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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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蟲蟲蟲じゃけえ!

窓の外から見える街はいたるところに蟲が溢れていた。

建物の屋根にも壁にも、部屋の中にも…


「ええええ!」

「どうされます?あなた一人なら逃げることもできるでしょうね?けど、街の人間は全員死にますわよ?」

「他人事みたいにいうなよ。てめえが殺すんだろうが」


やばい。この女はやばい。

バスコ、ローゼンバウムも強いし、アドナイアスもすごかったけど(法術院の最優秀生徒だったらしい)この女は別格にやばい。「世界で一番敵に回したくない女」だ。


一か八かでラータを殺せば、蟲たちも散るかもしれない。

けど、トリゴがいる限り、蟲が動く前にラータを殺すことは不可能だ。


「…ダメっ…」

壁に叩きつけられたグロリアーナがラビオルスを握りなおす。

トリゴが動こうとするもラータが制した。


「やめておきなさい。何もできませんわ」


グロリアーナはラビオルスを開いた。

火霊奔流サラマンドラストリーム


一瞬の閃光が宙を舞い。俺の前髪を少し焦がして、ラータとトリゴを炎を覆う。

俺も火霊奔流サラマンドラストリームは使えるけど、グロリアーナの精霊魔法は威力が1桁違った。

白色の炎はあたかも質量があるかの如く威力で部屋を薙いだ。

ラータ達を通り過ぎると、壁に穴をあけ部屋の大気の半分を持って行った。


「やったか!?」

「…タクミ、それは相手を仕留め損ねた雑魚がいうセリフですわ」


ラータとトリゴがいた所に真っ黒な塊があった。

塊は少しずつ、崩れていき、その中からラータとトリゴが姿を現した。


崩れたものは蟲だった。

ラータとトリゴは全くの無傷、髪の毛一本焦げてはいなかった。


そもそも、この部屋にいた蟲はグロリアーナがすべて燃やしたはず。

ラータがどこかから出したのか?

床を通り抜けた?蟲を作り出した?空間を繋いだ?


「…で、お返事はいかがかしら」

「あなたをぶち殺すというのはいかがでしょう?」


やばい。グロリアーナもキレた。


「じゃあ、俺はお茶を淹れてくるよ!うん!」

「…タクミ、殺しますわよ?」


グロリアーナの髪が赤く光り、背中の入れ墨がキリキリ痛む。

「うそだってば」

「あらあら、楽しそうだこと」


グロリアーナが放った炎がラータを包む。

もちろん、蟲には阻まれたが、威力はさっきよりも上がった気がする。

トリゴはグロリアーナを睨んだまま動かない。


俺は目を離さなかったが、トリゴがその気になったら一瞬でグロリアーナはやられるだろう。

「…グロリアーナ。お前、遊ばれてんだぞ?」

「わかってますわ!!だから腹が立つんでしょう!!」


グロリアーナはちょっと泣いていた。

帝都でミヒャエル(の中身が俺)のときは、自分よりも格上の貴族だったから我慢もできたんだろうが、昨日はワイバーンを小汚い庶民(俺とフェルナンドとガート)に横取りされて、ぼこぼこにされるし。

今日は今日で、闇ギルドの連中が割り込んできて遊ばれる。


そりゃあ、四伯爵家のお嬢様がそんな目にあったら泣くよな。

俺もかわいそうになってきたもん。


「ねえ、降参してくれないかしら?悪いようにはしないわ?それに街もこんな状況だし…」

「あ」


忘れてた…


「いまいち緊張感がないわね?こうしないとわからないかしら?」

ラータは微笑んでいるが、すこし声の調子がいら立っているように感じる。


「きゃああああああああ」

家の外から悲鳴が聞こえた。


「何をしましたの?」

「2、3人エサにしたら真剣になっていただけるでしょう?」


蟲がラータの足元に集まり、塊になった。ラータは腰かけて膝を抱えた。


「やめとけよ?」

「いやです。あ、あなたがいっしょに来てくれるのかしら?」

「行かねえってんだろうが!」


俺は、グロリアーナの手をつかんで、壁に空いた穴から外に出た。

出た。と言ったものの外に飛び降りただけだ。


「お放しなさいって!」

「うっさい!舌噛むぞ!重力変化!」


地面に着く間際の、ほんの一瞬だけ、俺とグロリアーナの体重が0になる。

もうちょっと持続させたいけど、習熟度が(Ⅹ)あっても、これが精一杯だ。

重力変化は重くするも、軽くするも、もともとの重さをどれだけ重く、軽くするかが習熟度に比例しているらしい。


習熟度が最大でも100キロ程度の物体を一瞬だけ重さを無くすか、剣や拳に100キロ程度の重さを載せるかくらいが精いっぱい。重さを減らせば持続時間は短くなるけどね。


地面に降りた俺たちに向かって蟲が群がってきた。

火霊奔流サラマンドラストリーム


グロリアーナが周辺の蟲を焼き払うが、数が多すぎる。

焦げた蟲を乗り越えて新たな蟲が近づいてくる。


「グロリアーナ。俺、死ぬかもしんないけどゴメンな」

「はい?」

「天候魔法。龍神降雨ナーガールジュナ・バレーション‼」


俺は体から魔力がみるみる抜けていくのを感じた。

寒気と吐き気を感じながら、グロリアーナの赤い髪から光が消えるのが見えて俺は気を失った…







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