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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
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ガルシア家の家計簿じゃけえ

「うっしゃ次いい!」


ガルシア城に俺の声が響き渡る。

俺が判を押した書類が召使の手によって綴られ、記録庫にしまわれてゆく。


こういったらなんだけど、いまの俺って人の倍くらい頭の回転がいいから、書類仕事がサクサク進む。


「ふっざけんなてめえ!こんな予算通るわけねえだろ!このマヌケ!」


メイディランドから派遣された会計士たちが恐怖で慄く。

帝国最強、冷血のガルシア侯爵が自分たちが整理した帳簿を振り回して臣下達に激を飛ばしている。


ここは戦場か。いや、戦場に非ず。しかし、ガルシア侯爵のいるところすべてが死合いの場である。


メイディランド家でこんな言葉が伝わるようになったのがこの時からである。


「てめえ今度やったら殺すぞ!」


無駄な装備を購入した兵站担当の頭に帳簿を投げつける。


「あなたもです、税収の計算も出来ないのだったら代官なんてやめてしまいなさい」


アドナイアスが杖から熱光線を放出して代官の持ってきた書類を焼き尽くす。


「いや、焼いたらいかんだろ」

「…明日中にもう一度持ってきなさい。」


アドナイアスの無茶ぶりに震えながら、代官たちは震えながら、退出していった。


ガルシア城はこれまでにないほど忙しい。

何しろ、イスパハンが集合するまでの2週間ほどの間に雑事は片しておかなくてはならない。

ムンディー領、シャイロノエル領でのいざこざがあったせいで書類仕事が溜りに溜まっている上、俺が新しく始めようとしているプロジェクトもスタートさせなければならない。


何せ、イスパハンは歴代最強の戦士達、全力で対応できるようにしなければガルシア領が滅ぶ。


「なっ?ガルシアの家計簿ってむっちゃくちゃだったろ?」

「ええ、ここまで無駄があったとは気がつきませんでした」

「なまじ大きな組織だからな、一人一人の意識が高くても、全員のこととなると忘れがちなんだよな」


一時期俺がバイトしていた事務所でもアルバイトの女の子が毎日1時間かけて書類から裏紙をまとめていたけれども、あれだって、金銭面だけ考えれば新しい紙を使った方が遥かに安上がりらしいし。


「経済って残酷だよな」

「なにが残酷ですか、誰も殺すわけじゃないでしょうに」

「死ぬよ、お金は人を殺しえる存在だ」

「…文官のようなことを言いますね」


一通りの紙を片付けると、俺たちはお茶の準備をさせ。

メイディランド家の会計士との会議に移行した。

これからの財政や、帝国全土の経済情報を得るのが目的だ。


「さてと、正直に言ってガルシア家の状況はどうだ?」

「あまりよろしくはありませんな」


会計士が相場表を見せる。


「今現在、戦がないこともあって、穀物の値段が比較的に下がっております。ガルシア家の収入のほとんどが農耕関係からの税収ですからな、それに伴って収入も下がっております」

「…いま、金になるのはなんだ?」

「平和な時代ですから、絵画や美術品、出版物、荷馬車などの運搬手段、金銀や宝飾品などの市場が急成長しています。もしくは、高級なお茶やタバコ、果物、花糖かとう、菓子、珍味などの趣向品などでしょうか…」


食料品の値下がりが進む一方、趣向品の生産量がここ数年で倍近くに膨れ上がっている。


「魔法具とか加護付きの武器とかは?」

「数が限られていますからな、領地を支える収入源にはならないでしょう」

「…アドナイアス。さっき言った中でうちの領土でもできそうなことってあるか?」

「…ワイン、果物はもっと質を重視するとして。後はタバコくらいでしょうか。他の領地が得意とするものに手を出しても仕方ないですしね」

「まあ、そっからだよな。後は、法人化か…」

「法人ですか?」

「ああ、今って工房や生産者から買い上げた商品を商人が各領地で売りさばくっていうスタイルだろ?けど、それじゃあ、扱える商品に限りがあるし、改良、改善も遅くなってしまう。だから、自分で作って、運んで、売って、新しい商品を開発してって言うのを管理する組織が必要だと思うんだよ」


