狼たちの処刑台じゃけえ!
湖の畔にはアントニーが用意してくれたキャンプ地の目印があった。
周辺にはたっぷりと魔物避けを撒いてあり、2週間は魔物が寄り付かないようになっている。
「さてと、鉄器創造!」
鉄のドームが広がり、簡易テントの出来上がりだ。
口を開けたままのガートは無視だ。
「ガート、荷物になりそうなものはここに入れておけよ」
「ミカエラ…これって」
「…ガートあのな。俺ってばこういう加護をもってんだ。けど、ちょっと事情があって他の人には知られたくなくってさ…」
黙ったまま、ガートの肩に手をまわし、顔を近づける。
「黙っててくれるよね…ねえ?」
「もっ、もちろんでありますとも」
ありますともって、兵隊かよ。
まあ、黙っててくれるのならいいけど。
「あっそ、じゃあ休憩したら。続きいくよ」
「きゅ、休憩!ああ、優しくするよ…」
何考えてんだこのマセガキが。
「おらっ、茶を沸かせ!飯の支度もだ!」
「休憩っていったじゃんか…」
「ふざけんな、エロガキ!」
ぶっ殺すぞ!と脅かすとガートはしぶしぶ食事の準備を始めた。
俺は湖に出て血で汚れた装備(ガートの分も)を洗い、木に渡したロープに干した。
「さあてと、午後からはもっと忙しくなるぞ!」
「もっと!あれ以上に忙しくなるのか!?」
「あんなもん序の口だろ?まあ、手は打ってあるから心配するなよ」
「増援か?」
「いや罠」
「わ…な?」
「見たらわかるよ」
ガートは意外に料理が上手い。獲物の肉をハーブで焼いたステーキの焼き加減はなかなかのものだと思う。
山盛りの肉を食べ、お茶を飲み終わってから、俺たちは目当てのポイントに向かった。
「さあてと、ほらガート、あれ見てみろよ」
「何をってうわあああ!」
木の枝には無数の魔物が首をくくられて、あるいは足から吊るされていた。
俺とフェルナンドの合作、特製くくり罠だ。
「ほらほら、さっさと止めを刺せ。他の魔物が集まって来るぞ」
鉄器創造で槍を作ってガートに渡す。
「うう…顔に血が…」
その性能のあまり、人が通る所では絶対に使用できないのが玉に傷だけどな。あとで、100個あるか数えて回収しておかなくちゃ。
「まあ、全部ありそうだけど…」
止めを刺した魔物を罠ごとビックシーに放り込んでいく。
「そろそろだと思ったよ」
止めを刺した魔物の血の匂いで、猿型の魔物が集まって来るのを感じた。
「ガート!そろそろ夕方だ!夜行性の魔物に変わるぞ!その前に、全員仕留めろ!」
「全員って…」
ガートは木々に集まった猿たちを恐怖の目で見た。
「ビビるな!さっきと同じ要領だ、雷神奔流!」
電撃が目の前の猿たちを一掃し、地面に落ちる。
ちょっと毛皮が焦げたが仕方ないだろう。
重量変化で木の上まで飛び上がると、眼の前に飛び掛かって来た猿を突き通す。そして、振るった勢いで次の猿の胸に手を当て気功を放ち内臓を破壊する。
血反吐を吐いた猿を足場に一瞬浮き上がり、地面に飛び降りる。
剣を振るい血を払うと、空中で俺の周辺にいた猿たちは
皆バタバタと地面に落ちた。
「ちょっと効きすぎたかな?」
猿たちの皮膚には呼吸を止める毒針が刺さっている。鉄器創造と毒物創造で編み出した新技、継母の指。
しばらくすると加護が解けて無害になるから狩りに向いている。
あらかた猿を殲滅すると、辺りは薄暗く、日が沈みかけていた。
「ガート!そろそろ夜だ!狩り場を替えるぞ!」
「ああ!」
気にはしていたけど、ガートもなかなかやる。強い肩に背中から振るう一撃はバスコレベルの破壊力があり、なおかつバランス感覚もいい。リドルフィ弟よりはるかに強い。
