二十二話 メンバーの心配と恩人
夢を見た。
俺は家で夕食を食べて、テレビを見て、風呂に入って眠る。
そんな当たり前の日常の事だった。
けれど、母の顔も父の顔も思い出せない。
やってたテレビも、何で俺が死んだのかも思い出せない。
「……戻りたいか?」
「……ん」
部屋を照らす蝋の灯り中、俺は起きた。
夢はもう思い出せなくなっていて、俺は再び夢に飛び立とうと、起こした体をーー。
「世界様……起きましたか?」
エクシスが座りながら、そう俺に微笑みかける。
そっか、俺は倒れたのか。
まだ半分夢見心地な思考を切り替える。
「ああ、看病してくれてたのか。わざわざありがとな」
ふと横を見ればカレンとリザが並んで座りながら眠っていた。
リザに至っては泣いていたのか、涙の跡が光で照らされている。
ああ、えらく心配をかけたんだな。
「世界様、ご無事で何よりです。けれど此度の事私は怒っています。それはリザもカレンもです。お願いですから、私達を置いていかないで下さい」
薄明かりの中、エクシスはその小さな手のひらを俺の手に絡める。
酷く冷たい手だった。
不安に怯え、縋るような表情でこちらを見るエクシスはいつもよりずっと弱々しく思えて俺は強く手のひらを握り返した。
「ごめんな、エクシス」
「二度と心配させないで下さい。わ、私は……!」
それを聞いてエクシスは張り詰めた糸が切れたように、つっーと涙を流す。
俺がこんなにも誰かに必要とされた事があっただろうか。
カレンとリザの頭を開いた片手で撫でながら、握った手を解いて、エクシスの涙を指で拭ってやる。
身体と共に、金の髪がびくりと揺れた。
「これは、あの、その!」
「はいはい。分かってる、疲れてただけだろう? これは二人の秘密だ」
強がりなエクシスに俺はそう言った。
「ずるいです、クソ魔王」
こつりと、突かれた肩がくすぐったい。
「ん、世界さん?」
ゆっくりとリザは起きて俺を確認すると、母の様に優しく俺を抱きしめてくれた。
「馬鹿、世界さんの馬鹿!」
妙にあったかくて、心地いい。
残念ながら今はすけべな気持ちは湧かない。
俺は身を任せ、同じようにリザを抱き締める。
「おう、馬鹿は俺だ」
えっぐ、えっぐと泣くリザは思ったよりもずっと小さくて。
俺は情けなくとも、嬉しくとも入り混じった感情に困惑した。
「……間抜け魔王、生きてたのね」
「カレンも心配かけたな。ありがとう」
「全く感謝し始めたらこれなんだから。別に心配はしてないけど! ……次は私も連れて行きなさいよ。魔王に遅れはとらないんだから」
カレンはいつも通り、そう言って笑った。
「嘘つき。カレンさん世界さんがここに運ばれてからずっと部屋の中をうろちょろしてました」
「ええ、もし魔物組合の奴が世界様を襲ってきたら私が殺すとか言ってましたから。下手すれば一番病んでますよね」
「病んでないわよ! 仇討ち的なやつよ! 世界も笑わないで!」
ああ、こいつらが守れたら頑張ってよかったのかもしれない。
俺はいつものやりとりを見てると、また眠くなって……。
「……俺が、絶対守って、や、る」
それは誓いにもよく似ていた。
「……あー。何時だよ、今」
妙に身体が重い。
俺が再び目を覚ますと、腹に足は乗ってるわ腕は掴まれてるわ、顔は潰されてるわ、酷い状態だった。
一緒に寝たのか。
そもそも前から思っていたが、エクシスとカレンは寝相悪すぎだな。
腹が痛い、これたぶんエクシスの踵落とし食らってるぞ。
「起きろ、体が痺れてるから。ジンジンしてるから」
そう言うと、もそりもそりと三人は起き出した。
あー狭い! ……けれど悪くない。
そもそも一回起きてからいつの間に眠っていたのだろうか。
睡眠とは記憶を曖昧にしてしまう。
俺たちは顔を合わせ、揃って部屋を出る。
これがまだ最初の町で魔物狩りをしていた時の習慣のようなものだった。
全員無言で顔を洗いに近くの水汲み場まで向かう。
「おはようございます。昨日の話をお聞きしました! どうすれば七位様のようになれますか?」
水汲み場で、男の子と会った。
そう言えば昨日、朝食を用意してくれた子だ。
俺は真顔で少年に忠告する。
「……俺のようになってはダメだぞ。そうだな、マレガさんの様になると良い。ちなみに俺は昨日も仲間に怒られた!」
「魔王様が、怒られる?」
「そうよ少年。この魔王はね、阿呆なの。おまけにウンコ踏んだりする間抜けなのよ!」
朝からやってくれるじゃねーか。
俺はカレンを見て、反撃する。
「いいか少年! このおばさんはな、いってえええ! 拳骨はやめろ、完治してるとはいえ病み上がりだぞ俺!」
「おばさんって何よ! 前は私の事可愛いって言ったくせに!」
「……ほう。私は言ってもらった記憶がありませんが? 世界様?」
「私もです。能力使ってパンツ見ようとしたくせに!」
あーもうめちゃくちゃだよ。
少年は爆笑して、腹を抱えていた。
「やっぱり七位様みたいになりたい! それで可愛いねーちゃん侍らせるの!」
おーい、世話係誰だー。
この子の教育について話があるからちょっと来てくれるかなー?
「ほうほう。では、私も七位様の可愛いパーティに入れてもらえるかな?」
「あっおはようございます獅子様! 獅子様も七位様が好きなのですか?」
俺の耳がピーンと立つ。
俺はこの手の事は絶対に聞き逃さない。
っていうか、男の子で女子の好きな人とか気にならない奴いるの?
俺は気になる、超絶気になる!
それこそ子供の特権、無邪気! さぁ、聞かせてくれレイオン!
「ふふ、私よりもマレガの方が闇野を好いてるみたいだが?」
「闇野様ぁあああ! 命の恩人様ぁあああ!」
待て、俺は男に好かれるつもりはない!
ペットとか超好きだけど、ケルベロスとかもふもふしてたいけど!
あんなマッチョなもふもふは遠慮したい。
あああああ、マレガさんハグが超痛い!
骨折れるから、いやもう折れてるってこれ!
「闇野様! 闇野様!」
「マラガさん、痛い! 何か軋んでる、骨が! 歪な音立ててほんとやばい!!」
それを見た男の子は言った。
「僕、やっぱり獅子様を目指します。男は好きじゃないので」
いや、俺だって男が好きじゃないわ!




