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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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オールユーニードイズキルじゃけえ!

「どうしても、行くのか?」


フェルナンドは熱も下がって顔色も随分良くなった。


「ああ、このままじゃ夜の蝶だし。それに、家とか暮らすにも色々入用だからな。フェルナンドも旧マドラス領に行ってみたいだろ?ワイバーン1匹倒すと金貨200枚になるってよ。旅支度には十分だろうし」

「それが出来ねえから、みんな50人でグループを組んで、装備に金をたっぷりかけるんだろう?」


そう、ワイバーン狩りには煙状になる麻酔薬、ロープの付いた特殊なモリ、鎖を編んだ網、それに魔法や剣、加護を持つ高給取りの人間を数名雇うのが通例だ。


一般人は参加するだけでは銀貨6から8枚にしかならない。それに死者が数名でている。


逆に言えばそれだけの準備と人手がかかっているから竜は高額だとも言える。



「でもさあ、帝国って化け物みたいな加護をもつ奴っていっぱいいるじゃん。そいらが小遣い稼いでたなんて聞いたことないんだけど…」

「昔はサシで竜を仕留めてた武家もあったみたいだけどな。人死にが結構出てからは誰もしなくなかったみたいだな」


フェルナンドが言うには、竜種というのは首だけになっても動いたり、群れのリーダーを狙い撃ちしたりと、とにかく予測できない行動がとにかく多く、護衛に囲まれた貴族が下半身だけのこして食べられるなんてことがしょっちゅうあったらしい。


「まじかよ、やばくねえ?」

「ワイバーンは竜種の中でも雑魚だけどな、だけど注意するに越したことはない。森での狩りが終わったら、俺も一緒に行こう」

「無理するなよ?」


フェルナンドの容態は安定しているらしいが、無理は禁物とお医者さんも言っている。ましてや、何があるかわからない竜狩りに連れて行きたくはない。

とはいえ、フェルナンドの実力は折り紙付きだし、運搬の事を考えるともう一人欲しいのは事実だ。


「わかった、お医者さんと相談してからな」


ギルドの前ではギルバートが馬と荷車を用意して待っていた。


「あれ?ビックシーがあるから荷車なんていらねえんじゃ…」

「あれだけ、派手に狩りをしといて帰ってきた時手ぶらなんて、馬鹿でもおかしいってわかるぞ」

「…なるほど、適当に獲物を積んで帰ればいいんだな?」

「そういうこった。森の前にギルドの人間がいるからそいつに馬は預けるといい。名前はアントンだ」

「オッケー3日後には帰るよ」

「お前さんの腕を信じてBランクの証明書を申請しておいた。事後承諾ってやつだ。戻ったらすぐにでも竜を狩れるように装備も仕入れておくしな」

「なにからなにまでサンキュー」

「いやいや、これからここのギルドの成功はお前さんにかかってるからな。これくらい当然」


俺の鞄は2つ、1つには応急手当の薬、地図、調味料を含めた食糧、着替え(パンツとブラだけ)、石鹸が入っている。今日の為に揃えた、下着と石鹸だが、意外に高くこれで銀貨7枚もした。

