弐に足、参に鉄砲、壱に猟犬じゃけえ
「ガート、ガート!」
ガートの顔に水を浴びせる。
「はっ!ミカエラ、俺…」
「ごめんごめん、ちょっとやりすぎた」
「カンプチーノウルフを狩ったっていうのに、ミカエラのワンパンだなんてへこむぜ…」
「まあまあ、食えよ」
カンプチーノウルフの尻尾をハーブでこんがり焼いてから煮込んだ「わんこテールスープ」を差し出した。
趣味が悪いように思えるが、帝都では超高級品で俺の叙勲式の晩さん会にも出たほどだ。
「…ずずっ、あっ美味しい!ミカエラ料理うめえな!」
単純な奴め…いや男は胃袋を掴めっていうしな。もしかしたら、男って全員そうなのかもな。
「今日の獲物はお猿が142匹、カンプチーノウルフが6匹か…」
「おおっ、すげえじゃん!」
「全然、薬草は0本だし、あと2日で400匹は無理だ」
あの辺りの猿の魔物はほとんど狩りつくしてしまった。他のポイントはキャンプ地から遠く、効率が一気に落ちる。昨日みたいなペースでは無理だろう。
「ううう…ごめんなミカエラ…」
「ああもう、泣くな、泣くな。思ったより苦労したけど別にゲームオーバーって訳じゃないんだしさ」
まあ、Bランクまで駆け足で行けるとは思ってなかった。まあ、借金は確実に返せるだろうし、ギルバートには悪いけど、もうしばらく待ってもらうしかないな。
…あてが外れたらしょうがないよな。
「それでも、俺たちがやることは変わってない。狩って、狩って、狩りまくるだけだ」
「そうだなタクミ」
「はうああっ、フェルナンド!」
街で養生しているはずのフェルナンドが俺の真後ろに立っていた。
「お前っ!なにやってんだよ!」
「もう随分良くなった。それに、お前は狩りに一番大切なものを持っていない」
「一番大切なもの?」
「犬だ」
俺の後ろに隠れていたガートが、恐る恐る顔を出す。
「ミカエラ。この人って…」
「ああ、言わなかったっけ?俺と一緒に旅しているフェルナンドだ」
「ふぁっ!ミカエラの彼氏…」
「いや、彼氏じゃねえから」
「幾晩も共にした仲だ」
「おめえもややこしい事言うんじゃねえよ!」
「まあ、いいじゃねえかミ・カ・エ・ラ」
「…いろいろあったんだよ」
頭のあまりよろしくないガートに、無理矢理事情を飲み込ませフェルナンドの能力を含めてプランを立てた。
「フェルナンド、無理するなよ」
「ああ、森で狩りをするのは久しぶりだからな。血が騒ぐぜ」
フェルナンドは俺の目の前で金毛の狼に変身した。
「ガート、お前はフェルナンドと一緒に追い込み役だ」
「なあ、ミカエラ、これだけは確認したいんだけどよ…」
ガートは剣の柄を握ったまま、もじもじ、いじっている。
「なに?」
「あのさ…ミカエラはあの人のこと好きなのか?」
「ばっか、そんなんじゃねえよ」
うん、好きではないな。多分。
どっちかというと、ライクだもん。
「そっか…なあ、ミカエラ、俺の事…」
「さっさと行け!」
ガートはクレイモアを引きずって森の中に走って行った。
「まったく…」
切株に腰掛けて待っていると、魔物の鳴き声が聞こえた。
「そろそろかな?」
キュピロクワイスの群れを追いかける金色の狼が見えてきた。
あんまり、大がかりな攻撃は出来ないからな。
「飛浦波!」
バスコさん、俺は南方剣術に新しい1ページを刻みました…
飛ぶ斬撃がキュピロクワイス達の足を薙ぎ、地面に衝突する。
「飛東雲一閃!」
剣閃と共にキュピロクワイスの首が数頭地面に落ちた。
「フェルナンド!あれ行くぞ!」
フェルナンドが狼から元の人間の姿に戻る。
すっかり忘れてたけど、
裸じゃなくてよかった…
「合せ技!水雷抹殺撃!」
俺の放った水柱が群れの中心にぶつかり、群れは大きな水しぶきを上げて宙を舞った。
「雷神奔流!」
フェルナンドがほぼ同時に放った電撃が水を走り、キュピロクワイスの中を駆け巡った。
「一丁上がりっと」
「すげえな、このやり方だったら獲物に全く傷がつかない。こんなやり方どこで習ったんだ?」
「アメリカのサスペンス…俺のいた世界。敵国の神話にあった」
ヒッチコックはアメリカ映画史に残る神話ですとも。ええ。
雷の魔法は相手を貫通するか、丸焦げにしてしまうから、炎の魔法と同じく狩りには向いていないとされている。
そこで編み出したのが、水に浸して電撃を浴びせるという非人道的な合せ技。
俺はまだ、精霊魔法を2種類同時に放つことができないから、フェルナンドの助けがいるが、魔法が上達すれば一人でもできるようになるかな?
