働かざる者食うべからずじゃけえ
翌朝、俺たちはまた暗黒地帯の森に来ていた。
「浦波!」
俺の放った剣撃を受けてシカ型の魔物が真っ二つになる。
「ほう、若様に仮免許を受けただけのことはあるな」
ギルバートは木に寄りかかってタバコを吸っている。見られているから加護全開で戦うこともできない。
ガートは昨日と同じく草むしりだ。
必然的に、俺の攻撃は剣と魔法の2つになり、昨日のように無双状態とはいかないのが欠点だ。
ただ、進化した加護のおかげで戦闘は大分楽になっている。
昨日試していなかった気功術という加護、これは体中をめぐる生命力を操作し、体の一部を強化したり、相手に打ち込んで内部破壊を起こすというものだが、瞬間的に剣の威力を底上げすることで、重量操作とは比べ物にならない威力を発揮する。
「しかし、やりにくいな…」
コピーとの戦いでも、昨日の戦いでも加護全開で戦ったから、制限された戦いに全然慣れない。
「魔法っても、もっとバリエーションが欲しいしな…」
魔法を習ってから知ったことだが、各家には秘伝の魔法が伝わっていることが多いらしく、鬼霊魔法も元々はサンスーシ家が秘匿していた魔法らしいので、恐らく公になっていないだけでも100を超えるという。
加護の次は魔法を勉強してもいいかもしれない。
「ほらほら、嬢ちゃん手が止まってるぞ?」
「うっせえな、お前も手伝えっ!奥義天元!」
シカの頭が吹き飛ぶ。
お昼休憩をはさんで夕方まで俺はずっと剣を振るった。
「はあ、はあ…疲れた…」
1000人斬りを成しえたとはいえ、休憩なしで6時間近く動き回るのはちょっとつらい。魔力はまだまだありそうだからどれだけ成長したんだって話だけどな。
「嬢ちゃんはもっと魔法と剣のバランスを考えなきゃな」
「だって、綺麗に仕留めるには剣が一番楽なんだもん」
「まあな、けど冒険者ってのはバランス力が一番大事なんだぜ?死ぬときに、ああ、まだ魔力残ってんのにな…って後悔するのはいやだろう?」
「魔力が残ってるってよくわかったな」
「俺くらいになればそんくらい余裕だっての」
「で、どうすんの?今から帰ったとしてもまた、門番につかまるんじゃ…」
「まあ、まかせとけって。腐ってもギルドチーフだぜ」
ギルバートが借りてきた荷馬車に戦利品を積み込み、門の前に行くと、案の定門の前には昨日よりも大勢の衛兵が待っていた。
「よう、今日も大漁だな」
「ああ、おかげさんでな…」
「今日はあんたの顔に免じて半分でいいや、置いて行きな」
「舐めんじゃねえぞ?」
「あん?何だったらあの腐れギルド潰しても構わねえんだぜ?」
「言ったな…」
ギルバートは懐から一巻の書状を取り出した。
「冒険者ギルドは皇帝陛下から認められた独立組織だ。ガルシア侯爵だろうとギルドの経営には口出しをせん。それに…この嬢ちゃんはモンタグート侯爵の知り合いだぜ?」
「なっ、モンタグートの…」
「ああ、現役バリバリのバスコ・モンタグート殿のお墨付きだ。昨日は事を大事にしたくねえっつうんで、引き下がったがな」
ギルバートがポケットから再び取り出したのは、血刻印。剣の形をした赤い宝石を真っ白な石に埋め込んだモンタグート家の紋章。
昔は人の大腿骨に刻み目を入れ、血で塗ったとか…
ミヒャエルだったころ、バスコが剣の鞘にぶら下げていたのを見たきりだ。
ギルバートがぎろりと睨むと、衛兵たちが全員一歩下がった。
「本当なら侯爵殿に…」
「わかった!通っていい…通っていいから…モンタグート殿には…」
「それじゃあ、終われねえな」
「…おい、馬と荷車を持ってこい」
「金もだ、金貨2枚にはなっただろ?」
門番が悔しそうな顔をして、昨日のリヤカーと馬、縄なんかの荷物が奥から運ばれてきた。
