地獄の果てじゃけえ
「おらあああっ!」
俺のコピーが真っ二つになって倒れた。
「これで5体目」
あれから1月、俺たちは何とか生きている。
それから、魔人の加護を増やす方法にも目途がついた。
それは、俺が俺のコピーを倒すこと。
フェルナンドのコピーを倒してもいいが、それはカウントされず、フェルナンドはどっちのコピーを倒してもカウントされない。
その理由は恐らく魂喰いと関係している。
この屋敷はやはりガルシア家と関係があったらしい。
なんらかの理由で、ガルシア家の人間が力を欲した時に、ここに来ていたのだろう。
その証拠に、3体目を倒してから戦闘が圧倒的に楽になった。
そりゃあ、俺と同レベルの相手3人プラスフェルナンドのコピー3体の魂を取り入れたっていうのもあるだろうしな。
コピーには魂喰いで手に入れた力は反映されないらしい。
いや正確に言うと、この空間で手に入れたコピーの分か。
俺の熟練度はほとんどマックスのⅩまで上がっているし、魔力も、腕力もかなり増加している。
5体目なんかは単純な体術だけで倒せたしな。
というわけで、週一ペースだったのが一日1回になり、もうちょっとすれば、一日2回になるだろう。
「あとはお互いの情報の補完だな」
俺はフェルナンドがこの空間に入ってからの200年間の歴史を、フェルナンドは家に伝わる遺跡や加護についての情報を。
俺は追われる身だし、フェルナンドは帰る場所がない。お互い、相手を信用しなければ生き残る保証はない。
今俺たちにできることは、とにかく腕を磨き、知識を蓄えること。
俺はトレジャーハンターとして、そして、貴族の教育を受けたフェルナンドから知識を、フェルナンドは俺から戦闘の訓練をそれぞれ教え合い、高め合った。
魔法についてはお互い、得意なものしか使ってこなかったこともあって、双方鍛錬には時間を費やした。そのおかげで俺は雷と氷の精霊魔法を使えるようになったし、フェルナンドも水の精霊魔法を初級まで覚えた。
そして武器の開発だ。
熟練度が上がったおかげで、鉄器創造で精製した武器の強度が上がり、そこそこ複雑な武器も作れるようになった。
俺の世界にもあったトラばさみやくくり罠、フェルナンドが遺跡で見たことがあるという、毒矢の発射装置など、罠や使えそうな武器を試作してはコピー相手に試す日々が続いた。
まあ、コピーは罠だってことを知っているらしく、無理矢理突き飛ばしてなんとかなったんだけどね。
フェルナンドがバラした俺の頭部を美味礼賛に放り込むのももうすっかり日常の風景だ。
生の心臓を食べないと魔人の数値が上がらないとかじゃなくて本当によかった。
「こっこらせっくす」
「殺すぞてめえ!」
「おお、怖い、怖い」
フェルナンドも精神的に安定したのか、女が来て発情したのかはわからないが、初めのイメージからしたら随分フランクになった。
まあ、当主のくせに墓荒らしなんてしてるんだから、元々遊び人気質なんだろうな。
ちなみに、俺が寝ている間。時々トイレに籠っているのは知らないふりをしてやっている。
武士の情けってやつだな。
コピーの死体は着々とフェルナンドが保存食に変えたが、ペースが速くなりすぎたので、最近は食べ物が余り気味だ。まあ、単純計算に90キロ近い質量を食べ物に変えている訳だから、余るのも当然なんだけど…
余った分は、調味料やハーブ、乾物、氷砂糖なんかに変えて部屋の隅に積み上げている。
「にしても、食材にも変えられるんだな」
「まあ、イメージの方法次第だな。熱々の山盛り岩塩が食べたーいってイメージすれば料理判定されるし、味のついてないハーブサラダが食べたーいって思えば、山盛りハーブの出来上がりってね」
「何が、食べたーいだよ、脳みそスイーツか」
「まあまあ、ここから脱出したら、ひと財産できるぜ」
「まあ、氷砂糖は今でもめちゃくちゃ高価だからな」
フェルナンドが土魔法で作った壺や皿が最近はとても重宝している。俺が作ると分厚くて、底がガタガタになるから、200年の経歴は伊達じゃないっぽい。
壺一杯の氷砂糖って金貨1枚以上するんじゃないだろうか。
帝国の砂糖は花糖と言って、世界樹の花から集めて作ったものが主流だ。
人が集めるから、ハチミツならぬヒトミツだな。
