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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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グロリアーナの弟は訛りが強いけえね!

「これはすべてお前が仕組んだことかグロリアーナ」

「なんのことです?」


グロリアーナは父親から取り返した唇を開き、目元まで隠している。


「よかよか。もうよか。ほんのこっのことを言やん。」


ディオールエサンスは薄くなった頭をなでながら、火酒をあおった。

シャンタルメリューの火酒は70度ある。

製造に手間がかかり、領外にめったに出回ることのない秘酒であり、帝都でも珍重される逸品だった。


「なにもしていもはん」

「わいのことだ、転んでもただで起きらんことくらいわかっちょっ。」

「だとしたらどうなのじゃっとな?」

「なにもせん。長げものには巻かれるだけだ。そいがシャンタルメリューだ。」

「じゃんそね。」


グロリアーナは父親から杯を奪い取ると一息に飲み干した。

大振りな金の杯にまだずいぶん残っていた火酒は、グロリアーナの口を通って、胃の腑を焼いた。


「ほんのこて、シャンタルメリューの男はなさけんね。」


グロリアーナはふっと、酒精の混じった吐息を吹き出すと爪で金の杯をチンチンと弾いた。

グロリアーナはシャンタルメリュー一族の中で一番酒が強い。


シャンタルメリュー家は酒豪で知られている。

つまり、グロリアーナは恐らく帝都で一番酒が強かった。


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「ミヒャエル様お久しぶりです」


グロリアーナの弟ギュスターブは、タクミを見て。

つまり、俺を見てミヒャエルだとすんなり信じたらしい。


グロリアーナと同じ、赤髪に深い茶色の瞳。

ただ、グロリアーナと違って人懐っこい笑顔が常に口の端からこぼれている。


同性からも異性からも、年上からも、年下からも好かれるタイプだ。


「久しぶり」


ぼろが出るといけないので、できるだけ、言葉少なくしゃべる。

マリちゃんがミヒャエルの中身が俺じゃないと見破ったのも「マリちゃん」ではなく「マリア」と呼んだことだったらしいしな。


個人の呼び名というのは、十人十色な部分があるから要注意だ。


「元気がないですね?いつものように火酒でもお持ちしますか?」

「いや、長旅で少し疲れただけだよ。それよりあの件はどうだい?」

「もちろん、ミヒャエル様のおかげで順調ですよ」


俺は今一人で、いや、バスコとマリちゃんが表に隠れているが、ギュスターブが使っている離宮にいる。

離宮といっても、シャンタルメリュー家の城からかなり離れた場所にあり、召使いも数人しかいない。

もともとは、シャンタルメリュー家の人間が、病人が療養するために作った建物だそうで、広いものの、設備は最低限。調度品も簡素なものが多い。


その代わり、兵士もいないし、周辺は木々に囲まれていて、バスコたちが潜むにはもってこいの場所にある。


「で、ずいぶん変わったお客が来ているね」


ギュスターブはチッと舌打ちをした。


「ええ、姉上が何を企んでいるのかわかりませんが、おいの邪魔はさせもはん」


ギュスターブはグロリアーナと違って、感情が高まるとずいぶん訛りがでるっぽい。


案内された部屋には、フラスコにビーカー、ガラスの筒など、おおよそ法術とは無縁の文物が並んでいた。

というよりも、帝国の中でもなかなかお目にかかることがないものばかりだ。


ギュスターブの咳払いで、俺たちに背を向けていたローブの男が振り返った。


「おや、ミヒャエル殿、もとの逞しい体を手に入れたのではなかったのですか?」


ペロリと唇をなめた、この男色家の顔に俺は見覚えがあった。


「いろいろあってね。」


錬金術師のフランシス。

ギュスターブは俺がミヒャエルの体を手放したことを知らなかったらしい。


「すると、先ほどシャンタルメリュー領に来ていたミヒャエルは…」

「替え玉だろ。」


ギュスターブの頭に血の登る男が聞こえた。気がした。


「うんだもしたん。あんにせもんを叩き…叩ききっちょんど!!」


ぶちぎれたギュスターブを見て、フランシスは「えーーー」って顔をしていた。

「なにいってんだこいつ」と小さな声でしゃべるのが聞こえた。


「おい、ギュスターブ。落ち着け」

「こいが落ち着いていらるっか!」


ギュスターブは腰の剣を抜いてドンッと机に突き立てた。


「あのがんずたれを…うりゃ?」


いい加減耐えきれなくて、俺はギュスターブの後頭部を鉄パイプで思いっきり殴りつけていた。

ギュスターブの頭がスイカだったら、食べるところもないくらい、さんざバラバラになっていただろう。


ギュスターブは少しの血を流しながら、ばったーん。と床に倒れた。


「…やはりあなたでしたか」

「おう久しぶり、おらミヒャエルだ!!」


フランシスははあっ、とため息をついた。


「お久しぶりでございますねタクミさん」

「あれ、知ってるの?」

「知ってるもなにも、あなたのお陰でずいぶんミヒャエル様からお仕置きされましたからね…」


フランシスが恨めしそうに俺の顔を見る。

ローブをめくりあげた腕には痛々しい鞭の跡が見える。


ムンディーの一八番を身に着けたあのサイコサドにやられたんだろう。


「悪かったってば」

「謝って済むもんだ…」

「おーい。バスコ、マリちゃーん」


多分、ペルペチュコが知らせたんだろう。

壁が吹き飛び、壁に空いた穴からマリちゃんが顔を出した。


「タクミさん!!出入りですかっ!?」

「おう、マリちゃん。バスコを呼んでくれ。こいつらふんじばって連れてくからさ」

「了解ですっ!」


うんしょうんしょと穴から出ようとするが、壁は意外と丈夫だったらしい。

穴が小さいのもあるし、マリちゃんのお乳がおっきいのもある。

つまり、マリちゃんは胸の部分を詰まらせたまま、引っかかってしまった。

エロ同人みたいに。


バスコは幸いにしてというか、マリちゃんのお尻には興味がなさそうに、壁を蹴り込んだ。

蹴り込んだ足は、そのまま壁に穴をあけ、バスコの足はそのまま宙に浮いてしまった。


「ぬうっ、かくなる上はこの足ごと…」

「馬鹿なことを考えんじゃねえよ。魔力発破エーテルブトゥーム!!」


加護をもっていたマリちゃんは無事。

バスコは少しダメージを受けた状態で吹き飛んだ。


「ほら行くぞ。フランシス、ギュスターブもせおって。って。ギュスターブ?」


頭から血を流して倒れていたはずのギュスターブがいなかった…

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