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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
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燃え行くシャイロノエル城じゃけえね

燃えるシャイロノエル城を見つめながら、伯爵親子は膝をついて呆然としている。


「アンプローズ…じゃねえよな?」

「ああ、脱出用に荷物をまとめて、サンダリオ達と一緒に待っているはずだが…」


「ローゼンバーグ卿だ…」


シャイロノエル伯爵は真っ白な顔で地面を叩いた。

なるほど、北方貴族の家全部に圧力がかかっているのか、しかし…


「まさか、いくらなんでも…」

「お前たちは北方貴族の厳しさを知らんのだ!」

「…お前が言っているのは、帝国の歴史の事か?」


帝国の歴史上、改易、廃嫡、血統変換が行われたのが、北方貴族である。当主からの血筋が残っておる家は南方貴族に比べて遥かに少ない。

記録や書物では当主の乱心、病気、子宝に恵まれないからなど様々な理由があったが…


「全部ローゼンバーグが関わっているってのか?」

「私もそれは知らん。ただ、帝国四家以外に表だってあの家に逆らえるものは一人もおらん」


バスコの顔が少し青ざめているのがわかる。

あの剣速を実際に見たのなら、シャイロノエルの言うことがあながち嘘じゃないってことがわかる。


「…ミヒャエル、どうやら俺たちは藪を突きすぎたみたいだ」

「ああ、バスコ。俺もちびりそうだ」

「マリアもちびりそうです…」

「マリちゃん!」


バスコは顎に手をやって、首をひねった。


「まあ、けど今更引き返すわけにもいかんだろ?」

「…まあ、そうだな。アンプローズ!」


風の精霊魔法で声をアンプローズに向かって飛ばす。

ハイエルフのアンプローズは精霊から直接声を聞くことができるので、受信専用の通話手段になっている。


アンプローズはサンダリオ達を連れて10分ほどで現れた。


「ミヒャエル様これは…」

「悪い、消火に手を貸してくれるか?」


アンプローズが手の紋章を空にかざすと天気が変わった。


「ええ、雨蛇曝露ナーガレバレーション!」


バケツをひっくり返したような大雨が城を包み込む。

それでいて、アンプローズや俺たちには一滴も水がかからない。


「すごいこれが天候魔法…」


マリアが口をポカンとあけて空を見ている。


「俺も初めて見たな…」


様々な精霊に働きかける高等精霊魔法。帝国でも使用できるのはハイエルフか風のゴーシェンロード伯爵家、魔導師のみだと言われている。

まあ、攻撃力は無に等しいのであくまで戦術魔法らしいが。


「これをノーチャージで発動できるってんだからな」

「まったく、加護持ちの僕達も油断できないな」


サンダリオとオクタビオは城の人間を非難させながらそうぼやいた。


「あの、モニカ様の姿が見えないのです」


兵士たちによって運び出されたメイドがファンブランに縋り付いた。


「なんだと!お前たち周囲を探せ!」


火の中に飛び込もうとしたファンブランを兵士とシャイロノエル伯爵が抑え着けた。


「やめんか馬鹿者!」

「離せええっ!モニカが、モニカが…」


ファンブランが叫びながら膝をつく。


「モニカって?」

「ファンブラン殿の妹君です…」

「ぬああ、しょうがねえ。おい、シャイロノエル!一つ貸しだかんな!」


俺はアプローズから受け取った魔力回復薬を飲み干し、水霊壁オンディーヌガードを身に纏い、炎の中に飛び込んだ。

時折崩れてくる木材をモンセラートでぶった切り、鉄器創造で巨大な楯を作って、炎から身を守る。


「モニカ―、モニカちゃーん!」


毎秒えげつないほどの魔力が水霊壁オンディーヌガードに消えていく。

この熱気と炎で水の精霊が城の内部にはほとんどいなくなってしまっている。いくら、加護があっても、ないものを創造するにはとてつもなく力がいる。


空間把握系の加護で周辺を探るが、いくら伸ばしても1階には人の気配がない。


「地下か、二階か」


俺の魔力は底を尽きかけている。水分補充でマントや口に当てたハンカチを濡らしているが、それも焼け石に水だ。

どちらかを探せば、もう片方に行くことはできないだろう。


