスキルも絶えず習得していたようだったが、今まではなかなか恥ずかしくて公に使えなかったらしい。
先ほどの加速というスキルは、最大限強化されており、瞬間移動などに近い。
「気配感知も素晴らしいな。カレン助かったよ、私は完全に切断して終わったと思っていたのでな」
レイオンは申し訳無さそうにカレンに頭を下げて、感謝を述べた。
「やめて、やめて! もう、本当はまだ使いたくなかったんだけどね。……それを言うならエクシスとリザにアナシスよ。何あれ、世界を本当に殺すつもりなの?」
「おう、あれ食らったらさすがにダメージ移動しきれないぞ。……けど、死にたくなるほど痛いだろうけど、俺は死なないだろうなぁ」
俺も黒との一戦の後に意識を失ったので気付けなかったが、部位再生というアメーバもびっくりのスキルを手に入れていた。
もちろんまだ使った事はない。
身体が吹っ飛んだ時の保険だな、完全に……。
そのうちプラナリアみたいに、本格的に二つに分裂するんじゃないのか。
「アナシスさんが、教えてくれているんです! 私たちの魔法の先生ですよ!」
「ええ、付与なんて便利な魔法も手に入れました。これで世界様を殴らなくてもダメージを与えらます!」
おいこら、そこの吸血族!
完全に魔法使いとか魔術師とかになる気だろ!
あっ、状態異常とか凄いしんどいんでそっちは無しでお願いします。
「二人とも筋がいいのよ。リザちゃんは弓に爆破魔法を使ったり、毒魔法をかけたり。エクシスちゃんは更に爆破以外に闇魔法を覚えているのだけれど、これがなかなか速くてね。今日試し射ち出来て良かったわね」
アナシスはよしよしと、弟子の頭を撫でる。
いやあ、有能な師匠と弟子ですね。
是非とも、俺を実験台にする事がないように祈ります。
「私は世界君にキスの魔法かけちゃうのだけれど!」
「アナシス、そうやって闇野を甘やかすな!」
「何かしら。あら、もしかして嫉妬? レイオンは嫉妬しちゃってるのかしら?」
キスとかしたら本当に結婚とかさせられそうなんで、お断りしますね。
それにしても煽り性能が高いな、アナシスは。
レイオンは顔を真っ赤にして怒っていた。
「嫉妬ではない! これは、その……。闇野はこっちを見るな!」
バチーン。
ビンタされた、ちょっとニヤニヤしたのは悪かったけどおかしくない?
ビンタも加減されてて、レイオンの葛藤が分かるからこれ以上は何も言わないでおこう。
地下九階は、十階と違い即戦闘ではなく探索がメインらしくここ一時間は敵と言えるものと遭遇していなかった。
森は深く、まるで図鑑で見た白亜紀の森林だ。
「魔力反応を感知したわ。恐らく敵よ。みんな行くわよ……!」
そんな雰囲気もカレンの感知によって、終わりを迎えた。




