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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
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トラブルならおまかせやけえ

「イスパハン?」

「ええ、歴代の1000人斬りを成しえた武人のみが就ける最強の役職です。中将の加護にプラス“不老”の加護を持っている最強の部隊です」

「不老?死なねえのか?」

「不死ではありませんから死にますよ。まあ、まだ死んだ者はいませんがね」


おいおいおい、えげつないチートが出て来たな。

ローゼンバウムとか瞬殺じゃえねの?


「ジルバンテより強いんじゃねえの?」

「まあ、ジルバンテもなかなかの使い手ですが、あくまで加入条件が1000人斬りですからね。ここ400年ほど新メンバーは入っていません」

「400年前って…何人いるんだよ」

「12名、最高齢は960歳、最年少が432歳です」


消火の終わった城からマリア達が出てきた。

手には黒く焦げた塊を握っている。


「ミヒャエルさまああ、やっぱり駄目でしたあ」

「しゃーない、ダメもとだったしな。マリちゃんおいでチューしたげよう」

「チューっチュー―って。うっひゃーああ」


マリアが鼻血を出して倒れ込む。


「おっと」


バスコがマリアを抱えて黒い塊を俺に渡す。


「まあ、再生の加護を持つ人間に頼めば何とかなるかもしれんな」

「そんなのいるのか?」

「製本職の親方マイスタークラスの人間がそういう加護を持つと聞いたことがある」

「しかし、ローゼンバウムの野郎、タクミヒャエルの味方じゃねえだろうな…」


シャイロノエルとの勝負はお預け、ロンサール家の登記の写しや、領内への入場記録、ムンデすべてィー家との書簡、取引の記録などはすべて燃えてしまっていた。

これが、タクミヒャエルの策略なら恐ろしすぎる。ローゼンバウムの嫌がらせが最悪の結果を残したと考えるしかない。


「今回の収入はサボー先生の衣装だけか…」


サボー先生は俺が連れ去られてから、何を考えたのか家に籠って猛烈にデザインを起こし始めた。

服に、靴に、剣帯に、帽子、馬車に、馬具、鎧、尻の部分に穴の開いた革製の服など…


一番最後は無視するとしても、真っ赤なビロード地に金糸で帝国南方の唐草と花のつぼみを刺繍した衣装は現代日本人の感覚からしてもかなりかっこいい。


ガルバリウスが仕立て屋に発注しているから、明後日には全員分が届くはずだ。


「まあ、シャイロノエル家を潰せただけ大収穫ではないか」

「そういう目的じゃなかったんだけどなあ」


大体、ガルシア家ヤバスっていうネガキャンしただけじゃねえか。他の家がビビッてしょうがねえわ。


「シャイロノエルとロンサールはどうする?」

「シャイロノエル伯爵以外は家に連れて帰る。暗殺でもされたらかなわんからな」

「全く、帝都の暗殺者も質が下がったものよ」

「は?」

「昔なら原因不明の死の6割が呪殺か暗殺と決まっておったのに、虚空の魔女といいフェリシテといい、暗殺者がこうも簡単に見つかってしまうとは情けない」

「…そういう問題か?」

「良い悪いではなく、身を投じたからにはそれに殉じろということだ」


バスコの戦ブレインは時々理解ができなくなる。生死に関する考え方が俺とは全く違うのだ。もっとも、バスコがちょっと極端なだけでマリアなんかも同じ考えらしいがな。


「…ベルイジスに馬車を用意させよう」


その真夜中、俺たちは宿でようやく一息つくことが出来た。俺なんかは気絶した時以外はずっと戦っていたし、マリアも最近は出ずっぱりだったしな。


「ふう、なんか腹減ったな」

「ミヒャエル様!マリアが…」

「いらん」


マリアが差し出した消し炭をアプローズのローブの袖に放り込む。袖が焦げ、煙が出たところを見ると、熱はまだ完全に失っていなかったらしい。

ベルイジスが慌てて、水を注ぎ、消火した後、上がった水蒸気を吸って倒れた。


「マリちゃん、何入れた?」

「…ミヒャエル様が元気になるお薬を」

「そんなもんどこで手に入れたのっ!」

