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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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【閑話休題】シャンタルメリュー領のひと騒動

その日シャンタルメリュー領では、眠ったサラマンダーが目を覚ましたほどの喧騒に包まれた。

領民たちの注目を集めたのは、城下町の大通りを通った壮麗な4台の馬車。


まず先頭を走るシャンタルメリュー家が誇る12頭立ての馬車。

この馬車を領民たちが目にしたのは、シャンタルメリュー家の現当主が伯爵家を継いで以来のことである。



帝国でも12頭立ての馬車は10台もない。

なぜなら、馬、人、馬車のそれぞれに非常に高いレベルが必要とされるからだ。


あたりまえの話だが、馬車は馬を繋いで走る。

馬の体格、性格を合わせ、群舞のように優雅に走らせなくてはならず、馬が増えれば増えるほどコントロールが難しくなるのだ。


体長は約2.5メートル、走るためのスペースを前後1メートル以上取ると、3.5メートル×6台(2頭1列なので)で21メートル。


それだけの長さを完璧にコントロールできる御者。

集中力を切らさずに走れる馬。

わずかな誤差もなく、馬の力を車軸に伝えきる精密機器のような馬車。


それら3つがそろって初めて可能になったシャンタルメリュー家の12頭立ての馬車は、シャンタルメリュー家が良質な馬を大量に有しているということの現れである以上に、優れた軍事力を案ににおわせるものでもあった。



そして、オラニエ家の馬車。

馬は4頭だが、見るものは皆、馬車の壮麗さに目を奪われた。

黄金色の馬車はトパーズと瑪瑙、瑠璃で飾られ、石畳のわずかな凹凸で揺れる際にキラキラと輝いた。


「あれ、1つ落とさないかのう」

老人がつぶやいた。

オラニエ家の馬車につながれた馬には、その馬具、たてがみ、尾、蹄に至るまで、赤子の拳ほどもある金の飾りで輝いている。

大きく揺れるたびに、皆期待に胸を躍らせた。

豊富な地下資源を持つオラニエ家だけに許された贅沢。


そして、オラニエ家が誇る金以上の秘宝「ネロリの君」。

窓からひらひらと手を振る美しい姫を見て、シャンタルメリュー領の男たちは皆ため息をついた。

「美しい」

「手を握りたい」

「お友達になりたい…」

オラニエ家の馬車が通った跡には、シャンタルメリュー領では手に入らない秘伝の香水“ネロリ”の香りが漂った。



そして、次の馬車を見たとき、領民は違う意味で息を呑んだ。


禍々しい黒とぼろぼろの赤の布で飾り付けられた馬車はモンタグート家のものである。

唯一輝いているのは先頭と後部に取り付けられた


帝国で最も悪名高きモンタグート家の馬車。


まるで戦に赴くかのごとく武装した馬車を見て、子どもたちが鳴く声が聞こえた。


そして最後に通った紋のない馬車。

道の両脇で絢爛豪華な馬車を見てため息をついていた民衆はそれを見て、各々の商売、仕事、家に戻ろうとした。


その刹那、女たちは皆足を止め、息を呑み、馬車に群がった。


「ミヒャエル様ああああ!!」

「止まってえええええ」

「「かっこよかねえ…」

「あんたっ!どかんね!ミヒャエル様が見えん!!」

「あげな男衆に抱かれてみたかあ…」


グロリアーナは完璧な意思の力で隠し通していたが、シャンタルメリュー領はその立地から自領の言葉に相当のなまりがあった。


そして、馬車から手を振る美青年。

ガルシア侯爵家の当主、ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルは微笑みつぶやいた。


「まってろよミヒャエル。勝負はこっからじゃけえ」


ミヒャエルの不遜なつぶやきは、女たちの歓声にかき消され誰も聞くものはいなかった。









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