薔薇のお茶館で朝食をじゃけえね
「おい、サンドイッチは一人4個までだ」
俺がバスコの手をはたく。
「細かいことをいうな、モグラ娘は2個で十分だ」
「ふええ、どうしてですかあー」
「お前は最近太ったからな…」
「ふええ、ミヒャエル様ああ!」
「うるせええ!」
俺たちはシャイロノエル領へ向かう馬車に乗っている。
一人1台用意したはずなのだが…
「お前らは、なんで1つの馬車に乗ってるんだ?」
「そういうなよ、ミヒャエルみんな一緒の方が楽しいだろ」
サンダリオが弓の弦を張りなおす。
「いや、せめて3対3ぐらいに…。痛ッ」
弓の先が俺の顔にちょくちょく当たる。
俺はサンダリオの弓を窓から放り投げた。
「バルカロール!」
弓を追って窓から飛び出したサンダリオは5分ほどで戻ってきた。
「ひでえじゃねえかよ!」
「うるせえ!文句があるなら降りろ!」
俺の馬車には、俺、バスコ、マリア、サンダリオ、オクタビオの5人。
アドナイアスとジルバンテは留守番だ。
「…3対3にしたらミヒャエル、マリアさん、バスコの3人になるだろ?」
「別にいいじゃん」
「やだ、オクタビオ本読んでばっかだし」
「オクタビオは領地の仕事してんだよ、お前も見習え」
オクタビオが加護を使って馬車の重量を減らしているからいいものの、いやよくない、狭い。デカいバスコに、背の高いサンダリオ&弓に、最近体重が気になるマリア。
侯爵家の馬車だから小さいわけではないが…
「てか、アンプロールとベルイジスは?バスコの支度させてたけど…」
「アンプロールは俺の馬車にいるぞ?」
「ベルイジスは?」
「…」
「ベルイジスー!」
その2時間後、ベルイジスが馬にまたがり泣きながら追いかけてくるのが丘の上から見えた。
「ぐすっ、モンタグート様ああ。置いていくなんてひどいじゃないすか!」
「そういうな、剣あるところ友あり、孤独に打ち勝つことこそ修行だ」
「いや、意味わかんねえから」
「まあまあ、ほら見なよシャイロノエル領が良く見えるよ」
オクタビオが指差した先には緑の平野の覆われた広大な土地が見えた。
「馬を飼うにはいい土地だ」
「ふん、うちの方が優れてるに決まってる」
サンダリオはいまだにすねている。
それから1時間もするとシャイロノエル領の城下町に到着した。
「俺とマリアはサボー先生の所に行くからお前たちは先に宿に入ってろ」
「俺も行くぞ」
「ミヒャ×バスコが揃って行く気か?」
「むう…」
ミヒャ×バスコってなあ。
ガチホモじゃねえか。
BLの範疇超えてるわ。
「お前は武器でも見に行けよ」
バスコは相変わらずあの鈍刀を下げている。
「ジュアニータに変わる剣はそうそうない…」
しゅんとしたバスコの肩を数回叩く。
「まあ、ロンサールを倒すまでのつなぎだと思ってさ」
「つなぎの剣など…」
ガルシア家にはジュアニータみたい大剣はなく、あったとしてもただの鉄の塊だからな…
「俺にはこの鈍刀がお似合いなのだよ…」
てか、面倒くせえな。
「とにかく宿にいろよ。アンプロール頼む」
「はっ」
アンプロールに荷物を預けて俺とマリアは旅服から着替えた。
「うむ…」
ようやくバスコを追い返し、サボー先生との待ち合わせ場所に到着した。
「ここが薔薇のお茶館か…てか、俺が入ってもいいの?」
「女性と一緒なら構いませんのよ。ん」
マリアが肘を突きだした。
桃色のドレスと白の帽子、パラソルに着替え、フィダルゴブラッキーは俺が布に包んで背負っている。
「なんだよ」
「ん」
「なんだよ…」
「女性をリードするのは殿方の務めですわ…」
といいつつも、マリアはちゃっかり俺の腕をホールディングしている。
「いらっしゃいませー!薔薇のお茶館にようこすおっ…!」
出迎えたメイド服の女の子が俺たちを見てお盆を落とした。
「ん?」
「マリアさまああああ!みひゅあああえるさまあああ!」
そして、鼻血をだして倒れる。
「…マリア」
「はい?」
「薔薇のお茶館ってみんな変態揃いなのか?」
「いいえ…マリアもこんなの初めてで…」
すぐさま、別のメイドが奥から走ってくる。
「ちょっとシーラあんたなにを…」
メイドさんは泡を吹いて倒れている。
「申し訳ございません。この子ったら恋人を見るとすぐ…」
「何か?」
「っまままま、マリア様?みみみみみみミヒャエル様?」
女の子を抱きかかえたままぴくぴくと痙攣している。
「またか…」
「あびすあべば…」
俺のマリアの前には2人のメイドが倒れ、それからさらに2人のメイドさんを倒した。ようやく席につけたのは、奥で調理を担当していたおばちゃんが出張ってからだった。
「マリア…」
「ええ、薔薇のお茶館制覇でもしますか…」
サングラスをかけた最初のメイドさんがメニューを差し出す。
「すみません、そのマリア様がこんな田舎にいらっしゃるなんて思ってなくて…しかも、“緋色の王子”ミヒャエル様が一緒だなんてえええええ…」
「おい!」
「はっ!まあそういうわけでお二人は薔薇のお茶館ランキング1位、3位なんですよ」
「どっちが1位だよ…」
「ミヒャエル様です、3位がマリア様…モンタグート様は5位ですね」
俺は頭を抱えた。
「流石帝国、ケタが違うぜ」
お茶とクッキーが運ばれてきたが、周囲からの視線が気になる。
貴族の女性や小奇麗な町娘などなど…
「まあなんてお美しいお二人でしょう」
「バスコ様はいらっしゃらないのかしら…」
「まあ、ミヒャエル様がこちらを見たわ…」
全員が俺たちを見ながらニヤニヤ笑っている。
試しに町娘Aにウインクしたら鼻血を噴き出して倒れた。
これ一本で帝国制覇できんじゃね?
