再び会う日まで!じゃけえ!
馬車の揺れを感じ続けて1週間、途中立ち寄った街で馬を替えたり、休ませたりした以外はほぼ交代でぶっ通しで移動をしてきた。
「…お尻切れそう」
「タクミっ!お行儀が悪いですわよ!」
「俺はちょっと切れた…」
フェルナンドはちょっと腰を浮かしている。
「ちょっとやめてよ!」
グロリアーナもげんなりしているけど、かろうじて姿勢は保っている。
シャンタルメリュー領まであとちょっと。
俺たちはハルメンソーン領にたどり着いた。
「ラータ達いるかな?」
「闇ギルドの人間か?俺らも大分ペースを上げたからな。さすがに間に合っていないと思いたいが正直いても驚かん。」
フェルナンドは座るのをあきらめて寝転んでいる。
俺はグロリアーナが悔しそうな顔をしているのを無視してフェルナンドの隣に腰かけた。
「次は勝てるかな?」
「何もない平地で夜だったら勝てるかもな」
「街中は?」
「俺とガート、それからあのガキが一緒でも勝てるかはわからん」
「だよね。さっさと街を抜けようか」
城壁の中に入ると、俺とフェルナンドは食料を買いに、グロリアーナとガート、ダニエルは替え馬を買いに馬屋に行くことにした。
「なあ、フェルナンド。乾パンに干し肉っていい加減飽きたよね?」
「馬車で料理をするわけにもいかんからな。俺は生肉でもいいが、タクミにはちょっと厳しかろ?」
「それがさ、今日ステーキ食べる夢を見たときにいいこと思いついたんだ」
「神代遺産じゃないだろうな?あれは駄目だぞ?グロリアーナのことは信頼しているがあれは帝都でも有数の法具だ。闇ギルドに追われているかもしれん時にリスクは負いたくない」
「それは理解してるよ。俺が思いついたのは違う方法。危険もなくお肉を焼けるんだ。」
「そうか、それは楽しみだな。」
フェルナンドはくるっとUターンすると、お肉屋入っていった。
牛肉はちょっと高かったので、結局買ったのは豚肉の肩ブロックだったけど、新しくておいしそうだ。
「しかし、シャンタルメリュー嬢と一緒だと金を使わなくていいな。」
「安心するなよ、グロリアーナはその分働かせる女だぞ。」
グロリアーナは世間知らずだけど、馬鹿じゃないからな。
この前も俺と食料の買い出しに行ったとき、相当値切ってたからな。
「ちょっと、このパン焼き目が均一じゃありませんわ!ほら、ここよ!あなたおいくつ?そのお歳だと10年はパンを作って生計を立ててらっしゃるんでしょう?」
「グロリアーナってば。別に高いわけじゃないし…」
「それとこれとは話が別です!あなた10年もパンを焼いてきて、これまで何を学んできたんですの?」
あんまり、どぎつく値切るもんだからパン屋のおっちゃんも最後は涙目だった。
「それはかわいそうにな」
油紙で包んだ肉の塊を抱えたフェルナンドが眉をしかめる。
「あとで、いくらか包んで渡しておいた」
「そうか、いいことをしたな」
俺たちの背後から声がした。
「あの時はありがとうございました。」
瞬時に飛びのいたフェルナンドは、豚肉の塊を放り投げ、2刀を抜いた。
俺は、鉄器創造で剣を作り構えた。
「何者だ?」
「あのときのパン屋ですよ。大層なお気遣いをいただいたのでお礼にまいりました」
「んなわけねえだろうが、あれは2日前だぞ?」
「追いかけてきたんですよ。お嬢さんに会いたくてね…おっと、お嬢さん麻痺毒は良くない、あれは訓練次第である程度耐えられますからな」
自称パン屋のおっさんの首に突き立った針には麻痺毒をたっぷり盛ってあったが、おっさんは平気な素振りで引き抜いた。
「フェルナンドさんとおっしゃいましたかな?刀を納めてもらえませんか?私は本当に戦いに来たのではないのですよ。ただ、ちょっとお伝えしたいことがございましてねえ」
