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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
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虚空の魔女の襲撃じゃけえ

「ってーー。どこだここ」


目が覚めた俺は真っ暗な石造りの倉庫で眠らされていた。

ポケットの中の財布やモンセラートもなくなっている。


「…牢か?」


周辺に意識を張り巡らせると、俺が入っているような牢がいくつも並んでいるのがわかった。


「逃げたほうがいいのかな…」


どうせ、マリアとバスコがなんとかしてくれるかもしれないが…


牢獄で無双されたって困るしな…


「とりあえず、何があっても出られるようにしておくか…金属操作」


牢の鍵を押し曲げ、外に出ると元に戻す。


「で、あっちが出口か…」


偏光調整って完全に姿を消すことができないんだよな。

調音で完全に足音は消せるが、一方通行だしな。


牢番の部屋の前にいると、3名の話し声が聞こえる。

「しっかし、シャイロノエル様も大胆なことするよなあ」

「ああ、あのガルシアを事故に見せかけて殺そうっていうんだからな」


はああ…!


「こればれちまったら俺らもやばくね?」

「まあ、ダローズ様にすべて押し付ける気だろうさ」

「可哀そうにな、まだ、結婚したばかりだっていうのに…」

「まあ、それは別として、すげえよなあのガルシア侯爵を一撃だぜ」

「なまじ、腕が立ちすぎるからだな。幻惑魔術の達人で帝国剣術の免許皆伝だろ、下手したら当主様より強ええんじゃねえ?」

「しっ、そのせいで侯爵殺しの濡れ衣着せられんだろ。俺たちも目を付けられるぞ…」


なるほど…、タクミヒャエルかローゼンバーグか誰か知らないが、俺たちの邪魔をしようとしている人間がいるらしい。


これは、マリアも危ないぞ…


俺はドアを蹴って開けた。

「話はわかった、お前ら全員生きて帰れると思うなよ?」


「なっ、ガルシア侯爵!」

「どうしてここに?」

「おい、誰か呼んで来い!」


壁の槍をいち早く掴んだ牢番を蹴り飛ばし、出口の扉を金属操作で固める。


「さあてと、保証してもいいが君たちの声は外には洩れない。変な考えは起こさずに、俺の言うことを聞いた方がいい。そこの君、背中に忍ばせた短剣をよこせ」


部屋の中の動きはすべて把握できている。

調音で声も漏れない。


つまり、おしおきの時間だべえってことだね。


「お、俺たちは何も知らないんです。本当に何も」

「俺を事故死に見せかけて殺すんだろ?」

「いや、それは俺たちの仕事じゃ…」

「しっ!」

「なんだって?」


俺は拾い上げた棒で話を遮った牢番の頭を殴る。


「ぐぅ」

「さあ、君の話を邪魔する者はいない。ゆっくりしゃべりたまえ」

「あの…その…」


俺は床に散らばった槍を拾い上げ、先端を熱した。

真っ赤になった槍の先を男の目の前にちらつかせながら、ゆっくりと話した。


「あのなあ、現代人は皆そうだと思うが、俺も例にたがわずせっかちなんだよ。早く言わねえと…殺すぞ」

「あの、今から虚空の魔女がここに…」

「虚空の魔女?」

「その、俺たちもよく知らないんですが、自然死に見せかけて殺す、そのエキスパートだとか」

「殺し屋か…」


俺はともかく、マリアやバスコ、サンダリオたちが危ないな。


「いつ、来るんだ?」

「…あの」

「いつ来るんだ!」

「もう来てます…」

「…は?」

「上の階に…駐屯所にはもう…」

「まじか…」


俺は牢番の口に手を当て大量のアルコールを注ぎ込んだ。


「…ふが」

「さてと…早く逃げなきゃまずいな」


隠れながら上へと登り、城壁へと続くドアに手をかけた。

表はもう夜になっていて、三日月の光が俺の影を床に落とした。

そして、もう一人の影も…


「あら、ガルシア侯爵ではございませんこと?」


俺を待っていたかのように立っていたのは、黒ずくめの女。黒いヴェールを被り、真っ赤な唇とその周りの肌しか見えない。


俺が一番驚いたのは女が手に持っていた武器だった。


「くさり…鎌?」

