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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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ギルドに入会したいけえね

帰るとフェルナンドはまだ眠っており、俺がそっと額の汗を拭くと眼が覚めたようだった。


「フェルナンド、スープ飲むか?」

「嬢ちゃん!?」

「似合わねえだろ?俺のガラじゃねえよな」

「いや、いい」


いい、何がいいんだか。

背中か?肩か?


男って馬鹿だなあ。


マリちゃんの事悪く言えないぜ。


「とりあえず、俺は冒険者ギルドに行ってくるわ。じゃっ!」


病院から出る前に、先生に金貨を1枚握らせて後をお願いした。


「先生、とりあえずこれで、残りは後で持ってきますから」

「うむ、急がんでもいいでな。兄貴のことは任せておけ」


冒険者ギルドは歩いてすぐの所にあった。

昨日は夜だったから気がつかなかったけど、大きな看板が出て、かなりものものしい雰囲気だ。


扉を開けると、大きなカウンターに薄暗い部屋。2人用のテーブルが沢山ならんでいて、壁際には紙クズが入った木箱が山と積まれている。


館内にいるのは、テーブルで酒をのんでいる冒険者が数十人だけ。


「すみませーん」


カウンターに手をついて奥に声をかけるが、誰も出てくる気配がない。


「すんませー…」

「無駄だぜ嬢ちゃん」


皮鎧を着こんで、背中に大剣を背負った青年が俺の肩を掴んだ。よく鍛えられた体をして、浅黒い肌がいかにも戦士って感じがする。

まあ、さわやかだけど、ミヒャエルには負けるな…ってなに考えてんだ俺。馬鹿じゃないか俺。


まあ、一時は自分の顔だった訳だし?

えこひいきしてもしょうがないけどさ。


俺は青年の手を振り払って、睨んだ。


「なにが、無駄なんだよ?」

「2年前にこの町のギルドチーフがどえらい失敗をしてな。それ以来開店休業。依頼が来ても受ける冒険者なんて誰もいねえしな」


青年は壁際の木箱を指差した。

俺はてっきりゴミ箱か何かだと思ってたんだけど…


「あれ、全部依頼か!?」

「そうだ、一応依頼は生きてるらしいがな。街の人間も便利屋か隣町のギルドに頼んでるよ」

「…わかった。とりあえず、登録だけはしたいんだ。職員はどっかにいないのか?」

「すぐそこに、“ライオンの樽”っていう酒場があるだろ?そこで飲んだくれているギルバートに聞きいてみな」

「さんきゅ。じゃあ」


冒険者ギルドを出ようとした時、青年が俺の手を掴んだ。とっさに、重力変化を使って投げ飛ばそうとしたが、男の口から出てきたのは意外な言葉だった。


「なあ、その用事が終わったらよ。いっしょに飯でも…」

「へっ?」

「いや、あんたくらいきれいだったら、その、彼氏くらいいるよな、すまんっ!忘れてくれ」

「いや、いないけどさ」

「本当か!じゃあ」

「行くとも言ってないけど」


俺の一言一言に青年の顔がどんどん変わる。

あんまりにも可哀そうになったので、俺は青年の頭をポンポンと叩いた。


「あんた名前は?」

「俺か?俺の名前はガートルード。ガートって呼んでくれ!」

「よろしく、俺はタ…ミヒャ…ミカエラ・T・ホワイトウッズ」


無理矢理だよええ。

タのつく名前なんて思いつかないし…

元気だなおい。


「ガート、実はギルドで登録できたとしても、どうなるか全然わかってないんだ。だから…」

「わかった!待ってるぜ!」


話を聞けよ!このバカちん!


