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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第三部 タクミの成り上がり編
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タクミとしての一歩じゃけえ

森に追突した俺は、木々を曲げ、大地を溶かし、風の精霊魔法を使い果たし、何とか着地した。

馬車をも浮かす風霊浮遊エアリエルフロートだが、魔封じの首輪が関係しているのか威力は10分の1近い。


多分、尻の辺りの骨が折れて、肋骨にもひびが入っている。


「いって…さてと」


丹田呼吸で痛みを散らし、何とか立ち上がる。


「このままじゃ、見つかるよな…」


とりあえず、来ている服を脱いで燃やす。

あのサイコサドなにを仕込んでいるのかわかったもんじゃない。


近くの大きな木の枝を落とし、生体分解と有機物操作で体を覆える布を作り出す。

ほとんど新聞紙並みの耐性しかないから、どっかで服を手に入れないといけないな。


それに武器も。

金属操作が使えるとは言っても、そこそこの腕があれば両断できる強度だからな。

少なくとも、受け止められるだけの武器は手に入れておきたい。

ミヒャエルだったころに学んだ剣の技術や魔法、加護はそのままらしいが、肉体的に大分弱くなっていることは否めない。

今迄みたいな力技じゃやっていけないだろう。


それに、アドナイアスは隷属で動きを封じているが、あいつらが合流するのもすぐの事だろう。

それまでに、戦う準備か逃げる支度をしておかなくちゃならない。

落ちて死んだと思ってくれたら一番いいんだけどな…


「…死ぬ?」


あいつらが俺の生死を確認する方法は実はそんなにない。

この世界の人間じゃないから、領民としての加護はないし、職業の加護は名前がわかっていないと確認できない。

それか、あいつの言っていたように血統交換を行い、あいつに侯爵位を譲渡すれば…


「もしかして、あいつが侯爵の加護を確認したら、俺が死んだと思うんじゃねえの?」


俺がジルバンテやアドナイアス、ガルシア軍を支配下における権限を自ら放棄するとは考えないはずだ。

もし、血統交換をする以外にあいつをガルシア侯爵の地位につけることが出来れば…


神鏡も霊壁もない今、これは賭けに近い。


がもしも、俺の目論見が当たればあいつらを完全に出し抜くことが出来る。


「我ガルシア侯爵の名とすべての権限において、ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルにガルシア侯爵位を譲渡する」


…できたかな。念のためもう一度。


「我ガルシア侯爵の名とすべての権限において、ガルシア侯爵位を退き、ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルにガルシア侯爵位を譲渡する」


…効果の確認もできない。本当に賭けだな。


さてと、次はどうするかな。ガルシア領には手が回ってるだろうしな。


「この森で暮らせるかな…」


狩りはともかく、人の入っていない森は魔物が多い。

ゴブリンでさえ、一般の兵士が3名程度でようやく相手できるほど強い。


俺にはチート級の加護があるとはいえ、体も弱いし、24時間襲われる環境じゃどうしても俺に分が悪い。


「せめて、隠れ家さえあればな…」


適当にずっと進んで、生き物の気配を探る。


…なにもない。


ただ、食べられない草木と水しかない川。


魚も獣も、虫もいない。

ちょっと気味が悪いな。


手に持った鈍刀を長い槍に変える。


「朝まで待つか…」


木に登り、体に鉄器創造で作った鎖で縛り付ける。


遠くで木が倒れる音がした。

まあ、魔物だとしてもこの距離ならいいか。


しかし、落ち着いて考えれば、考えるほどムカついてきたな。


ミヒャエル達が俺を襲撃したのは、法に触れずに何かをやるためだった。

そのために、ハイエルフの軍や魔導師、剣聖を必要としたのだろう。

ただ、ガルシア領ではできないことが、出来るようになったか、計画を変えたか。


大体、侯爵位を使って影でできないことってあるのか?


てか、あの桃色ローブ裏切んなよ。

最初の印象が悪すぎたから、「あっ、こいつ実はいい奴なのね」って思っちゃったじゃんか。


あームカつく…


…ん?

さっきから音がどんどん近くなってないか?


さっきから、目の前の木がどんどん倒れてるんだけど…


これってやっぱり…


「グウアアアアアオオオオオオ!!!」


「だよね…」


堅い水晶の鱗、鉄よりも丈夫な牙と背中に沿って生えたトゲ。

毒を吐き、空気を汚し、地面を喰らうガルシア領最強の魔物、ディモンズドラゴン。


ガルシア家の歴史でさえ、退治できたのは3匹だけだという。

まあ、4大属性以外のブレスと金属でない牙を持っているから、相性は最悪だが、それにしても、ガルシア家に仕えた歴代の剣聖や魔導師を相手にしてほぼ無敵のドラゴンが目の前にいるって…


「…これって本当に死ぬかもな」


とにかく、気配を消し、周囲の光を集め姿をずらし、全速力で逃げる。


体重をほとんどなくし、風の魔法も併用しているから相当に早いはずだが…


俺の頬をディモンズドラゴンのブレスが掠める。


「これって毒だっけ?それとも鬼霊ディモンだっけ?」


魔力をただぶつけるタイプっていうのもあるからな。


数キロ移動してからも、ディモンズドラゴンはあきらめる様子が全くない。

俺は防壁を張りながら逃げるので精一杯。少しでも掠れば死ぬ自信がある。


爪が起こす衝撃波で、体中は傷だらけだし、今まで無限に続くかに思えた体力も尽き掛けている。

足の爪なんかほとんどないんじゃないだろうか。


…怖いから見てないけど。


もうだめかも。と思った瞬間、目の前が開き、俺の目の前に石造りの廃墟が現れた。


「鉄器創造!ナイブスレイン!」


鉄器創造で作ったナイフを風魔法で空に舞いあげる、オリジナル技。

殺す気満々の技なので人には使ったことがなかったのだが…


「やっぱだめか」


意識をそらせただけだった。


「しかし、それで十分!」


土石操作で砂煙を巻き上げ、ありったけの魔力を土の精霊に預け、壁を築き上げる。


壁が崩れたとき、俺は既に地中深く潜っていた。

地鳴りがどんどん遠くなり、全く聞こえなくなるまで、大分の時間がたった。


…行ったかな?


そろそろ苦しいんだけど…


そっと、地上に頭だけ出すとディモンズドラゴンは周辺を荒らしまわってどこかに行ったらしい。


「まじ怖い、まじ怖い。てか、ここどこだ?」


廃墟はもともと、宮殿に匹敵するような大きさの建物だったらしいが、今は屋根すらない。


それに…


数十本もの腕を持つ乙女がそれぞれの手に武器を持ち、足に4匹の蛇を絡ませている。


「あれって、ガルシア家の紋章か?」

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