最凶の女コンビじゃけえ!
俺を燃やしかけた糞ビッチ、もといシャンタルメリュー家のじゃじゃ馬。グロリアーナがなぜ、ガルシア領に?
そもそも、貴族が単独で竜狩りをするのって違法じゃなかったっけ?
「以前お会いしたかしら?」
「いいえ、なんとなく…」
グロリアーナの手から火球が飛んだ。
「水霊駁撃!」
俺が放った精霊魔法が、グロリアーナの火球を相殺する。ガートが手を振って怒鳴った。
「なにすんだよ!」
「このグロリアーナ・ヴォン・シャンタルメリューに嘘やごまかしは通じませんことよ?」
「…うっせえなあ、所構わず火の玉を飛ばすじゃじゃ馬ったらシャンタルメリューしかいねえだろうが」
フェルナンドが頭をポリポリかきながら、口に含んだワイバーンの目玉をもにゅもにゅと噛んだ。
「ほれ、ミカエラ水晶体やるよ」
ぷっ、と俺の手の平にビー玉サイズの水晶体を吐き出した。
「きったねえなあ」
ハンカチにくるんで、手の平をガートになすりつける。
「ちょっ、ミカエラってば、なんで、いっつも俺の服になすりつけんの?」
「…女に言わせるもんじゃなくってよ?」
「ミカエラ…。さすがに無理があるぜ?」
「だって、フェルナンドの服は俺が洗わなくちゃいけないから…」
がっくりとうなだれる、ガートを無視してグロリアーナは再度、火球を放った。
「だから、水霊駁撃ってばあ!」
火球を相殺すると、グロリアーナの懐に詰め寄り、喉元に剣を突き立てた。
「いい加減にしないと、ただじゃすまないぞ?」
「…シャンタルメリュー家も舐められたものですわね?」
グロリアーナの全身が発熱し、全身から炎が立ち上る。
「いかん!ミカエラ逃げろ!」
「火炎発破!」
爆炎がグロリアーナを中心に巻き上がり、半径10メートルほどの面積を薙ぎ払った。
「…ふう、全く時間の無駄ですわね」
「ああ、全くだ」
俺に発破無効の加護があって助かった。純粋な炎だったら丸焦げだったろうし…
「気功術!」
「ぐふっ…」
グロリアーナの鳩尾に一発入れて気を失わせる。
ガート達はワイバーンの影に隠れて無事だったらしい。
ワイバーンの鱗って炎耐性が強いらしいからフェルナンドがとっさに気を利かせたんだろう。
ガートだけだったら死んでたな…
「おーい、ミカエラ無事か?」
「ああ、なんとかね」
しっかし、訳のわからん女だな。
ガルシア領で竜狩りをしたと思ったら、いきなし、襲ってきて、自爆してって…
…あれれ~、おっかしいぞー
「なあ、ワイバーンって炎に耐性があるんだよな?」
「ああ、全く効かないって訳じゃないが、竜狩りは風と、雷の魔法を使うのが一般的だな」
「…じゃあさ、このワイバーンって誰が倒したの?」
フェルナンドはワイバーンの死体に目を向ける。
体中にある切り傷はどう見ても、炎でつけられたものじゃない。
「剣でつけた跡だな…」
いやな予感しかしないぞ。
竜の体を一刀両断する剣術っていえばさ…
「グロリアーナ様!」
「あ、違った…」
真っ赤な鎧を身に纏った、少年が駆けてきた。
手には、身の丈ほどもある大剣を持っている。
「貴様らあっ!グロリアーナ様に何をしたっ!」
「まあ、落ち着けよ小僧。この、嬢ちゃんがっ…って」
間に入ったフェルナンドに剣を振りぬく。
返した剣をガートがクレイモアで受ける。
「人の話を聞けっての!」
「わあああああ、グロリアーナ様!返せ!返せ!」
シャンタルメリューってのは全員ア○ぺかよ…
でっかい剣をやたら、軽々と扱ってるけど、剣技自体はガートの方が上手らしく、危なげもなく拮抗状態を保っている。
「ガート!手を貸そうか?」
「いや、大丈夫だ!それより、魔物を…」
ワイバーンの血の匂いにつられて、木々からは猿の魔物が遠巻きに俺らを見ている。
流石に、ワイバーンに近づくアホはいないと見えて、手を出す様子はないが、フェルナンドはもう変身できないから、俺が様子を見ておくしかないな。
「風霊撃」
猿型の魔物を一匹撃ち落とすと、魔物の輪は一層広がった。
まあ、これだけ脅しておけば十分だろう。
「じゃあ、俺はこの嬢ちゃんを…」
フェルナンドはグロリアーナを肩に抱えて、茂みに入ろうとした。
「ちょい、ちょい、ちょっと!何する気よ!」
「いやあ、200年ぶりだし…ちょっと」
「いやいやいやいや、ダメでしょ!色々終わるし…」
「冗談だって…ほんとに」
「…本当に冗談だろうな?」
引きこもりが長かったせいか、フェルナンドの冗談って独特な雰囲気がある。
こう、ブラックと自傷系を織り交ぜたというか…
「それより、“何する気よ”って女の子みたいだな」
「もうっ、ふざけないの!」
「ほらまた」
「……」
ガートは少年の鳩尾に蹴りを食らわせ、大剣を弾き飛ばした。
「ぜえ、ぜえ、ミカエラ!拘束を頼む!」
「おう、有機物操作!」
少年の上に放り投げた縄が一瞬ほどけ、衣服と絡みついた。