「はいはい、そういうことで」


…おい


……おいおいおい


「なんでついて来るの?」

「案内するぜ!」

「まあ、いいけどさ」


昨日の夜来た酒場は、がらんとして客は一人しかいない。テーブルを拭いていたお姉さんが俺を見て、驚いた顔で言った。


「あら、あんた昨日のかっぺちゃんじゃない」

「あ、すみ、すんません。昨日はどうも」

「あらあらあら、一気に垢抜けたどころか、訛りもなおっちゃって、彼氏まで…若いっていいわね」

「いや、彼氏じゃないですから」

「そう…この後ごはん行くんだぜ」


にやけて、もじもじしているガートルードの鳩尾に肘を叩きこんで訊ねた。


「あいつがギルドチーフか?」

「ああ、ギルバート、俺も金を引き出しに来たときしか会ったことないけど」


ギルバートはハーブを漬け込んだ薬酒をちびちび飲んでいた。


「あんたがギルバートか?」

「…なんだ姉ちゃん、金ならねえよ」

「ちげえし、ギルド登録したいんだけど」

「無理だ」

「無理じゃねえだろ。登録だけでいいからしてくれよ」

「試験官がいねえ」

「あんたじゃだめなの?」

「そうだ!やってやれよ!この子が可哀そうだろ!」

「ガートうるさい」


ギルバートは俺のおっぱい、顔、おっぱい、おっぱい、顔を交互に見て言った。


「姉ちゃんが受けんのか?やめとけ。魔法かじったくらいじゃ冒険者は無理だ」

「いいから、受けさせろよ」

「…わかった。表に出な」


通りの真ん中でギルバートは腰の剣を引き抜いた。が、剣先が震え、どうにも危なっかしい。

下手に精霊魔法使ったら死にそうだし、加護は目立ちすぎるからな。


「さあ来な…」

「大丈夫かよ、もう」


威力を最大限に殺した水霊撃オンディーヌアローを放つ。最悪、気絶か肋骨にひびが入る程度だが、剣を抜いている以上しかたないしな。


水弾は螺旋を描きながらギルバートの肩に当たり、ギルバートは剣を取り落した。


「勝負ありだ…っ!」


落とした剣が地面に吸い込まれ、俺の足元の地面から剣先が伸び、俺は空中に飛び上がった。


「…土霊駁撃ガイアショット!」


岩の嵐が足元の地面をえぐり、剣を消しとばす。


「…さあ、負けを…ってもう!」


剣先は後ろに伸びた俺の影から突き出した。


「…土霊駁撃ガイアショット!」


剣は半分に折れ、石畳に突き刺さった。

これでもか、というほど。ギルバートに魔法を放つが、当たった瞬間は痛みを感じたかのようにしゃがみこむのだが、すぐにケロリとしており、さっきの剣が俺の邪魔をする。


何かおかしい。

ギルバートは1ギルドの職員でこんなに強いわけがない。ましてや、俺は曲りなりにも魔王の加護を持つ人間だ。押されるということ自体おかしい。


「気持ち悪くなりませんように、天眼龍目!」


その瞬間、時が止まった。


ギルバートは遥か離れたところで俺の戦いを見物し、肝心の剣は手の中にある。

そして、俺の足元には大きな魔方陣が現れ、作動している。


夢幻魔法イリュージョンか。


「エーテルガード6式!」


あの地獄で生みだした俺の特殊魔法。

霧状になった防壁が幻覚、幻聴、その他の法術の効果を打ち消す。


一般の魔力量じゃ、到底不可能な荒業だけどな。


「さあてと、私をおもちゃにした罪は重いですよギルバートさん!」


ギルバートに飛び蹴りを喰らわせ。腕をねじあげる。


「ぎゃあああ!降参!降参だ!」

「えーなに。聞こえないなあ。ぎっこんばったん…」


ギルバートの悲鳴を無視して、ねじった腕をさらに上下に動かす。


「ミカエラ。あの、ギルバートって魔法以外じゃすっげえ弱いから…やめた方が…」


俺の肩を叩いたガートを制し、ギルバートの肩を外そうとしたとき。


ポキン…


「あっ…(察し)」

「あ…(察し)」

「「あ”…(察し)」」


道行く人々が俺の方を見ている。


「あの女、人の腕を躊躇なく折りやがった…」

「魔女だ…」

「あんなにかわいいのに、なんて恐ろしい」

「ぎっこんばったんって、何かの呪文か?…」