「さてと…二階かな?」


半分自棄だったが、俺は天井を切り抜き、鎖を天井に引っかけてよじ登った。

意識を2階に巡らせると、ほんのわずかだが、炎よりも低い温度を感じた。


「…助けて」

「大丈夫か!水霊駁撃オンディーヌショット!」


周辺の炎を消し飛ばし、モニカを抱きかかえる。


「顕現せよ!カスバート!」


窓をぶち破ってきたカスバートの首にしがみつき、燃え盛るシャイロノエル城から脱出した。


「マリア!」

「お父様あああ」


モニカは全身を震わせながら泣いている。

シャイロノエル伯爵も涙を流しながらモニカの頭を何度も撫でた。


「ミヒャエル様!お怪我は?」


アンプローズが俺に傷薬を差出す。


「マーリーアが!」


と思ったらマリアが奪い取って俺に迫る。


「ミヒャエル様!マリアが手当てして差し上げます!とりあえず傷を確認するために脱いでくださいませ!」


バスコがマリアを蹴り飛ばし、俺の肩に手をかける。


「くらああっ!ミヒャエル心配するな。男同士俺が手当てをしてやろう」

「まずは、神眼霊目を解け。話はそれからだ」


俺が突き出したモンセラートをバスコは手で押さえ、するりと上着を脱がせた。後ろからマリアが羽交い絞めにする。てか、マリちゃん力が強い、押さえられた腕はピクリともしない。


「ちょっ、やめって、もうあああ!」

「マリア押さえろ、あとはシャツだけだ」

「今こそオラニエ家秘伝のボタン外しを行うべきですぅ!」


俺はマリアとバスコの巧みな連係によって上半身裸にされ、馬車の中に座らされた。


「ハアハア、こんなに傷が…」

「むふう、薬を塗らねば…」


背中に生暖かい視線と、目線を感じながら、ハーブくさい傷薬をすりこまれた。


「痛い、痛い、痛い痛いってーー」


まあ、実際虚空の魔女とやり合って傷は少なくないんだけどね。火傷もあるし…


「あのー、ガルシア様?」


シャイロノエル伯爵が馬車の外で俺たちを困った顔で見ている。

火事はとっくに収まっているが、雨がいまだに降りやまない。モニカたちもずぶ濡れでこちらを見ている。


「ああ、すまん。アンプローズ!雨止めろ。」

「すみません!」


アンプローズは俺が声をかけるまで「魔導の極み」とか言いながらドヤ顔で魔法を使っていたが、俺の声で我に返った。


「で、なんだ?」

「お命を狙ったにもかかわらず、モニカを助けていただきありがとうございました…」

「気にするな、これは貸しだ」

「しかし、シャイロノエル家はもう終わりです」

「終わり?」

「家屋敷は燃えてしまいましたし…おそらく霊廟の書物も揃ってないでしょう。シャイロノエル家は改易され、他の道場から新しい当主が派遣されるのでしょうな…」


ファンブランはモニカを抱きしめたまま震えている。

モニカが手にしたびしょびしょのハンカチが痛々しい。


「ガルシア家に手を出してその程度で済むとでも?」

「アドナイアス!」


アドナイアスが杖をシャイロノエル伯爵に向けて立っていた。後ろにはガルバリウスも控えている。


「どうしてここに?」

「ミヒャエル様につけた紐が思いのほかヒットしましてね」


紐?ベルちゃんか?

服にはいなかったよな?

まさか、カスバートに…いやいや


アドナイアスが氷狼撃ハティアローをシャイロノエル伯爵の目の前に打ち込む。


「改易?お取潰し?そんなもので済むと思っているんですか?」

「…しかし」

「しかしもクソもあるもんですか、シャイロノエル一族の血がこの地上に残るとは思わないことですね」

「そんな、せめてモニカの命だけでも…」

「はあ?後世に禍根を残すわけないでしょう?当然、一族郎党皆殺しです」


俺がアドナイアスの肩を叩いた。


「あんまり、いじめんなよ」

「ふざけるのもいい加減にしてください!」


氷狼駁撃ハティショットで俺の乗っていた馬車を吹き飛ばす。


「今度の事でガルシア家も堪忍袋の緒が切れました。血槍隊イスパハンを招集します!」

「イスパハン?」

「オラニエ家のグランドーラと同じく、血槍隊イスパハンはガルシア家の秘密部隊です」

「まだ、秘密があんのか…」


俺は上を向いて虹がかかった夜空を見つめた。

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