「サイドシェリーが…メイディランド様は1滴でけだものに変わるというので、ミヒャエル様なら100倍は必要かなあなんて☆」


ばっちりとVサインをして、舌を出したマリアを部屋から追い出す。鍵をかけると、バスコが楽しげにマリアの真似をしてからかった。


「うあああん、空けてくださいミヒャエル様ああ!ぎゃはははは!ざまーみろモグラ娘」

「モンタグート様!マリアはそんな言い方しません!ミヒャエル様ああ!」

「うるせえ!お前ら静かにしないと叩きだすぞ!」


着替えたアプローズが運んできたお茶とサンドイッチをつまみながら、ガルバリウスに手当てをしてもらう。


「大分ひどくやられましたな」

「武器なしだったからな。まあ、モンセラートがあればこっちのもんだったけど」


アドナイアスが俺に紙の束を放り投げた。


「なんだこれ?」

「南方貴族からのファンレターと北方貴族からの抗議の手紙、それから、決闘状がたくさん」

「あっ、そう。で、イスパハンはいつ来るの?」

「帝国全土に散らばっていますからね、全員が揃うのはあと1週間はかかると思ってください」

「アドたんブチ切れたのだと思ってたけれど、意外と悠長なこと言ってるな」


アドナイアスが小さな石像を12個机の上に並べた。

一つ一つに、イスパハンのメンバーと同期しており、あちらもお互いの所在を把握しあっているらしい。


「なにが悠長なもんですか、イスパハンは400年ぶりに戦いができると息巻いているのですよ?」

「え、じゃあ帰ってくださいとかは…」

「済むわけないでしょう?下手したらガルシア家に牙を向きかねませんよ」

「お前余計なことすんじゃねえよ」

「この太平の世で三大太守を暗殺しようだなんて、尋常じゃないって事を自覚なさってください」


ファンブランとモニカは肩を抱き合って震えている。バスコが差し出した酒を一息に飲み干すとファンブランは深いため息をついた。


「安心しろ、改易されたとしてもお前たちの命は助けてやる」

「シャイロノエル家が改易されるなんて…」

「済んだことを言ったってしょうがないだろう、冒険者ギルドにでも入れ、お前の腕なら2人や3人養えるだろう」


バスコがファンブランの肩を叩き、手紙を2通したため、ファンブランに渡した。


「事が済んだらこれを持って行け。ギルドマスター、モンタグート家の道場に見せれば、それなりのもてなしをしてくれるはずだ」

「バスコ、ギルドマスターと顔見知りなのか?」

「ああ、こう見えてもS級のライセンス持ちだ。ミヒャエル、お前も道場破りなんてしないで冒険者ギルドにでも入ったらどうだ?」

「まあ、あんまりにもややこしい事ばっかりだったからな。さすがに俺も飽き飽きしてきた」

「だろ?」


アドナイアスが俺に決闘場を差し出した。


「なにを馬鹿なことを、もう後戻りなどできないことくらいご存じでしょう」

「だよな。で決闘っていつだ?」

「…1週間後ですね、お相手はブルグント家の3男、ペリリュー・ブングルト様です」

「ああ、あいつか」


バスコが最後のサンドイッチをつまむ。

その顔はいかにもつまらなそうで、俺は決闘と聞くと血が騒いで仕方がないバスコがそういうのを不思議に思った。


「知ってんのか?」

「あいつはちょっと頭がおかしいのだ、まともな貴族なら相手にせんな」

「はああ、アドナイアス。決闘相手を同日同時刻にガルシア領内に集めろ。立会人は何人いてもかまわん」

「なにをなさるんですか?」

「イスパハンに相手をさせる。奴らの力を見るチャンスだしな」


ガルバリウスが手を叩いた。

いちいち決闘の相手なんてしてられないし、イスパハンは来るし、暗殺対象になってるしで、一度俺達はガルシア領内に戻った方がいい。

魔導師や剣聖に対抗する手段もまだないしな。


「流石ミヒャエル様、あの冷血な部分まで似てきましたな!」

「いや、似てねえから」

「しかし、ファンブランといい、あの錬金術師といい厄介な人間ばかり連れ込むのは勘弁していただきたいですな」


バスコが俺の肩をバシバシ叩く。


「わっはは、ミヒャエル一本取られたな」

「いや、お前がいうなよ」



ちなみに、マリアは廊下の前で寝こけていて、次の日の朝メイドに見つかり大騒ぎになったのだった。

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