荒事とは江戸の華じゃけえ!
「へっへーん。どーだ」
まだ切り口が濡れて香りをなっている月光草、紐で束ねた薬効のある樹皮、魔物の皮、肉、骨、牙そんなものがギルドのすべての机の上にところ狭しと積まれている。
もちろん、すべて俺らのB級冒険者昇格に必要な依頼物だ。
逆に言えば、これだけの成果を上げなければB級に慣れないということ。
今回はいくつものラッキーが重なって一度に依頼を達成できた。
まず、放置されたままの依頼がたくさんあったこと。これによってもっとも効率よく依頼を受けることができた。また、こちらの依頼では魔物の皮、こちらの依頼には魔物の牙というように1つの狩りで複数の依頼を達成することができた。
もう一つが、ギルバートの協力を最大限借りることができたこと。ギルバートがいなければこれらの荷物を持ち帰るためのアイテム袋を借りることができなかっただろうし。そもそも、依頼達成前にB級昇段という特例を行ってくれたのもギルバートの役割に負うところが大きい。
最後に、不本意だけどグロリアーナと出会えたこと。グロリアーナと出会えたことで、お金を借りることができ、取りそびれた依頼品を市場で手に入れることができた...結構な額がかかったので、市場で買い物していた俺たちはヒヤッとした。
魔物の肉や皮なんかは十分すぎるほど(余った分は市場で売れた)手に入ったけれども、薬草の数が足りなかったり、木の実が揃わなかったりとイレギュラーな事態が結構あった。
もちろん、俺の借金(夜のお姉さん)とグロリアーナから借りたお金は依頼報酬として受け取ったお金で完済できた。
シャンタルメリュー領に行くための旅費を差し引いても結構余裕があったので、俺とフェルナンドは身なりをまず整えることにした。特に俺はグロリアーナの食客という体でシャンタルメリュー領土にいくわけだから、その辺の町娘が来ているような衣服ではいけない。
わざわざ、俺たちの宿に仕立て屋(俺たちの来ている服より100倍高そうな服を着ていた)と一緒にやってきて、俺、フェルナンド、ガートの採寸をさせた。
「寸法と型紙は法術でシャンタルメリュー領最初の町バスティエに送りましたわ。到着した時までにはあなたたちの服ができているはずですわ」
グロリアーナは狩りの装いから、優雅な真紅のドレスに着替えている。
真っ赤な髪を引き立てる、血のような黒い赤の絹地にシンプルな薔薇の銀細工があしらわれた部屋着は動くたびに水が流れるようなさらさらとした音がでる。
「ありがとう。で、この格好は?」
グロリアーナに案内された服屋、俺はひらっひらのドレスを着させられていた。
もちろん、ガートとフェルナンドは留守番だ。
「ええと、やっぱり黒髪にはピンクのドレスはいまいちですわね...やっぱり赤とか」
「いえ、ブルーも捨てがたいですわ!」
店主のアナスタシアが両手いっぱいにドレスを抱えてやってきた。
このアナスタシア、本名をアナスタシア・ティアニーといい。あの、ジーン・ティアニーの親戚にあたる。
百合とか薔薇はなかったけど、あのお茶館と雰囲気が似ていることからも血のつながりを感じた。
「おれ、グロリアーナみたいなシンプルなのがいいな」
このドレスだとフリルが多くて剣も指すことができないし、走ることもできない。
もちろん、汚れる。
「…まあ、荒事担当ですしねえ」
グロリアーナはそう言って紅茶を一口飲んだ。
あれ、淹れたてだったけど熱くないのかな?
ああ、熱耐性の加護がついているのか。猫舌も直るのな。
じゃなくて、荒事?ARAGOTO?あらごと?
「あのさ、俺荒事担当ってこと?」
「もちろん、なんのためにあなた方を連れて行くと思っているの?まあ、本当は、モンタグートくらい連れていきたいんですけど」
「いやいやいや、俺言ったよね?弟の理論法術を見破れるかもって!」
「見破れなかったらどうしますの?」
「どうするんだよ?」
「当主候補が1人になればいいのですわ」
ミヒャエルもサイコサドだったけど、グロリアーナも大概だな。
まあ、俺も人のこと言えないけどさ。考えてみたら俺ってば領主の家とかいくつか潰してるんだもんな。
引くわ。
政治ってみんなサドか。
「いや待って。弟が当主になったらだめなの?そりゃあ加護には差がでるけど、当主じゃない分余計な仕事とか時間もとられないじゃん」
そう、この平和(だと思われる)時代において戦闘向けの加護なんていくらあっても無駄なだけ。
むしろ、責任もなにもない立場のほうが良くない?
お金だって、自由に使える分はそんなにあるわけじゃない。
「ティアニー。少し席を外していただけません?」
「は、はいいっ!」
アナスタシアは一瞬で部屋から出って行った。
額に汗が滴っていたことから、結構焦ってたんだと思う。
そりゃ、帝国の4家のお家騒動だもんな。
引くわ。
「で、なんで弟が当主じゃダメなんだ?」
「…今から言うことは他言無用でしてよ?」
グロリアーナは席を立ち、俺の耳へ近づいた。
「痛い!」
俺の肩に手を当てたグロリアーナが手を引っ込めた。
アナスタシアが俺の肩元にさした、まち針で手をついたのだ。
「おい、アナスタシアは悪くないからな?死罪とか言うなよ」
「…言いませんわよ」
その間はなんだ。
こほんと咳払いしたグロリアーナは俺の耳に手を当ててささやいた。
「弟はガルシア家と通じてローゼンバウム家を乗っ取ろうとしているのです」




