楽しいお茶会じゃけえ!
「頭が痛い…ですわ」
グロリアーナは後頭部をさすりながら、お茶をすすった。
「…奇遇だなグロリアーナ。俺もだ」
俺も違う意味で、頭が痛かったので額をさすった。
バスコは新しいレイピアを抜いて、磨き粉を振っている。
いきなりお行儀も何もないよ…
おおきなたんこぶを拵えたマリちゃんはケーキをむしゃむしゃとほおばっている。
唇がクリームまみれになってずっと動いている。
「がはは、心配するな。ローゼンバウムとは話をつけてある。アドナイアスがな」
「アドナイアスが?」
「ああ、まあミヒャエルが戻る前のことだがな、“手合わせ”ということでかけ試合をしたのだ。その調整を行ったのがアドナイアスというわけだ。」
ああ、北方と南方貴族との雌雄を決するっていうやつか。
「で、お互いの家宝をかけて試合をしてな。当主を引っ張り出すことはできなかったが、まあ勝ちは勝ちだ。」
「エーレンフリートが出なかった?」
エーレンフリート・ラ・ドゥ・ローゼンバウム。ローゼンバウム家の当主にして「剣聖」の加護を持つ剣士。
おそらく、剣の腕だけなら帝国最強だ。
その当主が出なかった。
「まあ、遊ばれたんだろうな」
「アルヴァスシュープリームを取られたのに?」
「アドナイアスの立てた舞台だ。勝っても名誉にならんと思ったのだろう。まあ、いつか汚名をそそぐ機会を設けるのであろうな。」
いやらしい舞台なんだろうな。
こちらが圧倒的不利で、帝国内の貴族が身に来るような舞台を整えるつもりだろう。
剣劇の舞台か・・・
俺も出てみたいな。
でも魔法使えないのならきちいかな?
「タクミも出てみるか?」
「俺?いやいや無理でしょ?」
「どうかな?モンタグート家の門弟の中でも10本の指に入ることは誓ってもいい。」
「いや!10本じゃだめじゃん!!」
バスコは俺のケーキをフォークでずぶりと刺すと一口で食べた。
「もちろん10本指ではいかん。ただ、もう少し鍛錬を積めば。な。」
「まあまあ、せいぜいがんばるよ」
「まあ、いかにローゼンバウムといえども今日明日に行動を起こすまいよ」
マリちゃんが俺のカップに新しいお茶を注いでくれた。
「みひゃ…いえ、タクミさん。マリアはあの…」
「タクミでいいよ。マリちゃん。知らない仲でもないでしょ?」
「タ、タクミさん。あの、マリアはその、あのにっくきミヒャエルとは、今でも許嫁なんです…それで」
マリちゃんは、下唇を噛んでぎゅっと手を握った。
マリアの実家は帝国でも有数の名家だ。
そして、ミヒャエルの家は帝国でも3本の指に入る超超エリートだ。
その2家の婚姻となれば、国が関わる問題だ。
こればかりは感情やマリちゃんの思いだけでどうにかなるものではない。
「マリちゃんさ。俺はどうでもいいよ。お父さんのことも知ってるし」
「…マリアはミヒャエルの所に戻ります。ミヒャエルを倒すために」
マリアはぐっと拳を握った。
こらえきれない涙が目じりに溜まっていく。
目じりに溜まった大粒の涙は、耐えきれなくなって、頬を伝い落ちた。
「マリちゃん。それはだめだ。自分を犠牲にしちゃいけない。これは俺とミヒャエルをの問題なんだ」
「いえ、マリアは自分のためにミヒャエルを倒すのです」
バスコがマリちゃんの肩をポンと叩く。
「よく言ったぞモグラ娘!!貴様の新年には感服した!俺も手伝うぞ!」
「…いや、一人でやるゆうとるやん」
「がっははは、気にするな。敵は大きければ大きいほうが良い!モンタグートの剣がどれだけ通用するのか見せてくれるわ!」
モンタグートはアルヴァスシュープリームをひゅんと抜くと、机に突き立てた。
「きゃああああ!お父様が先代皇帝陛下にいただいたテーブルがあああっ!」
マリちゃんが泡を吹いて倒れた。
「オラニエ殿っ!しっかりなさいませ」
グロリアーナがマリアの肩をゆする。
「しかし、ただミヒャエルと戦うといっても戦力差は歴然ですわね…」
「ああ、グロリアーナをシャンタルメリュー家の当主にすること。ミヒャエルの企みを暴いて、ローゼンバウムと手を組むこと。それができないと、俺はすっかり詰む」
「シャンタルメリュー領に行くのか。では、俺も行こうか…」
「来るな。怪しまれんだろうが」
「どうしても、ダメか?女の格好をしてもよいぞ?」
「ばけもんじゃねえか!」
筋肉隆々の男がドレスを着て、剣を振るう。
あっという間に悪夢の出来上がりだ。
俺がげんなりして、お茶をすするとマリアが頬を赤らめて言った。
「タクミさん。マリアはタクミさんが男性のお姿になるのも素敵だと思います…」
男装ねえ。
剣を使うならそのほうがいいかも。
…男装
……男装
だんそう!?
「マリちゃんそれだ!」
俺がマリちゃんに耳打ちすると、マリちゃんはぶぼっ!と鼻血を出して倒れた。
「帝都の貴族も極まれりですわ…」
グロリアーナはケーキのクリームを指ですくって口に入れた。




