二話 勇者と勇者だった者
アルミナレまでケルベロスの足で五日。
これでもそこいらの馬や地龍引きより断然速い。
巨大なトカゲが馬車のように引っ張ってくれる地龍引きは、時折トカゲの気分次第で止まってしまうから、俺は好きじゃなかった。
「やっぱもふもふと言えば、ケルベロスの頭だよなぁ」
そう言う俺を真ん中の頭は不思議そうにちらっと見た。
三頭の黒犬、そろそろ名前分けてあげるべきではないだろうか。
左から、ケル、ベロ、ス、とか。
……スの子が可哀想になるから、やっぱりやめとこ。
しかし走れど走れど、人が全然居ない。
殆どが町や村に居てあまり出る事がないのか。
「待て!!」
後ろから追ってくる何かに俺たちは全員振り返り、ケルベロスとグレッチェンを止める。
「なんだ? 声聞こえなかった?」
確かにそれは青年の声だった。
「その獅子と黒犬、魔物だろ!!」
一本の木の裏に隠れていたのか、それとも休んでいたのか。
鬼の形相で俺たちを後ろから見つめる青年がいた。
金の髪にブルーの瞳。
おそらく騎士か、勇者だろう。
何にせよ穏やかではないらしく、声荒げ近付いてくる。
「貴様らは魔物使いか何かか? ここは人が通る道だ。そのような化物が通る道ではない!」
……めんどくせえ。
なら地龍引きは良いのかよ、とか言うとまた激昂するからやめとこ。
「あーはいはい。すんませんすんません」
「貴様、この勇者ファン・バステン様を愚弄するのか。たかが魔物使いの分際で! 大人しく言うことに従え!」
ああああ!! 何だってこうテンプレートな暴論振りかざす子が異世界には絶対にいるんですかね。
っていうか、自分で様つける奴初めて見たわ。
俺はみんなを見て、俺が話す事を目で合図する。
「分かりましたー。さぞ高名な勇者様! じゃあ、俺たちはこれから道を変えようと思います」
「お前は魔物奴隷商か? その後ろの銀のエルフの子を放せ!!」
あのさ、これイラついても良いよね?
いや、本当に今まではツイてたわー。
こんな人の話を聞かない奴も居るんだなー。
「その子は奴隷ではないですし、俺は奴隷商でもありません」
「ふっ、悪い奴らはいつだってそう言う。さぁ、エルフの子。俺と一緒に行こう!」
ねぇ聞いて、何で無視するの?
俺の顔ってそんなに悪人っぽいの?
初対面の人に悪い奴と、あまつさえ奴隷商なんて断定されたのは初めてなんですけど。
「ごめんなさい。……私奴隷でも何でもないですし。そういう風に決め付けられるのは好きじゃないので」
大人な対応だなぁ、リザ。
決して勇者に対して、良い思いはしてないはずだ。
リザなりに気を遣って面倒事を起こさないようにしてくれてるらしい。
「そう言うように、洗脳されてるんだな! 奴隷商……!」
この子もしかして、アホな子かもしれない。
そう思ったら可愛く見え、見えるかああああ!!
けれど振られても認めないその根性は単純に凄いよ。
さてはこいつ精神面が強い系の勇者だな。
「おい、そこまでにしておけ。リザも嫌がっているのだ。フラれた事を認めないか、勇者よ」
強烈うううう!
レイオンさん強烈すぎるううう!
「あのね、そもそもこの辺りは知らないけれど、大きな町とかなら奴隷なんて制度とっくに廃れてるの知ってるでしょ?」
カレンが補足する。
そうか、奴隷制度なんて本来ならあってはならない制度のはずだもんな。
合理的なシステムではあるが、道徳的には良くないから現代でも廃れたんだし。
「勇者様、それでは」
エクシスが切り上げて、俺たちは再びケルベロス跨がろうとする。
「待てよ、俺は。勇者だぞ。魔を祓い、世に光をもたらす希望。その勇者様だぞ……。どいつもこいつもコケにして、俺を馬鹿にするんだ」
「分かってますよ勇者様。ここの道ではなく、違う道で、……!」
「魔物を倒す。倒す、倒すんだ! 地、空、海。世の理を正す。光れ、光れ、光れ」
詠唱、だった。
対魔の魔法、その呪文に光が入っている事で俺もその術に気付く。
身に魔を滅ぼす呪文を受けた事はないが、まぁ何とかなるか。
意識があるうちに右手をどうにか動かせれば、死ぬ事はあるまい。
いや、右手がブッ飛んだらあれなんだけど……。
「我魔を滅さん! ……光の鉄槌!!」
「……ウォール」
光の塊が手から放たれる寸前、地面から土の壁が出来上がり寸前でそれを防いだ。
「はぁ……。こんのっ、馬鹿勇者!!」
壁をこしらえたのは、カレンだった。
俺たちを滅ぼさんとした術をあっさり防がれた事によって腰を抜かすファン。
カレンは詰め寄って、怒号を飛ばす。
「良い? あんた仮に勇者でしょう! 聖内気を使って悪い魔を倒すなら良いわ。けどあんたのはただの八つ当たりじゃないの! コケにされる? 馬鹿にされる? それでもちゃんと勇者なら勇者らしく真っ直ぐに生きなさいよ!! 今のあんたのどこが勇者なの。あんたが奴隷商と馬鹿にしたあの男!! ああやって、自分の身を盾にしようってあんたなら出来る?」
「……すいません、でした」
あまりの迫力に俺たちも呆気にとられる。
どうやらカレンはその聖内気の使い方に激怒しているらしい。
いつもよりずっと本気で、勇者に説教していた。
勇者は謝りながら、去っていった。
世の勇者がみんなファンみたいにある意味で素直なら良いが、そうではない。
今回はたまたま、簡単に下がってくれたが次はもっとしつこく追ってくるかもしれないのだ。
……気を引き締めて、常に構えておこう。
「カレンやるなあ」
「……良いわよね、聖内気。あの勇者きっと対魔のエキスパートにでもなれるわ。対魔における特殊な魔力、それが聖内気。あーあ、私もその才能が欲しかったわ」
「けれど、カレンさんの方があの勇者よりカッコよかったです。世界さんも身を盾にしてくれようとしてたし。私にとってはお二人の方が勇者でした」
リザは笑いながら俺とカレンを労ってくれた。
旅の最中にあんな事が起きな事を祈りつつ、俺たちは再び移動を再開した。




