思いもかけないえものじゃけえ
「視覚操作、調音!」
ディモンズドラゴンの視線から見当違いの方向に俺たちの姿が現れ、足音が消える。
「音を立てるな、ゆっくりとでいいから、ここから離れるんだ」
剣をしまい、キュピロクワイスを喰らっているディモンズドラゴンの元から離れる。
「あああ、もったいねえなあ」
「そう言うな。あれに出会って生きていただけもうけもんだぞ」
俺達はキュピロクワイスを囮に、なんとか逃げ切ることに成功した。ただ、今日の狩りはもうできないな。
「明日の昼には出発しなきゃ間に合わねえぞ?」
「仕方ない、B級ランクはあきらめよう。ほらっ、今日は徹夜で薬草摘みだっ!」
剣を仕舞い込んで、目星をつけておいた群生地で薬草摘みにシフトチェンジすることにした。
フェルナンドは狼の姿になって周りを警戒してくれている。
本当は3人で作業するのが一番効率がいいんだけど、ディモンズドラゴンから命からがら逃げ帰った後で、そんなことをする勇気はとてもない。
「よっこらせっと」
あと4か所くらい回れば、薬草のノルマは何とかなるかな?
「なあミカエラ、フェルナンドって一体どこの人なんだ?もしかして、ミカエラと同じ訳ありか?」
「まあ、そんなとこ。出会ったのは1カ月まえくらいだけど、訳あり同士つるんでさ、まあ何とかやっていってる」
俺が積み上げた薬草をガートがビックシーの中に詰め込んでいく。
「はあ、魔物も薬草も百本くらい足りなくなりそうだな」
「まあ、薬草に関してはちょっと休憩して、明日の朝早くから作業に取り掛かれば何とかなるさ」
「うーん、やっぱり見込みが甘かったな、さすがに3日ちょっとでBランクはきつかった」
「けど、めちゃくちゃ惜しかったと思うぜ?ミカエラじゃなきゃここまで、出来なかったと思うし」
「結果が全てだよ。いいか、だめかで言ったらダメだった訳だし。言い訳のしようもないギルバートに大目玉くらうのも覚悟してる」
ギルバートも結構無茶をしてBランクの申請を本部にしてくれたんだろう。それも、ゴーストギルドの職員からの頼みなんてまともに聞いてくれるはずがないから、金かチョットした裏技を駆使したに違いない。
それが、失敗するってことはなにもしない以上のしっぺ返しがあるか、それ以上の代償を覚悟しなければならない。
「…正直、ギルバートには貸しを作るつもりだったけど、大きな借りができちゃったな」
「気にすんなよ、俺もガルシア領に来てそんなに経ってないけど、ギルバートには結構世話になったし」
「ガート馬鹿そうだもんな。ところで、ガートはどこの領から来たんだ?」
「カリンブルッシェン領。てか、俺馬鹿じゃねえし」
「バーカ、馬鹿、バーカ!」
ガートに草を投げつけて、肩を押す。
「やめろっ!こらあ!」
ガートが俺の腕を掴んで、引っ張った瞬間、二人の体勢が崩れて、ガートが俺の上に伸し掛かる形になった。
「…ちょっと、やめてよ」
「…悪い」
なんで、ちょっと変な気分になんの?
これが恋…
「そんなわけあるかあああっ!」
「あべしっ!」
ひっぱたいたガートを放って薬草を袋に入れると、人の姿に戻ったフェルナンドが寄ってきた。
「おーい、帰るぞってなにしてんの?」
「…なんでもない」
「収穫は?」
「もう何か所か回ったら薬草はコンプ、魔物は無理だろうな…」
「…そうか、まあ、無理をしないのも大事なことだ。命あってのものだねだからな」
ものだねねえ…
と、フェルナンドが再び狼の姿に戻った。
「どうした?」
「構えろ!来るぞ!」
狼の睨んだ先からはなにかの叫び声と、木々が倒れる音がした。
「…ミカエラ」
「ちょっち、やばいかもね」
木々の向こう側から現れたのはワイバーンだった…
「血まみれのワイバーン?」
右の翼は無いし、片目も潰れているっぽい。
血の混じった泡を口から吹き出し、俺達に向かってきた。
血の流れた穴がガートを捉え、尾をバネのように弾いて飛び掛かった。
「合せ技!、|女王の処刑台《アンダミオス・デ・ラ・レンナ》」
地中から出てきた岩の首輪がワイバーンを押さえつけ、空中から大きなギロチンの刃が落とされる。
首はしばらくの間ピクピクとガートの方へ動いて行ったが、ガートが振り下ろしたクレイモアに頭を叩きつぶされて動かなくなった。
「…やったかな?」
「ああ、ナイス判断だガート、ワイバーンは確実に止めを刺さなくちゃいかんからな」
頭から黄色い脳漿を流しながら、目玉を白黒させているワイバーンをつつきながらガートはナイフを取り出して、ワイバーンの目の中に突っ込んだ。
「うげえ…ガート何してん」
「おうミカエラ!お前も食うか?」
ガートは目玉の周りについた透明なジェル状の膜をジュルリと啜った。
「うげえ…」
「おう、うまそうだな俺にも一口くれ」
ナイフに刺さった目玉を受け取るとフェルナンドは歯を突き立てて、眼球の半分ほどを啜った。
「なにやっとん…」
「ミカエラは知らんのか?ドラゴンの目玉は滋養強壮、疲労回復に効く妙薬でな、狩ったばかりのものしか味わうことのできない珍味中の珍味だぞ?」
「だってえ…」
「いいから食ってみろよ、ほれほれ」
齧ったせいで濁った汁がしみ出してきている目玉をフェルナンドは、あろうことか俺のほっぺたに無理やり押し付けてきた。
さっきまで生きていたのに、目玉だけはひんやりと冷たく、頬に触れた部分から鳥肌が立つのがわかった。
しかも、強烈に臭い。
動物のにおいじゃなくて、アンモニアとかそういう匂い。
「やめっ、やめてよおお…」
ねとねとした目玉をこれでもかと押し付けてくるフェルナンドを睨みつけながら、不覚にもちょっと泣いてしまった…
ちょっとだけ、涙が出る程度だけどね。
「すっすまん…」
「ごめんなミカエラ…」
お前らは小学生か…
「もおっ、冗談もほどほどにしとけっての…」
袖で頬についた粘液をぬぐい落とすと、ガートの肩になすりつけた。
ん?
「エーテルガード!3層タイプ薄型!」
俺の生理用品みたいな名前の防御魔法が突然飛来してきた火球から俺達3人を守った。
まあ、文字通り3層に重ねた防御魔法ってだけなんだけどな。
「まったく、私から獲物を横取りしようだなんていい度胸ですわ」
「グロリアーナ!?」
狩り用の正装に着替えたグロリアーナ・シャンタルメリューがそこにいた…