修行と実戦を積めば剣聖レベルも夢ではないかもしれない。
「急げ!頭とか腕とかは置いといていい!」
ガートが狩った猿はどこかしら欠損していて集めるのに手間がかかる。
「わかったってば…」
名残惜しそうなガートを引っ張って、俺たちは夜の決戦場へと移動した。
「来たぞ…」
ディモンズドラゴンを除けば森林部最強の生物、カンプチーノウルフ。
名前だけはかわいいが、体長3メートル、重さ約500キロ。牙も爪も一撃必殺の威力を誇る。オマケに風と氷の魔法は全く通用しないっていうんだから手に負えない。
多分、俺でも一度に4匹以上相手にするのは難しいだろう。ギルバートもなるたけ避けろって言っていた魔物だ。
まあ、だから手ぶらでは来ていない。
「土石操作!鉄器創造!」
魔力をかなり注ぎ込んで鉄と岩の壁が完成する。高さは約10メートル。所々返し針も付いている。
「ううっ…」
一瞬頭がくらっとするほどの魔力が抜け、あわてて薬草を噛んだ。
壁を登ってきたカンプチーノウルフを一匹一匹づつ仕留める計算だ。ガートも俺も腰に命綱をつけている。
「ガート!餌を撒け!」
「おう!」
一度に数匹づつしか処理できないが、カンプチーノウルフの取扱い金額は猿の比ではない。
「さあ、夜の部がはじまるけえね!」
闇から姿を現したカンプチーノウルフは6頭。想定よりも数は多いが問題ないだろう。
「次の仕掛けはこれだっ!火霊撃!」
火の矢が壁にぶら下がった薄い鉄の玉を貫通する。鉄の玉に仕込まれた純度100パーセントのアルコールが辺りにまき散らされ、周囲はたちまち火の海になった。
「これぞ二十八計の一、火攻めの刑!」
「残りの二七はなんだ?」
「うるさいっ、そんなの決めてないよっ!」
しかし、カンプチーノウルフたちはそれを意に介した様子もなく、壁に爪を立てて駆け昇ってくる。
「ガート魔法だ!雷神奔流」
「火霊撃!」
雷撃をまともに喰らったカンプチーノウルフが壁から落ちた。致命傷には至っていないようだ。
「これ使え」
壁の上に俺の作った銛が20本ほど突き刺さる。
「おうっ!」
ぶんっ!と大気を震わせながら銛は2頭目のカンプチーノウルフに突き刺さった。
「雷神奔流!」
胴体に刺さった銛から雷撃が伝わり、カンプチーノウルフは地面に倒れ動かなくなった。
「やっと一匹目か」
「ギルバートの言う通り、お猿狩っとけばよかったな…」
「ミカエラ!援護してくれ!」
ガートは銛をすべて投げ切ると、クレイモアを持って壁から飛び降りた。
「ちょっ!あのバカ!」
鉄器創造で可能な限り大きな鉄球を生みだし、それに乗って地面まで降りる。
重力変化で可能な限りまで重くなった鉄球が一匹のカンプチーノウルフの頭に落ち、嫌な音を立てて潰れた。
「これで2匹っ!」
一度に飛び掛かってきた3匹のカンプチーノウルフに向かって手を差し出す。
「魔力発破!」
吹き飛んだ3匹の内、一匹目には巨大なトラばさみ、血塗れの道を、2匹目に斬撃創造で生みだした不可視の刃を、そして最後の一匹に剣を突き立て、柄に掌底を当てた。
「内部破壊!」
血を吐いて倒れたカンプチーノウルフの首を落とし、ガートの援護に回る。
「火霊撃!」
連続して放った火の矢がカンプチーノウルフの耳や尾、足を貫通し、一瞬足が止まった。
「今だっ!」
「うらあああっ!」
ガートのクレイモアがカンプチーノウルフの首を落とした。
「ミカエラ…これで借金分は返せるかな?」
「大馬鹿野郎!」
俺の平手がガートを打ち、ガートは2メートルほど吹き飛んだ。
「あっ、加護マックスで使っちゃった…」
ガートはピクリとも動かなかった。




