蟲蟲蟲じゃけえ!
窓の外から見える街はいたるところに蟲が溢れていた。
建物の屋根にも壁にも、部屋の中にも…
「ええええ!」
「どうされます?あなた一人なら逃げることもできるでしょうね?けど、街の人間は全員死にますわよ?」
「他人事みたいにいうなよ。てめえが殺すんだろうが」
やばい。この女はやばい。
バスコ、ローゼンバウムも強いし、アドナイアスもすごかったけど(法術院の最優秀生徒だったらしい)この女は別格にやばい。「世界で一番敵に回したくない女」だ。
一か八かでラータを殺せば、蟲たちも散るかもしれない。
けど、トリゴがいる限り、蟲が動く前にラータを殺すことは不可能だ。
「…ダメっ…」
壁に叩きつけられたグロリアーナが唇を握りなおす。
トリゴが動こうとするもラータが制した。
「やめておきなさい。何もできませんわ」
グロリアーナは唇を開いた。
「火霊奔流」
一瞬の閃光が宙を舞い。俺の前髪を少し焦がして、ラータとトリゴを炎を覆う。
俺も火霊奔流は使えるけど、グロリアーナの精霊魔法は威力が1桁違った。
白色の炎はあたかも質量があるかの如く威力で部屋を薙いだ。
ラータ達を通り過ぎると、壁に穴をあけ部屋の大気の半分を持って行った。
「やったか!?」
「…タクミ、それは相手を仕留め損ねた雑魚がいうセリフですわ」
ラータとトリゴがいた所に真っ黒な塊があった。
塊は少しずつ、崩れていき、その中からラータとトリゴが姿を現した。
崩れたものは蟲だった。
ラータとトリゴは全くの無傷、髪の毛一本焦げてはいなかった。
そもそも、この部屋にいた蟲はグロリアーナがすべて燃やしたはず。
ラータがどこかから出したのか?
床を通り抜けた?蟲を作り出した?空間を繋いだ?
「…で、お返事はいかがかしら」
「あなたをぶち殺すというのはいかがでしょう?」
やばい。グロリアーナもキレた。
「じゃあ、俺はお茶を淹れてくるよ!うん!」
「…タクミ、殺しますわよ?」
グロリアーナの髪が赤く光り、背中の入れ墨がキリキリ痛む。
「うそだってば」
「あらあら、楽しそうだこと」
グロリアーナが放った炎がラータを包む。
もちろん、蟲には阻まれたが、威力はさっきよりも上がった気がする。
トリゴはグロリアーナを睨んだまま動かない。
俺は目を離さなかったが、トリゴがその気になったら一瞬でグロリアーナはやられるだろう。
「…グロリアーナ。お前、遊ばれてんだぞ?」
「わかってますわ!!だから腹が立つんでしょう!!」
グロリアーナはちょっと泣いていた。
帝都でミヒャエル(の中身が俺)のときは、自分よりも格上の貴族だったから我慢もできたんだろうが、昨日はワイバーンを小汚い庶民(俺とフェルナンドとガート)に横取りされて、ぼこぼこにされるし。
今日は今日で、闇ギルドの連中が割り込んできて遊ばれる。
そりゃあ、四伯爵家のお嬢様がそんな目にあったら泣くよな。
俺もかわいそうになってきたもん。
「ねえ、降参してくれないかしら?悪いようにはしないわ?それに街もこんな状況だし…」
「あ」
忘れてた…
「いまいち緊張感がないわね?こうしないとわからないかしら?」
ラータは微笑んでいるが、すこし声の調子がいら立っているように感じる。
「きゃああああああああ」
家の外から悲鳴が聞こえた。
「何をしましたの?」
「2、3人エサにしたら真剣になっていただけるでしょう?」
蟲がラータの足元に集まり、塊になった。ラータは腰かけて膝を抱えた。
「やめとけよ?」
「いやです。あ、あなたがいっしょに来てくれるのかしら?」
「行かねえってんだろうが!」
俺は、グロリアーナの手をつかんで、壁に空いた穴から外に出た。
出た。と言ったものの外に飛び降りただけだ。
「お放しなさいって!」
「うっさい!舌噛むぞ!重力変化!」
地面に着く間際の、ほんの一瞬だけ、俺とグロリアーナの体重が0になる。
もうちょっと持続させたいけど、習熟度が(Ⅹ)あっても、これが精一杯だ。
重力変化は重くするも、軽くするも、もともとの重さをどれだけ重く、軽くするかが習熟度に比例しているらしい。
習熟度が最大でも100キロ程度の物体を一瞬だけ重さを無くすか、剣や拳に100キロ程度の重さを載せるかくらいが精いっぱい。重さを減らせば持続時間は短くなるけどね。
地面に降りた俺たちに向かって蟲が群がってきた。
「火霊奔流」
グロリアーナが周辺の蟲を焼き払うが、数が多すぎる。
焦げた蟲を乗り越えて新たな蟲が近づいてくる。
「グロリアーナ。俺、死ぬかもしんないけどゴメンな」
「はい?」
「天候魔法。龍神降雨‼」
俺は体から魔力がみるみる抜けていくのを感じた。
寒気と吐き気を感じながら、グロリアーナの赤い髪から光が消えるのが見えて俺は気を失った…




