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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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とんだ横やりじゃけえ!

「ぎゃあああああ」


小男の手の甲に突き刺さった短剣を、グロリアーナはすっと指さした。

すると、男の手が下にさがり、床についたままピクリとも動かなくなった。


どうやら短剣には重力を増す加護か、そういった類の効果が付与されているらしい。


「あの、グロリアーナ?」

「見なさい、これよ」


短剣の突き刺さった手を覆っているローブをつま先でめくる。

男の腕には、バンドで止められた小さな革製の小袋とそこから伸びた管があった。

革の小袋は、兵士や狩人が使う水筒に似ている。

管は、動物の気管や大きな血管などを使って作ったものだろう。


「大方このチビの血液が入ってるのでしょ。私の宣誓に合わせて小声で話せば、あなたを”所有”することができますもの」


背筋がぞわっとした。

隷属の入れ墨に入れるときに発した言葉はシャンタルメリューやグロリアーナに関するものだったが、男がもし小さな声で別の宣誓を話していたら…


俺の貞操どころじゃない。

文字通りこの男にすべてを奪われ続けるところだった。


グロリアーナは、短剣の柄を踏みつけて男の顔を隠しているフードをめくった。

痛みのあまりに、浮かんだ苦悶の表情を別とすれば、男の年は40代後半。髪はずいぶん薄いが小太りで血色が良い。

食うや食わずやといった環境で暮らしているわけではなさそうだ。


「どうかしら?ガルシア家で見覚えはある?」

「ないな。大体こんなに背が低かったら絶対覚えているだろうし」

「・・・わたくしも知りませんわね」


グロリアーナは指の先に火をともした。

精霊魔法ではなく、純粋に炎を操る加護を使用しただけだ。


「お話したいことは今ならまだ伺いますわよ?」


男はずっと黙っている。

ただ、黙っていると自分に何が起こるのか、くらいは察しているらしい。


「なあ、グロリアーナ。隷属の入れ墨ってまだ終わらないのか?」


グロリアーナが短剣を男の手に差してから30秒ほどたった。

俺もいきなりのことで忘れていたが、俺の背中は今血まみれで小刀が突き刺さっている。


我に返ると背中がめっちゃ痛い。

ムンディー領でミヒャエルと戦った時、鞭で背中をたたかれたことがあった。

最初に来るがつんとした衝撃、そのあとに来る、皮膚にしみこむような苦痛が今、俺の背中にある。


グロリアーナは男の顎をつかんだ。

すべての指に炎を灯し、男の頬には焦げたあとが5本ついた。


「…さっさと終わらせなさい」


小男は短剣を抜こうとしていた手を放し、俺の背中に瓶に入った液体を振りかけた。

その瓶はグロリアーナがあらかじめ用意していたもので、

グロリアーナも俺も男のするがままにさせていた。

法術の効果を早め、法術が完結するのを早める効果があるらしい。


「…隷属の固定」


俺の背中の傷が一瞬で固まる。

引きつるような感じはなく、痛みもほとんど残っていない。


「タクミ、効果はいかが?」

「わからないよ。隷属なんてしたことないし」

「試しに、わたくしに悪口でも行ってごらんなさいよ」

「…黒こげブス」


グロリアーナの髪がほんのわずかに赤く光った。

と同時に、俺の背中の入れ墨が熱を持ち、ジュっと背中を焼いた。


「いだだだだだだっ!ごめん!ごめって!」


最後のほうは噛んでしまった。


「…効果はまずまずのようですわね」


グロリアーナが目を閉じると入れ墨の熱が瞬時に冷めた。


「うう。隷属なんてするんじゃなかった…」


俺を無視してグロリアーナは男に向き直った。

「わたくしがシャンタルメリューの人間だと知ってのこと?それともガルシアの手のものかしら?」


小男は黙っていた。

俺にもわかった。


闇ギルドの人間にシャンタルメリューの人間だと名乗ったこと、遠回しにガルシア家と敵対していることを話した。


つまり、グロリアーナは男を生かしておく気がないということだ。


「…妻が欲しかったんだ」

男がぼそっと発した言葉にグロリアーナも俺も驚き、顔を見合わせた。

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