「あら、よく御存じね。珍しい武器ですから、初見殺しにはぴったりなんですけどね」

「あんたが虚空の魔女か?」

「あらあら、誰がばらしたのかしら…後でおしおきね」


あらあらという声と同時に分銅が飛んでくる。


「うおっ、金属操作っ!」

「無駄ですわ」


かわした分銅が俺の真横で跳ね上がり、俺の頬を掠めた。


「加護付きの武器か…」

「チルターンに勝った殿方はいませんの」


モンセラートやジュアニータのように加護のついた武器には“不壊”や“不変”の加護がついている。

物理的な方法はもちろん、金属操作や魔法などによっても変化することがない。


「てか、俺って丸腰なんですけど?」

「ふふん、なおけっこうですわね」


鉄器創造で作った武器は質が悪い。

多分、まともに受けたらこっちが怪我をしてしまう。


鉄器創造で造った短剣を数本投げるが鎖に弾かれる。

そもそも、俺って投げるの得意じゃないしな。


風霊撃エアリエルアロー!」


風霊撃エアリエルアローを連続で放ち、分銅を弾く。


「あら、魔法も達者ですのね…」

「ああ、おかげさまでなっ!土霊奔流ガイアストリーム!」


土石の嵐が城壁の一角ごと吹き飛ばす。

俺の今使える一番強力な魔法だ。


「やったか…」

「あらあら、こちらですわよ」


上から鎌が俺の腕を切り裂く。

虚空の魔女は空中で静止したまま、鎌と分銅を振るっている。


「うっ…土霊駁撃ガイアショット!」


俺の魔法を浮かんだままかわし、俺の腕に分銅を絡ませた。


「このままお空の散歩に向かいましょうか?」


鎖が持ち上がり、俺は城壁の外まで浮かび上がった。

真下には森が見える。


「離せこらあっ!」

「さて、と。ではごきげんよう」


「え。ちょいまち。まってって、ねええあああ」


ジャリンという音を立て、鎖が外れた。


「あああああ、なんちゃって、土石軟化!」


体にぶつかる枝を木質変化で防ぎ、液化した地面に潜りこみ、上部を硬化して隠れる。


…もう、行ったかな?


「よいしょっ」


砂まみれで俺が這い出すと、俺の丁度目の前に鎌が突き刺さった。


「あら、御無事でなにより」


虚空の魔女は目の前の木の上に座っていた。


「しまった…とでもいうと思ったか!」


突き刺さった鎌を岩の中に封じ込め、鎖を強く引いた。

虚空の魔女が枝からずり落ちる。


「何をしますの!きゃああ」

「鉄器創造、土石操作!」


数十本のホッチキス針の形をした鉄が地面に落ちた鎖を縫い留め、地面に沈んでゆく。

虚空の魔女も地面から現れた岩の檻に封じ込める。


「おい、一応聞くけど誰に頼まれた?」

「大人しく答えるとでも?」

「なら、ローストチキンになって貰おう」


熱創造で虚空の魔女を覆う檻を熱する。


「どうする?ローストチキンにはなりたくないだろ?」

「ふふふっ」

「何がおかしい?」

「殿方の弱点を教えて差し上げますわ…空気創造コンプレッサー!」


膨張した空気が熱された土石を吹き飛ばす。

次の瞬間、俺は息ができなくなり、地面に膝を突いた。


虚空の魔女。その能力は恐らく空気を操作する能力だろう。さっきから空気創造コンプレッサーを発動しているが全く効果がない。


風霊奔流エアリアルストリーム!」


一瞬、入ってきた空気を吸い込み、鉄器創造で虚空の魔女に向けて太い釘を放つ。

風と共に釘が魔女を襲い、腕や足に傷をつける。


「くっ!」


その時、魔女の後方からバスコの声がした。


「おーい、ミヒャエル無事か!」

「ミヒャエル様!サンダリオ様も連れてきました!」


「…今日の所は見逃して差し上げますわ。ミヒャエル様お命大事に」

「ああ、覚えとくぜ」


魔女は空に飛びあがり、消えて行った。


「あっぶねえええ」


音創造サウンドクリエーションでバスコとマリアの声を作ってみたものの。二人の声を聞いたことがある人ならそれが、偽物だということがすぐにわかる。

虚空の魔女が一度でも聞いていればすぐにばれてしまっただろう。


「俺も恨まれるようになったもんだな」


俺はハンカチで傷を手当てし、こっそりと城壁の中へを潜った。

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