「お伝えしたいこと?」
「私共の主があなたがたにお会いしたいとのことです。」
「俺らに用はないんだけどな。」
「主もそうおっしゃるだろうと。それで、これをお見せするようにと」
パン屋は袋から、見覚えのある扇子を取り出した。
シャンタルメリュー家の宝物、唇。
「お前ら、グロリアーナ達になにをした?」
通りがシンと鎮まる。
石畳には一切の音が響かず、みんな俺たちのほうを見ている。
誰も道を歩いていない。
「タクミ、殺気が洩れすぎだ。抑えないと人死にがでるぞ?」
パン屋のおっさんも顔面蒼白になって俺を見てる。
ちょっと唇が紫になり、震えている。
「お、おじょうさん。一緒に来ていただけないでしょうか?たのっ、頼むから…来て…くだひゃいいいい」
なんか、パン屋のおっさんがぶるぶる震えているのをみて、やる気が失せた。
「いいよ。こいつ殺してもグロリアーナは帰ってこないし。連れていけ」
「こちにゃの、こちらの目隠しを…」
「はいはい」
パン屋のおっさん(仮)が手渡した目隠しをして、通りかかった馬車に乗り込んだ。
土地勘もないうえに、目隠し、あとなんかの法術か加護で音が消されているみたいだ。
全然、どこを走っているのかわからない。
普通なら、パン屋のおっさん(仮)は俺の持っているゴージャスな加護を知らないのか。
まあ、知っているわけないんだけど。
俺たちを載せた馬車は、ずっと街中をぐるぐるまわっている。
走っている時間で場所を悟らせないようにしたのかな?
無駄なのに。
ちょっとは落ち着いたものの、俺はまだちょっと怒っている。
「ちょっと懲らしめてやろうかな」
トリゴの耳に竹ぐしを刺して、ラータの顔の皮をはぎとる想像をしていた時。
隣に座ったフェルナンドの手が俺の手を握った。
「…ありがとう」
フェルナンドの手はそれに応えるかのように、再度俺の手を握った。
「お二人さん、お熱いところ申し訳ないのですけど、降りていただけますか?」
「うっせえ」
俺は目隠しを外して、馬車を降りた。
パン屋のおっさん(仮)はすっかり気分が良くなったらしい。
顔色がいいし、俺たちが出会った時のようなニタニタした笑みを顔に浮かべている。
馬車は街の真ん中にある屋敷の庭に止められた。
真っ白な壁が目立つ大きな屋敷だ。
ガルシア城とは違っていかにも街中の貴族の屋敷って感じのたたずまいだ。
庭もよく手入れされているし。
「ラータとかいう女。あいつは何者だ?」
フェルナンドの質問に答えず、屋敷から出てきた老人が手を振った。
「こちらへ」
俺たちが通された屋敷はごくごく普通の貴族の家。
すれ違うメイドたちを加護で調べてみるが、刃物一つ隠し持っていない。
家の中からも殺意は感じない。
「フェルナンド」
「…ああ、この屋敷からは血の匂いを感じない。」
フェルナンドは加護「天舌地耳」のおかげで動物並みの5感を発揮できる。
歩いている間中、ずっと鼻をスンスンさせていたので、俺は肘でフェルナンドをつついた。
「おい、怪しまれるぞ?」
「いや、ちょっといい匂いがしたもんだからつい…」
「お菓子でも焼いてるのか?」
「まあ、そんな所だ」
後で、聞いた話になるのだがフェルナンドは汗フェチらしい。
俺はしばらくお風呂に入っていなかったから…
まあ、そういうことだな。
「皆さま。お客人をお連れいたしました。」
「ご苦労様でした。」
「早かったな。2、3人は死人が出るかと思ったぞ」
部屋の中からは、聞き覚えのある声がした。
「…やあ」
「ミヒャエル様!!」
ドアを開けた瞬間俺に飛びついてきた金髪の美女。
それから、部屋の奥で一人だけ酒をあおっている片腕の大男。
久しぶりに会った”ネロリの君”からはとてもいい匂いがした。