「ガルシア領にホストクラブでも作るか…」
「ホスト…なんですか?」
「マリアは知らないでいいの」
クッキーを一口齧ると香ばしいナッツの香りが広がる。
おいしいけど、あんまり甘くないな。
この世界ってお茶にも砂糖は入れないしな…
「ところで…今日はどんな御用ですか?」
マリアがハンドバックからサボーからの手紙を取り出す。
「サボー先生にお会いしたくって来たんですが…」
「…マリちゃん?」
マリちゃん?
「えっと、どこかでお会いしましたっけ?」
「その…サボー・ティアニーです」
じいちゃん、帝国の闇は思ったよりも深かったぜ!
「…なるほど、ミヒャエル様たちの衣装を私が…」
「なんだあ!男は入っちゃいけねえってどういうことだよ!」
入り口で冒険者風の男が2人、メイドさんに絡んでいる。
一人は北方剣術の剣と短剣を腰に差し、もう一人は槍を持っている。
「ですから、このお店は女性専用のサロンでして…」
「あっちに男がいるじゃねえかよ!」
冒険者風の男が俺の方を指差して怒鳴る。
マリアが俺の方を目配せしているが、何を言いたいのか全く分からない。
「あいつはいいのか!?ええ!」
「その、女性のお連れ様がいらっしゃいましたら…」
「ははっ、それじゃああんたが付き合ってくれよ!」
槍を持った男がメイドさんの腕を強引に引っ張って席に座る。
「じゃあ、俺はこの娘を…」
もう一人の男がマリアの腕を引いた。
「やめてください!離してっ!」
「いいじゃん、俺らが御馳走するしさー」
俺は布に包んだフィダルゴブラッキーを突き出した。
「その手を離せ」
「ああっ、お坊ちゃんは黙ってろよ!」
「離せと言ったんだ。クズ」
男はマリアを突き飛ばすと剣を抜いた。
「おい、今なんっつた?」
「さっさとお友達を連れて消えろクズ」
「…表に出ろ」
「表に出るのはお前達だけで十分だろ?」
「うるせえっ!ぶっころされてえのか!」
俺はフィダルゴブラッキーをマリアに渡すと男の肩に手をかけた。
「これが最後だ、消えろ」
「死にてえのか、こらああっ」
男が突き出した剣を金属操作でへし折ると、鳩尾に一発入れた。
「がはあっ…」
槍を持った男が椅子を蹴って槍を俺に向けた。
「てめええ!」
「抜刀術、護国」
最後の男が振りかぶった槍をモンセラートで半分に切り落とし、その勢いで相手の口に掌底を当てる。
「酒精創造」
純度の高いアルコールを口の中に発生させると男はすぐに意識を失った。
「まあ、こんなもんかな」
俺が振り返ると女性たちは俺を取り囲んだ。
「ミヒャエル様、素敵でしたわ!」
「美しいだけではなく、強さも兼ね備えていらっしゃるのね!」
「…まあね」
俺は突き飛ばされたマリアの手を引いて起き上がらせる。
「マリア、大丈夫か?」
「ええ」
後ろで女性の悲鳴が聞こえた。
もう、気にしたら負けだな。
「……」
男に引っ張られたメイドさんが床に座っている。
「立てますか?」
「ええ」
答えるものの立たない。
「はあ、どうぞ…」
「きゃああああ!」
メイドさんは鼻血をふいて倒れた。
「…なんだってんだ」
兵士たちが店に入って来た。
隊長と思しき男がクレイモアを突きだして俺に突きだす。
「むっ、お前か店で暴れているというのは!」
「へっ?」
マリアが間に入る。
「兵隊さん違うんです、この人は…」
「御嬢さん大丈夫です。もう安心だ」
隊長は片手でマリアの手を握り、もう片手でクレイモアを支えている。
「武器を捨てろ!さもなくば…」
「なあ、俺の名前はガル…」
「問答無用、夢幻奔流!」
俺は意識を失った。




