お見合い希望じゃけえ!
「妻が欲しかった・・・」
男の頬に涙が浮かんだ。
体に毛布を巻き付けて、俺は男に向き直って座った。
「妻って俺を?俺を?なんで?」
「あんた、ムンディ領であのミヒャエルとやりあった女だろ?化粧はしてるし、ずいぶんあか抜けてフンイキも変わったけど俺にはわかった・・・」
「・・・グロリアーナ、こいつの短剣を抜いてもいいか?」
「勝手になさいまし」
グロリアーナは俺がさっきまで座っていた椅子に腰かけて顔をあおいだ。
「ありがとう」
「なによ気持ちの悪いこと」
俺は、男の手に刺さった短剣を一度に引き抜いた。
じわじわ引き抜くと痛いと思ったから、せめてもの思いやりだったんだけど…
「ぎゃあああああああ」
傷口をさらに切り開いたみたいだ。
「・・・ごめん」
「なにをしていますのよ!」
グロリアーナは唇を手に持ち、男の手に押し当てた。
「うぎゃあああああああああああああ」
「…他意はありませんわ。後で治療師を呼びますから」
いや怖いって、「応急処置ですわ。痛かったですわね、我慢してくださいませ」ぐらい言えよ。
俺も、治療系の加護も魔法も使えないからな。
今後、いろんな荒事もあるだろうし、応急処置くらい覚えておきたいな。
そうなると、ガルバリウスの実家から加護をもらわないといけないんだろうけど、難しいかな。
治癒系の加護は帝国の中でもトップクラスの取得難易度だ。
取得難易度が高い理由は、その有能性はもちろんだが、帝国が国を管理するための手段としても使われているからだ。
治癒系の加護は、いくつか種類がある。
・薬師
・外傷の治癒師
・病気の治癒師
・再生の治癒師
・蘇生の治癒師
それぞれ、見習い、親方、範士と3段階に分かれている。
ガルバリウスでさえ、親方級治癒師にしかなっていない。
範士は各分野において3人のみ、よほど才能がある人か長年の経験がある治癒師でしかなれない。
そして、それぞれの治癒師は領地によってその人数が決められている。
大抵の領地には親方級の治癒師しかいなくて、あのガルシア家ですら範士の治癒師はいなかった。
範士の治癒師は自領のほかには、帝都とリリエンタール家にしか範士はいない。
とてもじゃないけど、俺の出る幕はなさそうかな…
特に魔力が強かったり、筆記ができたりしたら、治癒師の学院に入学できるらしいけど、在学期間は6年。
ちょっと長いよね。
かといって加護だけもらうというのもできそうにないから、薬草の知識を覚えておいて、あとは傷口を縫うとかそういうことを身に着けたほうがいいかも。
幸い、裁縫に関する加護はあるから致命傷じゃないかぎりなんとかできるようにしたいな。
練習はできないけど…
…
……
………あ
「なあ、俺が傷口縫ってやるよ」
男が驚いて俺の顔を見た。
「え、あ、あの…」
「遠慮すんなって」
俺は、部屋にあった裁縫道具から針と赤い絹糸を取り出した。
赤い絹糸は俺のドレスの仮縫いに使ったもので、木綿よりは痛くないかなと思って使った。
男の傷口は炭になりかけていて、針を通すとそのまま崩れてしまいそうだったので、実際に塗ったのは、血がまだ染み出している「レア」の部分だけになった。
「でさ、なんで俺と結婚したいと思ったんだ?」
「俺は、人間じゃない…」
「ん?」
「見てわからないか?俺は、コボルトと人間のハーフだ」
男の顔に刻まれたしわから、俺はてっきり老けた中年かと思っていたが、よく見ると、鼻は人間のそれよりもずっと高いし、耳もとがっている。
「こう見えても俺は24歳だ」
「…うそん」
「嘘じゃねえよ、コボルトはみなこうだって」
「まあ、嘘ついてもしゃーねーよな。で?」
「5年前、俺の家族と200人の村人たちはミヒャエルに殺された…」
男の顔が悔しそうに歪む。
俺はグロリアーナの髪が一瞬赤く光ったのを見た気がした。




