魔王誕生やけえ
「…流石に500人はきつかったな」
有機物操作で血を止める。
かすり傷ばかりだが、数が多く、出血の量も少なくないのでちょっとふらふらする。
俺は神鏡に手を当てた。
「我、白野森卓美が命じる、加護を示せ」
白野森卓美
魔王、ガルシア家令嬢、オラニエ家養子、建築家、ドワーフの女王、エルフの女王、七海の女王、アテネの女王、美の女王、詩聖の女王、牧人の女王、森の女王、大地の女王、芳香の女王、魔物使いの女王、服飾の魔女、厨房の魔女、偏光の魔女、書架の魔女、マイニーモー
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神霊喰い(Ⅹ)
天眼龍目(Ⅹ)
邪眼(Ⅰ)
妖精女王(Ⅹ)
土精霊の加護(Ⅹ)
気功術(Ⅹ)
無拍子(Ⅹ)
高速思考(Ⅹ)
鑑定眼(Ⅹ)
記憶術(Ⅹ)
自然治癒(Ⅹ)
身体硬化(Ⅹ)
重力変化(Ⅹ)
斬撃創造(Ⅹ)
物質硬化(Ⅹ)
毒物創造(Ⅹ)
有機物操作(Ⅹ)
土石操作(Ⅹ)
金属操作(Ⅹ)
鉄器創造(Ⅹ)
熱操作(Ⅹ)
空気創造(Ⅹ)
酒精発破(Ⅹ)
魔力発破(Ⅹ)
火炎無効(Ⅹ)
発破無効(Ⅹ)
氷水無効(Ⅹ)
土石無効(Ⅹ)
鬼霊無効(Ⅹ)
味覚改竄(Ⅹ)
視覚操作(Ⅹ)
調音(Ⅹ)
音創造(Ⅹ)
四獣変化(Ⅹ)
従獣屈鳥(Ⅹ)
…魔王はわからんでもないけど。なんか、訳のわからん加護がついている。
女王とか魔女とか勝手なこと言われてるし。
マイニーモーってなんだよ。牛かよ。牛じゃねえよ。
…虚空の魔女とかマイニーモーも加護をもった人間ってことなのかな?
「おっと、いけない。出口は…と」
魔方陣は押しても引いても光らない。
部屋のどっかに穴でも開いてんじゃないかと思って思ったけどなんもないし。
…確かに魔王になったから出口が出るとは言ってないけどさ。こういうのって、出口が出てくるパターンだろ?
「…フェルナンド出すか」
フェルナンドを包んでいる鉄の繭をほどき、引っ張り出す。
「よっこらせっと」
「嬢ちゃんこれは…」
「んーと、千人切りやったんだけど駄目でした」
「…この神代遺産を使ってみろ」
フェルナンドが書物と首飾りを差し出す。
首飾りを身に着け、書物を開くが、前と同じで全く読めない。
「読めない、ってか前と同じ」
「…次は首飾りだな。魔王白野森卓美が命じる、扉よ開けって言ってみろ」
「魔王白野森卓美が命じる、扉よ開け」
何も起こらない。
「もっと、かわいくだ」
「てめえ、本当に病人かよ…魔王白野森卓美が命じちゃうよっ☆、扉さん開きんちゃい!」
何も起こらない。
てか、フェルナンドが生暖かい目で見ているのがムカつく。
俺はフェルナンドの額に熱を生みだした親指を押し当てた。
「とうっ!親指根性焼きっ!」
「あじいいいい!ごほっ、ごほっ、やめれ…ごばああっ!」
フェルナンドが吐血して慌てて手を止めた。
「すまん!ってか、死にかけなのに無茶すんなよ!」
「…すまん。タクミ…魔方陣の文字が変わったことに気がついたか?」
「えっ、あっ…」
己が魂を喰らった獣、魔王となりて降臨せん。顕現せしめん次代の魔王。
…てか、気がついてたなら言えよ。
あとでフクロな。
俺は以前フェルナンドのコピーから剥ぎ取った熊の毛皮で作ったリュックに神代遺産と当分の食糧を詰め込んだ。
そのリュックをお腹の側に向けて身に着け、剣を腰に、フェルナンドを背負う。
「歩けるから降ろせ…」
「ふざけんな、黙って乗ってろ」
俺は魔方陣に手を置いた。
「己が魂を喰らった獣、魔王となりて降臨せん。顕現せしめん次代の魔王!」
あの時と同じ光が俺達を包み、そして俺は目が覚めた。
「うっ、出られたのか…」
俺達は、あの棺桶が置いてある部屋にいた。
俺の手には、あのメダルが握られていて、裏面の文字が俺が唱えた言葉に変わっている。
「このメダルが入り口なのか?」
「…そうみたいだな。ちょっと借りておこうぜ」
「墓のもの盗んじゃダメだろ…」
「でもな、ここに来たやつが迷い込んだら、美味礼賛もないから死ぬぞ?」
「…すんません。これ少々お借りしますんで…」
俺は墓に手を合わせて、走った。
城の外は暗闇で覆われていたが、新しい加護のせいか全く気にならない。
重量操作を行った時よりずっと、軽く進むことが出来るし、力、体力とかも比べ物にならないくらい向上してるから、木々の間を風のように走ることができる。