ガートが俺を抱え、ギルバートに肩を貸し、ギルドに逃げ込んだ。

ギルバートを椅子に座らせ、折れた腕を布と剣の鞘で固定する。


「…やりすぎだぜ、ミカエラ」


流石のバカ、いやガートも青ざめた表情で俺を見ている。


「すまん、ギルバートやりすぎた」


ギルバートはしばらく俺の顔を見ていたが急に笑い出した。


「っくっく、だが悪くはない。俺の夢幻魔法イリュージョンを破ったのはこれで3人目だ」


ギルバートは薬酒をあおりながら、にやにや俺の顔を見た。


「いいだろう、ギルド登録してやる。こっちに来な」


似ている、ガリガリで頬骨が出ているし、ちょっといじっただけで骨が折れるけど、似ている。


バスコ・モンタグートに似ている。


自分より強い人間を素直に認められる。強い人間を見たときの眼のギラつきが似ている。


「姉ちゃん名前は?」

「俺はタ…ミヒャ…ミカエラ・T・ホワイトウッズ」

「…どっから来た?」

「オラニエ領…」

「精霊魔法と法術は?」

「精霊魔法は6属性、法術は簡単なやつなら…」

「一番威力のある魔法は?」

「エレ…っん。風霊奔流エアリアルストリーム

「武器、流派は?」

「片刃剣、南方剣術を少し…」

「正直に言わねえと安い依頼しかだせねえぜ?」

「すんません。仮免許レベルだと言われました」

「言われた?誰に?」

「バスコ・モンタグート…」

「…ほう、若様のお墨付きが出たか」


若様って。

そんなガラじゃないだろ。


「何か役に立ちそうな加護は持ってるか?」

「じゃが…じゃなくて、妖精女王グレートマザの加護を」

「はい、はい、はいっと。じゃあ終わり。お疲れさん、隣町のギルドに紹介状書いておくから明日来てよ」

「隣って…そこに依頼あんじゃん」

「あんなん、新しくても3か月前の依頼だぜ?労力に見合わねえよ」

「見せて」


木箱に詰め込まれた依頼書は薬草採取や鉱物採取などオーソドックスなものがほとんど。

中には、魔物退治などもあるが、そんなに強いのはいないしな。


「これって…ギルドが立ち行かなくなるほどか?」


そこそこ腕の立つ人間が何人かで組めば危険もなく解決できそうなものばかりだ。


「2年前、ガルシア侯爵様直々の依頼が持ち込まれた。暗黒地帯の開発と魔物の駆除だ」

「暗黒地帯の魔物って…」


あいつに立ち向かったのか?


「ああ、それでこの街の腕利きは全滅。それからはギルメンのレベルが低すぎて1人では無理なものばかり。グループで組むと安い依頼が貯まっていく。依頼がこなせないから隣町のギルドにみんな依頼する…の繰り返しさ。いまじゃ、そこのボウヤが金を引き出しに来るぐらいでな」

「腕利きを雇えばよかったんじゃ?」

「腕利きが薬草採りや小物退治なんてするかよ。もっと割のいい仕事は帝国中にあるんだ」


なるほど…プロフェッショナルに依頼するには単価が安く、素人がやるには危険すぎると。


そりゃこんなに依頼が貯まったら、酒に逃げたくもなるよな。


「これは薬草採取、これは魔物退治、これが…」


あれあれあれ、これってもしかして…


「悪いガート、飯は無しだ」


「…そうだよな。つきまとって悪かったな。じゃあ…」


ガートの目尻に涙が浮かぶ。

こいつ、めんどくせえな。

爽やかなスポーツマンタイプのくせに、濡れた子犬みたいな雰囲気がうざい。


一部女子には受けそうだけど、ミヒャ×ガート本みたいな。鬼畜攻めとヘタレ受け…うわ、きっしょ。


「ちーがうって…わかった今日は一晩中つき合え」

「がもしゃっ…一晩中!…突き合う…大切にするよ」

「多分お前の考えてる事とは180度違うからな。あとギルバート、依頼金の預かり状と帳簿もってこい」


俺は机をくっつけて、その上に木箱の中身をひっくり返した。


「なんで、ガルシア領の手助けなんてせにゃならなんのだ…」


俺は山と積まれた紙を見ながら、歯を磨きだしたこのバカにどうやって計算を教えようか考えていた。

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