癖もなく、俺の世界にもある上白糖に近いのだが、この世界樹、三大太守の1家リリエンタール家の領地にしかなく、ほぼリリエンタール家が独占している状態だ。
噂では、世界樹の枝を折った人間は即刻処刑されるとか。種を持ち出そうとした人間の両腕を落とされたとか不穏なうわさがいくつもある。
そうやって、500と3体目を倒したある日、フェルナンドが体調を崩した。
熱が出て、咳が止まらず、ずっと寒い寒いといって震えている。
200年ぶりの疲れが出たんだろうか。
毎日、同じ食べ物、同じ風呂、トイレを共有しているが、俺にはなんともない。
しかし、症状は結構重いようで、食べ物もすぐに吐いてしまう。
「フェルナンド、リンゴジュースだけでも飲め」
「…すまねえ、本当なら俺が嬢ちゃんを…」
「気にすんなって、今は脱出の事を忘れてゆっくり休め…」
しかし、フェルナンドの熱は下がらず、体力はどんどん落ちて行った。
「…フェルナンド、話がある」
「ああ、俺も多分同じこと考えていた」
「やっぱりな」
フェルナンドは枕元に置いた剣の1振りを俺に渡した。
「さあ、一思いにやってくれ。嬢ちゃんみたいなべっぴんなら大歓迎だ」
「…お前、なに考えてんの?」
「足手まといを作るこたあねえ。俺が死ねばコピーも1体しか出ねえはずだしな」
「この、大ばか野郎!」
男って本当に馬鹿ばっかりだ。
あのバスコにしろ、シャイロノエルにしろ、アドナイアスにしろ、あの皇帝にしろ、ジルバンテにしろ、マリアの弟にしろ、ミヒャエルにしろ…
てか俺が出会った奴って全員馬鹿じゃねか!
それでも、こいつは一番馬鹿だ。
「お前が200年辛かったことを、俺に味あわせる気かよっ!このバカチン!イ○ポ!オナ○ー野郎!」
目から涙がこぼれた。
もう、この体って涙もろいからやだ。
ミヒャエルの時もずっと泣いてたけど…
「…悪かったって」
「どっちの意味でだよ!」
「いや、そのオナ…」
「死ね馬鹿!」
俺は鉄条網と鉄の糸でフェルナンドを大きく囲った。トゲに包まれた鉄の繭が部屋の片隅を覆う。
「しばらくそこにいろ!」
フェルナンドの愛剣ファンタンラトゥールを手に魔方陣に触れる。
「かかってこいや!」
飛び出してきたタクミコピーの首を抜き打ちで落とし、狼に姿を変えたフェルナンドのコピーの後ろに回り込んで脳天に剣を突き立てた。
痙攣して倒れたフェルナンドを見ても何の感慨も湧かない。
生きているフェルナンドのために、あと500回俺はこの地獄を繰り返す。
脱出さえできれば、なんとか手立てができるはずだ。
最悪ガルシア城に戻ってでもフェルナンドは助ける。
「これで504人目…」
死体を隅に放り投げ、もう一度魔方陣に触れた。
「奥義、天元!」
タクミコピーとフェルナンドの喉元から血が噴き出す。
以前の俺には力が足りず使えなかったバスコの得意技。
胴体を両断し、同じスピードで喉元を掻ききる。
…てか、バスコ俺に使ってたよな。
「これで505人目…」
剣を持った手で魔方陣に触れた。
「オリジナル魔法、四大精霊駁撃!」
まあ、オリジナルと言っても、4つの精霊魔法を一度に放つというだけなんだけどな。
土と風の魔法を回避した2体のコピーは穴だらけで焦げた死体に変わる。
固まった血を生体分解で流し、返り血を防水の加護で弾く。足元に死体が集まったら、炎で焼いて隅に寄せる。
魔法は尽きる気配がないし、剣はますます冴えわたる。
「つぎいいい!鉄器創造!血塗れの道!」
床に敷いた鉄の板が起き上がり、コピー達を捕え、締め潰す。板には一面に鋭いトゲが立っており、人間の防御力だと頭蓋骨を突き通し、心臓がへしゃげる。
トラばさみを応用した、フェルナンドと俺の合作の罠。
1からイメージしなくてもいいように、完成品に名前を付けて頭にイメージとして叩きこんだ。
「空気創造!」
掌底で頭を壁に叩きつけ、圧縮空気の塊を放つ。
巨大なハンマーに押しつぶされたかのように、へしゃげピクリとも動かなくなった。
どれも、500体の俺を倒すうちに編み出した俺の新しい戦い方。
1体殺せば体力と魔力が回復し、常にまっさらな状態で戦える。
気がつけば、部屋中に真っ赤な水溜りが出来き、魔法陣にはいくら触れてもコピーが出なくなった。




