地獄の始まりじゃけえ
「それにしては大分おどろおどろしいけど」
大昔に栄えた裏ガルシア家とかでもあったのだろうか?
俺の聞いた中じゃそんな話なかったけどな。
それに、霊壁の中にある資料には目を通したけど、大臣を暗殺したとかはあっても、裏ガルシアとかはなかったはず。
「もしかして、統一以前の遺跡かなにかか?」
もし、俺がまだガルシア侯爵だったら、いい観光資源になんだけどな…
「って、もうあんな領地のことなんて知らないんだからね!」
今の俺ならこんなセリフも余裕である。
…うそだ。めっちゃ恥ずかしい。
「なんか残ってないかな。せめて服でも」
今の俺は逃走中の峰○二子並みに露出が多い恰好をしているからな。
崩れた屋敷の中は、陶器の破片と何かの模様が描かれた石、そういったものしかない。
「後は霊壁か…」
この立派な暖炉の跡とかいかにも霊壁が隠してあるっぽいんだけどな。
改易が行われた城は血縁者でも開けるようになるらしいが…
「俺って、もうガルシア侯爵じゃないんだよな…」
ミヒャエルに譲るのはもうちょっと後でにしておけばよかったな。
「我、白野森卓美が命じる、霊壁よ扉を開け」
…って無理か。
暖炉はびくともしない。
「もー、期待しちゃったじゃんか」
俺が岩の上に腰を下ろしたとき、地下でなにか音がした。
地下?階段なんてあったか?
この下が埋まっているのか?
「…っても今魔力ほとんどないんだよな」
床をふっとばすのは無理だな。
よし、掘るか。
鉄の棒を床石の隙間に押し当て、てこの原理で1つ1つ外していく。
2重になった岩の下から中空になった空洞が現れた。
「墓か?」
そこは、石材で作った大きな棺桶が部屋の中心に置かれた部屋だった。
「RPGとかならともかく、勝手に棺桶を開けるのは気が引けるな」
まあ開けるんだけどね。
「すみま千円!」
石棺の蓋を開けるとまあ、想像した通りかっさかさに乾いた死体が現れた。
女の人だろうか、長い髪を持ち、衣服も上等なものを着ている。
それに、長い剣と金色のメダルをかけているが…
「流石にこの服着る気にはならないよな。剣も刃の部分がぼろぼろだし。儀礼剣だったのかな?」
メダルには廃墟の入り口で見た裏ガルシアっぽい紋章が刻まれており、裏面には文字が書かれている。
帝国統一以前に使われていたという古代文字、一応素養として学んでおいたのがこんな所で役に立つなんてな…
「えーと、己の魂を貪り、飢えを満たせぬ獣、魔王となりて君臨せん、されば求めよ無限の回廊…か。ん、魔王?」
メダルが光り、俺は思わず後ずさった。
「これってやっちゃいけない奴だったんじゃ…」
床に魔方陣が現れ、光り輝き始めた。
「あっ、これほんまにあかんやっちゃ…」
俺は本日2度目の意識を失った。
「…うん」
「おう、起きたか嬢ちゃん」
倒れた俺の前に汚いおっさんがいた。
さっきの部屋よりも広い石造りの空間が広がっている。出口も窓もないのに、天井がほのかに明るく、隅々まで見える。部屋の隅には棚があり、いろいろとものが入っている。
「はっ?誰が嬢ちゃんじゃぼけえ」
「怖ええなもう、せっかくかわいい子が来たと思ったのに…」
そういや俺って女に戻ったんだったな、しかも半裸の…
「悪いおっさん、ちょっと気が動転してた」
「まあ、おあいこってことで、俺も乳触ったしよ」
俺はおっさんの顔を蹴り飛ばした。
「殺すぞてめえ!」
おっさんは古臭く汚いシャツを着て、その上にこれまた捨ててある毛布で縫い上げたようなチョッキを着ている。一応と2本の剣を腰に差している。
「おっさん、剣士か?」
「ん?いや俺はこう見えてもマドラス家当主、フェルナンド・G・マドラス様だ」