それからもう一つは、ギルドの依頼を纏めたノートが入っている。それによると、薬草500束に魔物400匹は倒さなければBランクにはなれない。


「下手したら暗黒地帯の生態系が変わるんじゃないのか?」

「生態系?」


気がつくとガートが後ろに立っていた。

背中には大荷物を背負っている。


「うわっ!びっくりした!」

「ミカエラ、今日からよろしくな!」

「ああ、よろしく」



今日は暗黒地帯でも特に魔物が多い森林地帯に行くことにした。森林地帯は魔物が多く、上下左右から昼夜を問わず襲ってくることから、一番の危険地帯とされている。

俺達は昼間森林地帯で狩りをして、夜間湖水地方で寝泊りをすることにした。


「それにしても、ミカエラ軽装だな。テントとかは?」

「作る」

「作る!?」


もう、めんどくさいな。鉄器創造のことくらい話してもいいかな。


「まあ、おいおい説明するよ」


森の前にはギルバートが話していたアントンが、肉の塊をガートに差し出した。


「しめたばかりの牡羊の肉です。魔物を引き寄せるにはこれが一番だとチーフが」

「ありがとう、これ少ないけど…」


ギルドの人間にチップを渡すと今後の仕事が上手くいくと教えてくれたのはギルバートだ。

ギルドの仕事は、仕事と雑用の境目があやふやな事もあって、人が嫌がるような仕事も頼まなければならないことも時にはある。

魔物の血がついた武器や馬車を掃除してもらったり、上級ランクの人間の使いっ走りのようなことお願いするとき、気持ちよく仕事をしてもらうにはやっぱりお金一番物を言う。

よそ者の俺は特にお金についてはきちんとしておかなければならない。信用なんてすぐに崩れるものだしな。特にお金が絡むと手が負えない。


「すみません、姉さん恩にきます」

「こちらこそ。これからもよろしく」


さあて、楽しい狩りの始まりですよっと。


「邪眼発動!」


猿型の魔物に加護を使うが、何も効果があったようには見えない。


…やっぱり、人にしか効果のない加護なのかな?


加護には超抵抗や隷属のように人間にしか効果のないものもある。邪眼ももしかしたらそういう加護の1つかもしれない。


まあ、実験で使うのはここまでだな。


「斬撃創造!」


綺麗に首だけ飛んだ猿が俺の目の前に落ちる。


「ひえっ!」


ガートがビビりながらも猿をビックシーの中に入れる。今回流石に危ないのでガートに薬草摘みはさせてない。

薬草の群生地を見つけたら、俺とガートで薬草を摘む予定だ。


「牡羊の肉すげえな…風霊撃エアリエルアロー

風霊撃エアリエルアロー風霊撃エアリエルアロー!」


首をちょん切られた魔物、頭に風穴の開いた魔物が目の前に積まれてゆく。

濃い血の匂いを嗅ぎつけ、魔物がさらに集まり、当たり一帯は血の海になった。


「ガート!すまん仕留め損ねた!」

「了解!」


まだ息のある魔物の頭にクレイモアを叩きこむ。ウエハースのように軽やかな音と共に頭蓋骨が半分になり、脳髄が吹き飛ぶ。


「…汚ねえな」


ガートの戦い方って戦争向きかもしれないけど、冒険者向けじゃないよな。

少なくとも隠密行動には向いていないし。


「これで40匹…まいったな、このペースじゃ徹夜でやっても400匹には届かないぞ?薬草も摘まなきゃならないし」


焦ってはいないけど、もうちょっとペースを上げたいところだな。ガートがいなかったら無理してでも戦うんだけど…


「ガート、武器を替えろ!」


鉄器創造で作ったカトラスを2本ガートに投げる。


「悪いけど、お前の方にも回すからな!」

「おう、まかせろ!」


一応、弱そうなのをちょっとづつガートの方に逃がしていく。

ガートもそれなりに心得があるのか、片手剣の二刀流に対応して魔物を刻んでいく。

まあ、ちょっと汚いけど


「ナイブスレイン!新技!鉄の処女ダマ・デ・イエロ!」


内側に長い針のついた釣鐘が魔物を閉じ込める。

魔力をほとんど消費しない代わりに、相手をしに至らしめるまでの時間が長いのが欠点だ。


「やっぱり、まき散らす系統の技は効率が良くないな…狩りは風霊撃エアリエルアローで頭を撃ちぬくのが一番か」


剣はどうしても一匹ずつ殺さなきゃいけないし、範囲攻撃は獲物がズタズタになる。

鉄器創造で鉄砲も作ってみたけれど、どうしても狙いが外れてしまい、魔法の方が遥かに便利だった。

火薬になるものもないから、大がかりな武器も作れないしな。


「あああああ!あのガチホモ錬金術師の草稿見ておけばよかったあああ!」


あいつの知識は今思っても非常に惜しい。

ガルシア侯爵じゃなくなって、失ったものは色々あるけど、モンセラートとかカスバートとかマリアとかバスコとかを除けば惜しいものはそんなになかった。

図書館や霊廟にある書物は読んだし、公になっていない情報も頭の中に入っている。

けど、あのフランシスの知識だけは惜しかった。


俺も良く覚えていない化学知識、魔法、法術の知識が詰まってたし、それを使えば爆弾でも、大砲でも車でも作れたかもしれないのに。


「…ミカエラ!どうした?」

「うっせええ!よそ見すんなぼけえええ!」


とは言いつつも、ガートにも疲れが見え始めたので、魔力発破エーテルブトゥームで周辺を吹き飛ばす。


「ガート!湖まで引くぞ!仕切り直しだ!」


大急ぎで魔物を回収すると、俺たちは湖のキャンプ地まで走った。

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