「金はない。さっさと消えろ」
まあ、全員で分けたらそんなに残らねえだろうしな。
荷馬車が帰ってきただけでもいいかって…
「そんなわけあるかああっ!」
衛兵の鎧の上から風霊撃を食らわせ吹き飛ばす。
「なかったら、稼げや!こらあっ!」
威力を弱めた風霊撃を連発し、衛兵達を吹き飛ばす。
全力で撃てば鎧くらい簡単に貫通するんだけどな。
「まあ…嬢ちゃんの言う通りだ。明日の夜までにギルドに持ってこい。持ってこなかったら…わかるな?」
「そんな…」
「それからな、モンタグート殿はガルシア城にいるらしいぞ?ここから遠くないからな、金策は早くした方がいい」
ギルバートはガートに昨日のリヤカーを引かせると俺の手を引いてギルドへと向かった。
「まあ、あんだけ脅しとけば明日には耳を揃えて持ってくるだろうさ」
「…それにしても、あいつらってあんな事ばっかりしてんのか?」
「多分な。ガルシア領の兵士の給料が低いから、当然質も落ちる」
…それをなんとかしようとしてたのに。
飼い犬に手を噛まれるなんて、シャレにもならないぜ。
「ミカエラ…泣いてんのか?」
「ばっか、泣いてねえよ」
「俺で力になれることがあれば何でも聞くからな?」
「さんきゅ。でも大丈夫だから」
ギルドの机の上に広げた獲物を解体しながら、ギルバートは分厚い帳面を付け始めた。
「キュピロクワイス12頭、月光草45束、薬草50束…3人で出かけたにしたら上出来だな。諸経費を抜いて…こんなもんか」
ギルバートは俺に金貨1枚と銀貨5枚を差し出した。
「もうちょっと何とかなんない?」
「バカ言え、ギルドチーフの出張料金にガートのこづかい抜いたらこんなもんだ。まあ、明日からは無事に通れるだろうから、もうちょっと稼げるさ」
「まあ、いっか。でさ、依頼なんだけど一日でどれくらいこなせるかな?」
「まあ、今日で大体12件くらいこなしただろ?あと接近戦に強いやつが1人いればそこそこやれるんじゃないのか?」
はい、フェルナンドさんですね。わかります。
「あてはある、病気が治ったら連れてくるよ」
「嬢ちゃんの連れか、期待できそうだな」
「ガートも結構やると思うんだけどな。門番一撃でのしたし…」
「あいつは道場剣法に慣れ過ぎだ。実戦にはもうちょっとかかるな」
あいつしばらく草むしりしかさせてもらえないのか。
かわいそうに。
「にしても、あと4日で金貨4枚か…」
「…嬢ちゃん、あんまり勧める気はなかったんだけどよ…竜退治なんてどうだ?」
竜退治…って。
「無理無理、ディモンズドラゴンなんて相手にしたら死ぬって」
「ディモンズドラゴンは暗黒地帯の最深部だろ?暗黒地帯の崖にはワイバーンが多く住んでるらしい。鱗、肉、牙、目玉、血。どの部位も魔術や薬の触媒として高値で取引されているギルドの花形だぜ?」
「ランクが足りないだろ?」
俺は初級のFランク、依頼の難易度に応じた件数をこなさなければランクは上がらない。
確か、キュピロクワイス100匹くらい狩らないとDランクには上がらないはずだ。
「流石の俺も殺すだけならともかく、100匹も持って帰れないぜ?」
「持って帰る方法がなければな」
ギルバートは奥から細かい刺繍が施された布の袋を持ってきた。
「ギルドチーフのみが所持する秘宝ビックシー。商人の倉庫1つ分くらいなら楽に入る。空気がないらしいから腐敗も少ないしな」
「なある、これで100匹狩るってか?」
「いや、どうせならこの依頼全部やって来い。おまけしてB級まで上げてやる」
ギルバートは目の前に俺が整理した依頼書をばさっと置いた。
「はい?」
「俺も欲が出てきてな。どうせならこのギルドを再開させたい」
ギルバートの目は輝いていたが俺にはどうでもよかった。