「ところでガートは?」
「あれ?さっきまでいたけどな?」
「ミカエラ…」
ガートはキュピロクワイスの山の下敷きになっていた。電撃は通じていないみたいだけど、水を大分飲んで気を失っている。
となれば、人工呼吸しかないよね。
「ガート、ガート、ガアアアアト!」
「目を覚まさねえな…」
「フェルナンド…やっちまえ」
「…嬢ちゃんの方が喜ぶだろ?」
「ふざけろ、男同士だったら恥ずかしくねえだろ」
「男同士だからいやなんだろうが」
「帝都ではこういうのが流行っているらしいぜ?オラニエ家もゴーシェンロード家もみんなみんな好きらしいし」
「まじかよ…貴族は腐ってやがるぜ…」
ガートの顔が薄青くなった。
「早く!死んじゃうってば!」
「むむむむ…」
フェルナンドは目をつぶって、ガートの上にかがみこんだ。
ちゅ…
「………」
「………」
顔を上げたフェルナンドが青い顔をして俺の方を見た。
どうだやったぜ…ぐはああみたいな顔だが、こいつバカか?
「おい、チューしてどうする。息を吹き込め、息を」
「はっ!」
「もう一回だ!早く!」
「次はタクミの番だろ!」
「今のはノーカンに決まってるだろ!」
フェルナンドは地面に背中をつけ、手足をバタバタさせて必死に抵抗した。
「やだやだやだ!」
「ああもう、ガートがチアノーゼ起こしてるしっ!」
ガートの上にかがみこんで口を近づけるが、ガサガサの唇は紫色で体も冷たくなっている。
俺のファーストキスはミヒャエルに奪われたけど、セカンドキスは譲りたくないしな。
さよならガート。
「…もう、だめなんじゃないかな?うん、大分経つし…」
「あきらめるなよっ!」
フェルナンドが俺を突き飛ばして、ガートの唇をすすり、空気を吹き込む。
「ぐおぼっ!がはあ!」
ガートは長いこと紫色の顔をしていたのにも関わらず、あっさりと目を覚ました。
「ううう、俺…」
「ガート…、大丈夫か?」
「ミカエラ…」
「よかった、息してなかったから。もうだめかと…」
てか、あきらめてました。すみません。
「もしかして、ミカエラが…その口で…」
「いや、フェルナンドが2回も」
「…いいって」
照れるなよフェルナンド。気持ちの悪い。
「…俺初めてだったのに」
「しょぼんとするな、気持ちの悪い」
ガートの肩をポンポンと叩く。
「ほら、ハグならしてやるからさ」
「悪い、タク…じゃなくてミカエラ…、そんな暇なさそうだぞ?」
俺の目の前にはあのディモンズドラゴンが立っていた。
「まぢかよ…」




