八話 魔物の尻尾はダンジョンから
「で、それが何とかの塔って言うのか?」
俺たちはあれから三日間、この国アルミナレの都市らしい今いる町、アインで情報を集め続けた。
いや、集めたというの語弊がある。
正確に言うのであれば、盗み聞きとか捜査とかそちらの方がニュアンスは近いだろう。
その中で一つ、目新しい情報があった。
「世界君、何とかではなく勝者の覇塔よ。けれど、こんな近い所にまさか転がってるとはね。私も驚いているのだけれど」
アナシスは、その紫の瞳を大きく動かして俺に話しかける。
宿でのひと時は、今動き回っている俺たちにとっては癒しになっていた。
「なるほど、塔遊びか。木を隠すなら森の中と言うしな。あまりにも流行っているので、そこに手を加えているなんて疑いもしなかったな」
レイオンが言う塔遊びとは、簡単に言えばダンジョンとか迷路とかそんな感じだ。
その形態は塔であるがゆえに、到達した階に応じて国から報酬が与えられる。
それがみんなの目的になっていた。
参加者は自分の実力に応じてその難度を選択する事が出来るのが特徴で、報酬がお金であったり魔法道具だったりと多岐にわたる。
この世界ではそれが好んで作られているらしく、大きな国や町になればその規模と報酬は膨らんでいく。
「つまり、公の娯楽であるはずの塔というシステムに魔物組合が絡んでいるって事ですね」
エクシスが腕を組みながら、今回の問題点を挙げた。
魔物と共存している国、町。
だからこそ、魔物組合がどうしてようが何の疑いも感じられない。
まさにレイオンの例え通りだった。
「おかしな話なんだけど、ここの塔って本物の魔物が出るらしいの。普通ならあり得ないんだけどね。でね、最難関は頂上まで行った人も居ないみたいよ。いや、いるのかもしれないけど」
そう訝しみながら、カレンは部屋にあったコップに水を注ぐ。
「それは私も聞きましたよ。何かその後姿を見せなくなったって。噂によれば金を貰ってどこかへ行ったんじゃないかと言われてました。あるいは、本当に食われたか……なんて噂も」
リザは弓を手入れしながら、カレンの話を補足した。
本物の魔物を使う利点、そして塔のシステムを握る意味を考える。
最難関は頂上まで辿り着いた人がいなくて、その後に消える、か。
「もしかして最後まで行った人もいるかもな。何にせよ、仕掛けがあるのは間違いないし。……うっし、なら勝者の覇塔に行くしかねぇな」
俺の提案に誰も異論はなかった。
目指すは頂点、そこなら何か分かるかもしれない。
「明後日なら一応最難関は開催するらしい。最大六人までの一組参加で良いな」
レイオンが塔に関する案内の紙を俺達に見せた。
この目で確かめてやる、俺はそう決めたのだった。
「塔って言っても、案外小さいんだな」
「ぶぶっ、野闇の髭は似合わんな!」
レイオンが俺の顔を見て笑う。
そう言うお前だって、そのダサい牛乳瓶の底みたいな眼鏡は何なんだよ!
「野闇様、野闇様ー!」
塔というより五階建てのビルとか、そんな言葉が似合うのかもしれない。
六人は、先日話していた目的の場所に来ていた。
時刻は丁度正午あたり。
最難関は今のところ他に挑戦者は居ないらしく、受付の人に大丈夫ですかと何度も念を押された。
「野闇様、本当に大丈夫ですか? 今なら受付を取り消せますが」
野闇と言うのは偽名だ。
みんな一応変装していて、つけ毛だったり髪の色を変えたりとこの二日で準備した。
ここで本当の正体がバレるのだけは避けたかったからだ。
魔物組合と関連性があるかもしれないという時点で、リスクは避けるべきである。
「そりゃ女の子しかいないパーティですけど、そんなに最難関は難しいんですか?」
「勿論です。なのでもし命の危険を感じたら、すぐさまこのリタイアボタンを押して下さいね」
「分かりました。気を付けます」
渡されたボタンをポケットにねじ込み、軽くなった財布や荷物を受付に預けた。
六人でなんとお値段三十万ライ。
現世での日本円にすると三十万円もの参加料だ。
高いよ、高すぎるよ……。
俺たちは待機室でアナウンスを待つ。
こういう時が一番緊張するんだよな。
そわそわとあっちに行ったり、こっちに行ったりと落ち着かない。
「では野闇様御一行、行ってらっしゃいませ」
ふいのアナウンスと共に部屋の景色が変化する。
明かりは全て消え、視界は黒一色。
まるで、エスカレーターを想像させる。
身体に下へ向かっているのが分かった。
……なるほど地下からスタートするのか。
ゴゴッという、鈍い音を出しながらどんどん下へと進む。
「ねぇ世界君、真っ暗な中で落下していく。何だかロマンチックじゃないかしら?」
「アナシス余裕あるなぁ。俺は何か緊張してきたぞ」
手のひらに汗が滲む。
『では、最難関、地下十階から勝者の覇塔スタートです』
無機質なアナウンスによってダンジョンは開幕したーー。