「嘘つけっ!マドラスっったら200年前に当主が失踪して…って、あんた…」
「そう、俺が失踪したと言われている8代目当主だよ」
「うそん…」
「嘘じゃねえさ、あれ見てみな」
フェルナンドが指差した壁には傷が無数についている。
「一日1つ傷をつけてる、かれこれ200年は経ってるな」
「って、この部屋で24時間の経過ってわかるのか?」
「まあ、俺の加護だな。一日三回、他の生き物に変身できんだ」
「やってみて」
「さっき、やっちまった」
フェルナンドの指差した、方向には真新しい傷があった。
「てか、200年経っているならなんであんたは生きてんの?それに食べ物だって…」
「それが、ここの不思議なところでな。この空間にいる限り、老化だけは起こらないみたいだ」
「老化だけ?」
「それから、食い物の事なんだけどな…」
「うん」
「神代遺産って知ってるよな?」
「霊壁とか帝国統一以前の宝具のことだろ?」
「ここには5つのアーティファクトがあってな、それが俺がここに来た理由なんだが…」
「おっさん墓荒らしかよ」
「墓荒らしじゃねえトレジャーハンターだ!」
「いっしょじゃねえか。まあいいや、で、その神代遺産って?」
「1つはどんなもの、無機物、有機物関わらず放り込んだものを想像した料理に変えてくれる鍋“美味礼賛”、古代魔法で書かれた書籍、神鏡、なんだかわからねえ首飾りと…」
「と?」
「あの魔法陣だ」
壁にかかったマントを取り払うと、金色の魔法陣が現れた。
今まで見たことがないほど複雑で、真ん中に鏡がはまっている。
「ぜってえ、さわんじゃねえぞ?」
「なんだよこれ」
「魔法陣の上を見てみろ。読めるか?」
「…己の魂を貪り、飢えを満たせぬ獣、魔王となりて君臨せん、されば求めよ無限の回廊。これってメダルに書いてあるやつじゃん」
「多分、それがここから出るヒントなんだろうな…」
「触ったらどうなんの?」
「もう1人俺が出て来る」
「もう一人の俺?」
「それで、俺に向かって襲い掛かってくるんだ」
「…トラップか」
そいつを倒せないと出られないってことか。
「じゃあさ、あんたが触って二人がかりで倒すっていうのは?」
「おれ1人だけならいいが、お前さんとセットで出てこないとも限らん。あんたもかなりの腕利きだろ?」
うーん、怖いな。何が起こるかわかんないからな。
俺対俺ってどっちが強いのかわかんないし、てか、俺と同じ強さだって保証もないしな。
「あんたは一度触ったんだな?」
「ああ、1年に1回死ぬ気で戦って、殺してた。毎晩、鏡から俺が襲ってくる夢を見て目が覚めるよ」
「なんで?」
「腹が減るのさ。ほんとうにゆっくりだが確実に腹は減る。多分体の代謝と関係があるんだろうな」
さっき、放り込んだら料理に変えてくれる鍋があるって言ってたよな…
「おっさん、もしかして…」
「ああ、俺を料理して喰ったんだ」
仕方がないとはいえ、想像以上にひどいところだな。
「さっき出られるって言ったよな?」
「ああ、これを見ろ」
フェルナンドは神鏡に手をかざした。
「フェルナンド・G・マドラスの名において命ずる。フェルナンド・G・マドラスの加護を示せ!」
フェルナンド・G・マドラス
マドラス家当主、魔人(0/1000)
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隷属(Ⅲ)
獣体変化(Ⅹ)
魚身変化(Ⅱ)
鳥翼変化(Ⅷ)
従獣屈鳥(Ⅴ)
天舌地耳(Ⅳ)
「どれどれ。おっさん家の加護は動物使いか、てか魔人って…」
「ああ、…恐らくこれが脱出のカギになるはずだ」