暗黒地帯を抜けると、防壁のてっぺんが森から見えた。
「…構想の粋を出てないけど。やるぜ!」
「なにを…うをっ!」
風霊浮遊を自らにかけ、風の魔法を連続して、自分をふっとばす荒業。
フェルナンドのHPが削られていくのがわかるから次から使わないようにしよう…
城壁が見える位置で、地面に降りてフェルナンドを抱え直す。
「おーい、生きてるか?」
「次はぜってえ歩け…おえっぷ」
「すまんって」
青い顔をした、フェルナンドを抱えて門に駆け寄った。
「すみませーん!開けてくださーい!」
奥から、門番が出て来る音がした。
小窓が空いて、真っ赤な顔をした門番が出た。
大分酔っていて、ろれつも回っていない。
「なんだあ、もう閉門の時間だ。明日にしろ」
「すみません、兄が病気なんです。開けてください!」
「嬢ちゃん…」
「なっ、なに言ってんのよお兄ちゃん!もお」
フェルナンドに当身を喰らわせ意識を飛ばして、怪訝な顔をする門番に向き直った。
「お願いします。せめてお医者さんだけでも…」
「うっせえなあ、一日ぐらい放っておいても死にはしねえよ…」
「そっか…そうだよね…」
このクズが。
俺がガルシア侯爵だったら、てめえはクビだ!
「おいちゃん、ちょっとこっち向いて…?」
「うん?」
「酒精創造!酒精奔流!」
小窓から覗いた顔にアルコールを大量に放出する。
加護に風の魔法、水の魔法を組み合わせたオリジナル技、口、鼻、目からアルコールを送り込み相手を瞬時に酩酊させることが出来る。
「むううう」
「おねんねしてな」
タクミんったら悪い女よねー!
「俺ったら末恐ろしいぜ…」
地面に穴を開け、城壁の中に潜りこむ。
「さてと、医者は…」
神眼霊目と同じように、意識を張り巡らせた。
「うわっ、なんだこれ!」
幾重にも重なりあった街の景色が俯瞰で、下から、上から右から、朝の風景、夜の風景、子供の声、大人の声…いろんなものが頭に入ってきて、一瞬目の前がふらついた。
「…地道に探すしかねえか」
街の灯りはすべて消え、人々は寝静まっている。
唯一見える明かりも酒場っぽいしな。
「あそこで聞くしかねえかな」
俺の格好は以前のぼろぼろになった上着の代わりに、毛皮で作ったTシャツもどきを着て、下はカットオフパンツ。
この世界の基準でも相当目立つし、俺ってかわいいらしいし?
イケメンの次は美少女ってもーっ!
…自分で言う事じゃねえよな。
だから、あんまり人目につく場所に行きたくないんだよね。特に、酒場とかあんまりいいイメージがないしな。
けど、まあ、喧嘩買っても負けはしないし。
背に腹はなんとやらだもんな。
「すみませーん…」
「おっ、姉ちゃん一晩いくらだい?」
「死ねっ!」
まあ、おっさんはワンパンで沈めた。
セクシーな恰好をしたお姉さんに話しかけた。
「あんの、あんちゃんがぶっ倒れちまってえ。おいささんさ見せてえんだけんど…」
「あんたどこの田舎から来たのよ?」
「いんやあ、あんちゃんと狩りに来たんだけど。街さ来たらえらい目にあってなあ」
「…お医者なら、そこの角よ。看板があるからわかるでしょ。なんか食べていけば?」
「いんやあ、だけんど銭っこがあ」
「いいわよ、あのバカにつけとくから」
「気持ちはうれしいんだけんど、あんちゃんさ、はやぐおいささんに連れてかなきゃなんねえから」
俺はお姉さんに丁寧にお礼を言うと外に出た。
もちろん、起き上がりかけたおっさんに一撃喰らわすのも忘れずにだ。
いいお姉さんだったな。
こんどご飯食べにまた来よう。
にしても、あんなに田舎っぺアピールすることなかったな。
お姉さんの言った通り、道の角に行くと見覚えのある紋章を掲げた家が見えた。
…これってどっかで見たな。
医薬をつかさどる家、マートルフォリー家の紋章に似ている。
赤十字みたいに病院はこういうマークを掲げるんだろうか?
「あのー、すみませーん」
明かりがつき、奥から寝間着の上に赤いチョッキを羽織ったおじいちゃんが出てきて、ランタンを俺に向けた。
「なんじゃ、こんな夜中に」
「すみません、兄を助けてください」
「まあ、入るとええ」
寝台に寝かせると、おじいちゃんはぎょっとした顔で俺を見た。
「いつから、熱が出た?」
「一昨日くらいから…」
「難しいぞ。今夜が峠だな…」
「そんな…」
俺は全身の力が抜け、膝が地面につくのを感じた。
ランタンの光が揺れて、真っ白な部屋を照らしていた。




