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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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シャンタルメリュー家当主との面会じゃけえ!

「意外とばれないものですね」


マリアは俺の顔をぺたぺたと触っている。


「まりちゃん、あんまり触ると顔が崩れちゃうからさ」


そう、俺は今ミヒャエルに扮してシャンタルメリュー領に入った。

シャンタルメリュー領はへき地。

そして、シャンタルメリュー家の当主ディオールエサンス・ヴォン・シャンタルメリューも俺が当主になったときの就任式にも来ていない。


つーまーり。

ミヒャエルになりすまして好き勝手できるってことだ!


万が一、怪しまれたとしても、こっちにはグロリアーナ、マリちゃん、バスコがいる。

爵位でごり押せば何とでもなるのだ。


まあ、この面々がいる中でミヒャエル(自称)に「あんた本物?」なんて聞けるわけがないしね。


「案外いい考えかもしれませんわ」


グロリアーナが言うには、弟のギュスターブがミヒャエルと手紙のやり取りをしていたのは、数か月前から。

本物のミヒャエルとは会ってはいない可能性が高い。


そこで、俺がグロリアーナと立てた作戦は…

まず、タクミの姿でギュスターブに近づく。


ギュスターブが勝手にミヒャエルだと勘違いしてくれるならよし、俺の姿にピンと来ないようならそれもそれでよし、

そしたらミヒャエルになりすまして再度近づくだけだ。




で、俺たちは今シャンタルメリュー家の大広間に通されている。

広間には、グロリアーナ、俺、マリちゃん、バスコ、それからメイド服を着たペルペチュコが後ろに控えている。

「ちと小さいのが気になるな」

「モンタグート様、申し訳ございません。上げ底の靴は用意したのですが、こればかりは何とも…」


バスコに頭を下げているのは、ペルペチュコだ。

俺がミヒャエルになるための変装をしてくれたのもペルペチュコだ。

やはりとは思ったけど、あの気持ちの悪いパン屋はペルペチュコの変装だったらしい。


ラータとの戦いの後、闇ギルド界隈に俺たちの情報が闇ギルドに出回ったらしい。

ギルバートからの情報と、裏社会の情報を合わせて、ようやく俺を見つけたと言っていた。

ただ、ミカエラと名乗っていたうえ、素性のまったくわからないフェルナンド、それから妙に腕の立つガート。

2人の素性を調べるのに少し時間がかかってしまったという。


パン屋に扮したのはペルペチュコ曰く“人前で目立たないための配慮”だというが、めっちゃ怖いからね。

「首に針が刺さったときには死んだかと思いました…」

とちょっと涙ぐんでいた…



「仕方ないよ。ペルペチュコが良くやってくれたから顔は完璧にできたわけだしね」

「ミヒャエル様…」


ペルペチュコもマリちゃんもバスコも、“ミヒャエルの外見”をした俺との付き合いのほうが長いから、ちょっと距離感がわかっていない。


「で、モンセラートはどうする?」

「それなんだよね…適当な剣でもばれないとは思うけど…」


ガルシア家の宝剣「モンセラート」。

おれもちょっと使ったことがあるけど、すごくいい剣だった。

鉄器創造で作った剣で満足できないのもあの剣を最初に使ったからだろう。


帝国内には名剣を記載した「帝国刀剣録」が発行されている。

刀剣だけじゃなくて、槍や弓などの武器が挿絵とともに記載されているもので、簡単な加護なんかも書いてある。


一応、マリちゃんがそれっぽい剣を用意してくれたが、鑑定士か“鑑定”に関する加護を持つ人間が調べたら一発でばれるといわれた。


「ミヒャエル様。マリアのフィダルゴブラッキーを使いますか?」


マリちゃんがよそいきの笑顔でシャベルを差し出してくれたが、使うわけねえだろ。


「てか、そのシャベルどこにしまっていたの?」

さっきまでもってなかったよね?


「ふふふ、女には隠すところがいくつもあるんですよー」

「それ意味わかっていってる?」

「しっ!静かになさいませ」


グロリアーナがマリちゃんの膝を扇でぴしゃっと叩く。

ラビオルスではなくて普通の絹と銀でできた扇だ。



扉が開き、髭を蓄えた恰幅の良い貴族の男が現れた。

微笑んではいるが、薄くなった頭部には青筋が光っている。

それから、両肩が燃えている。


「…ガルシア殿、モンタグート殿、オラニエ殿。よくおいでくだされました」


バスコとマリちゃんがすっと立ち上がり、俺もあわてて立ち上がる。

「シャンタルメリュー殿!久しいな!」

「ディオールエサンス様、お初にお目にかかりますマリア・デ・フェ・オラニエでございます」


ディオールエサンスがちらっとこちらを見る。


「ガルシア殿、ディオールエサンス・ヴォン・シャンタルメリューでございます」

「ガルシア家当主ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルです」


ディオールエサンスがすっと手で椅子をすすめる。

俺たちが座ると、お茶が運ばれてくる。


シャンタルメリュー領のお茶は真っ黒で少し煙の臭いがする。

保存性を高めるために、薪でいぶした後に壺で熟成させるのだという。

プーアル茶みたいなものかな?


「しかし、驚きましたな。こんなへき地に帝国でも名だたる名家のお歴々にお越しいただけるとは」


表情は依然厳しい。

「お父様、ガルシア様たちはっ…」

「お前は黙っていなさい!家宝を勝手に持ち出して、他領に出るなど言語道断!おまけに…」

「…竜も狩りましたわ」

「あのワイバーンか。ふんっ、立会人のいない狩りなど無効だ!」

「ですから、ガルシア様達にお越しいただいたのではないですか!」


あ、そうなの?

あれって立会人がいないと無効試合なんだ。


「ダニエル・ギランはどうした!」

「ダニエルは怪我をしたので街で休ませております」

「ギランの家のものは皆頼りなかっ!」


後ろで控えていたおじさんがびくっと首をすくめた。

グロリアーナから聞いていたダニエルのお父さんドウェイン・ギランだろう。


「申し訳ありませぬ」

「あん、ずんだれがっ!」


興奮しすぎていよいよ訛りが強くなってきた。


「お父様、ガルシア様達の前ですわよ!」

「むぬうううう。ガルシア殿今日はゆっくりくつろいでくだされ。入用なものがあればドウェインに…」


結局、お父さんの火は消えることがなかった。



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