繊維単位で絡みついているから、なかなかほどけないはずだ。炎の魔法を使っても、衣服がおじゃんになっちゃうからな。
「もう、このパターンいやなんだけど…」
「ミカエラはこういうシチュエーションに慣れてんのか?」
「なんかね、縛って尋問してってしょっちゅうだった気がする」
フェルナンドは少年の大剣を取り上げた。
「どっかで見た気がすんだけどな…」
「汚い手でシャンタルメリュー家の家宝に触れるな!」
「…そうか、これは礫熱剣ボナヴェンチャ。熱を発すると聞いたことがあるが、お前にはできないのか?」
「うるさい!不当な持ち主が教えなかっただけだ!」
「そりゃ、お前さんの方が不当ってことだったんじゃないのか?」
「黙れ!グロリアーナ様をお守りするのに必要だったまでのこと!シャンタルメリュー家の為に使って何が悪い!」
フェルナンドは少年の顔を踏みつけて、気を失わせると、俺の方に向き直った。
フェルナンドのブーツの跡が顔について、少年は泡を吹いて倒れた。
「ミカエラ、ちょっとやばいことになった」
「ちょっとじゃない気もするけど」
「恐らく、シャンタルメリュー家は今お家騒動ってやつだ、グロリアーナがガルシア領で勝手に竜退治してるのも、シャンタルメリュー家の家宝をこの小僧が勝手に持ち出してるのもそのせいだ」
「お家騒動って?」
「グロリアーナに対抗馬が出来たんだろうな。それで、竜を退治して何とか自分の株を上げようと別行動に移ったんだろう」
「自分が当主にふさわしいアピールってか」
まあ、仰々しいお付きとかがいないところを見てもそうなんだろうな。
「で、何がやばいの?」
「俺達がその獲物を横取りしたって形になってるこの姉ちゃん、死ぬまで俺達を追っかけてくるぞ」
「まじで!?もう、ワイバーン置いて逃げようよ!」
「それがそうも行かないんだな、目玉食っちまったろ?」
「目玉?あのべとべとの?」
「目玉は竜が死んでからすぐに腐るから、取引はされないんだ。通常はな。ただ、貴族の狩りは別でな。狩りのあった日の晩餐会でワイバーンの舌と目玉を飾るのが通例だな」
「…これじゃだめ?」
俺はハンカチに包んだ水晶体を差し出した。
「だめ、丸ごとなきゃ」
「いやあああ!てか、お前らが食ったんだろ!なんとかしろよ!」
「無茶言うなよ…こうなったら、口封じするしか…」
「馬鹿野郎っ!」
「むううう…」
グロリアーナが目を覚ました。
「おっはー!」
「なっ、なんですの!あなた達は人の獲物を奪った挙句…」
「それには誤解が少々あるみたいだけど、まあ、ちょっと話そうよ」
「…話すことなんてありませんわ」
「そうかな?対抗馬について有益な意見交換が出来ると思うんだけどな」
「…どこまで、知っていますの?」
「なにも、だから話してよ」
グロリアーナは衣服の乱れを直すと、座りなおした。
「…弟が理論法術を完成させましたの」
理論法術とは理論的にはその存在が証明されているのにも関わらず、実現していない法術のことだ。
現代日本で言えば反陽子爆弾とかそういうレベルに匹敵する最新技術だ。
「具体的には?」
「それは秘密ですわ」
「そういうけどさ、誰も実現できてないから理論法術なんだろ?弟さんが完成させたんだったら、今更聞いてもどうしようもないじゃん」
「…水中火ですわ。水面下でも炎を起こす理論法術。シャンタルメリュー家でもずっと研究していたのですが…」
「弟さんは法術を?」
「いえ、私と同じ教育しか受けていないはずです。私も初歩の法術なら学びましたが…」
フェルナンドがポケットから干し肉を取り出して、ちぎって俺に渡した。
グロリアーナが物欲しそうに見ていたが、やんないよ。
「弟さんが天才か、ズルしたかってこと?」
「弟は贔屓目に見ても優秀とは言えませんわ。弓は多少使えますが、それ以外は十人並みですし…」
グロリアーナも結構言うな、貴族ばんざーいみないなのかと思ったのに。
「まあ、それは道々話すとして、フェルナンド、ワイバーンってもう一回狩れるかな?」
「…この小僧が起きたとして、俺ら5人だったらおつりが来るな。ただ、引き付ける役がいないから手間はかかるな」
フェルナンドは片目を閉じて、指で3を作った。
変身出来ることについて、グロリアーナに知られるわけにはいかないからな。
「ああっと、じゃあ俺とガートがおとり役、グロリアーナとフェルナンド、この子なんての?」
「ダニエル…、ダニエル・ギラン。私のお付きですわ」
フェルナンドがダニエルの頭に水をぶっかけて、目を覚ませた。
「そっか、じゃあよろしく。俺はミカエラ・T・ホワイトウッズ」
「グロリアーナ・ヴォン・シャンタルメリュー。なんだか、貴方とは初めてあった気がしませんわ…」
フェルナンドがぼそっと「帝国一おっかねえ女コンビの誕生」と言ったけど聞かないふりをした。