これぞ、俺が名づけた「ガルシア総法人化計画」、アホ領主がいても領地が滅ばないように経済基盤をしっかりつくる必要がある。と、思ったのだ。


「確かに、貴族や商会を通すよりも早いかもしれませんが…」

「管理する人間がいないってか」

「ええ。親方マエストロはあくまで製造に関する人ですから」

「まあ、初めはガルシア家から出せばいいさ」


メイディランド家頼りなのが気がかりだけどな。

会計士専門学校とか、いろいろ作りたいけどそれも時間がかかりそうだし。


「時間がないなあ」

「まあ、改革というのはそういうものです」


その間に、売れるものを売って、節約して…。はあ、領主なのに地味だな。

別に戦争したいわけじゃないけど。


「それはそうと…」


会計士が小さな冊子を差し出す。


「ミヒャエル様の人気が帝国全土で広まっていまして、意外な所で物品の売り上げが伸びているんです」

「意外な所?」

「特に南方の僻地では何があったのか、ガルシアと名のつくものはすべて高値で取引されているようでして…」

「まじでか」


ガルシアブランド効果が早速発揮されているらしい。


「ガルシアミクス発揮じゃねえ」

「帝都でもガルシア領の物品が品薄状態が続いていましてな、偽物も出回っているとか…」

「偽物か…」


流石にこんなに早く人気が出るとは思わなかったからな。

偽ブランド対策なんて全然できていない。


「アドナイアス、帝都のガルシア邸に伝えろ、偽物を売ってる商店で特に悪質なものは2~3店くらい焼き…いやぶっ潰してもかまわん。それで大体収まるだろう」

「ふふふっ、ミヒャエル様も随分ガルシアに馴染んでらっしゃるようで…」


アドナイアスが不敵な笑みを浮かべて、自室に去って行った。

会計士たちは引きつった笑顔でこちらを見ている。


「…流石はガルシア様ですな」

「家の体面保つのにも金がいるんだ。金の為に家の力を使ってもしかたないだろ?」

「けれども、それができる貴族はそうはいませんよ」

「…なあ、メイディランド家ってローゼンバウムから何か言われているんじゃないのか?」

「まあ、他の北方貴族と同じ程度のことは…」

「無理に協力しなくてもいいんだぞ?」

「別に無理にというわけではありませんよ、お館様は大分したたかな方ですからね、これぐらいの事へっちゃらでしょう」

「一度会ってみたいもんだな」

「ええ、是非いらしてください。それからこれはアドナイアス様には内密にお願いしたいのですが…」


会計士はそっと封筒を差し出した。


「シャイロノエル様の助命嘆願書です。その、お館様はじめ…」

「わかってる、俺もフレドリカ様、オラニエ伯爵、バスコに署名をお願いしておいた」

「なんと言ったらよいのか…」

「いいさ、元凶はローゼンバーグだ」

「…」


俺も元々ほかの貴族領を潰すつもりはない。

正々堂々と勝負して、負ければそれはそれでよかったのに…

本当にあの石頭はしょうがねえな。


「…さてと、俺はちょっと席を外す、アドナイアスには適当に言っておいてくれ」

「どちらに?」

「ちょっと、買い物にな」


俺は馬小屋の裏にある小山に手を触れた。


「土石操作!」


小山の空洞部分がぽっかりと空く、ガルシア領内に帰ってから作り上げた俺だけが知る隠れ家だ。


「よっと」


粗末な服、安物の剣、フード、茶髪のかつらを身に着け、フェリシテに貰った変装用粘土で冒険者風に変装する。

そのまま、抜け穴を通り、場外へ出ると、カスバートを呼び出し、パルマンティエ領に飛ぶ。


「パルマンティエ領は牛飼い、羊飼い、牧童、屠殺人の加護か…」


そう、オラニエ伯爵に教えてもらった裏技をまず、パルマンティエ家で試すことにしたのだ。


「首を洗って待ってろよローゼンバーグ!」


カスバートが呼応するようにいなないた。

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