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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
52/135

ローゼンバウムはぶち強いけえね

「エルゼからですよ。恥はそそいだと氷漬けになった右手を送ってきましてね」

「…エルゼ・ポールセンが何をしたのかご存じですか?」

「興味ありませんね。弱かった。それだけでしょう」


俺は全てぶちまけたかった。

しかし、剣聖同士の決闘は帝国法で禁じられている。

余計なことを話すとバスコにも迷惑がかかりかねない。


「…バスコ・モンタグートは決して弱くありません。剣も志もあなた方より上だと思っています」

「それは、貴方ではなく、世間が決めることでしょう。モンタグート殿の剣は噂に聞いたよりもずっと鈍っていたということです」

「違う!」

「はあ…死に体の南方貴族の最後の抵抗を見に来てやったというのに…貴方には期待外れです」


俺は悔しかった。家など放り出してこの男をぶっ飛ばしたい。いや、ぶっ殺したい。


俺が拳を必至に握っていると、ドアが開いた。


「南方貴族たちは決して死に体などではありません。おごり高ぶったあなた達こそ気をつけるべきですな」

「お父さん…」

「オラニエ伯爵、それは南方貴族の味方をするということですかな?」

「帝国貴族に南方も北方もないでしょう。それに味方と敵で区別するなんて、それこそ太守のすることではないでしょう?」

「…オラニエ家の考えはよくわかりました」


「のっ、のう次の展示物はモンタグートのコレクションらしいぞ」


ガクブルしていたシモン様が俺の手を引く。

この皇帝とことん駄目だな。


「…ええ、参りましょうか」


いつかこいつの家にも突撃してやる。

その時戦うのはバスコじゃない。俺だ!




「おう、ミヒャエル、オラニエ殿とローゼンバーグ殿も」

「おう盛況だな」


見てみろバスコの方が大人じゃねえか。


「モンタグート殿、お手の具合はいかがですか?」

「見ての通りハリボテだ」


バスコは綿の詰まった手を左手で握り潰す。


「ガルバリウス殿がおられるでしょう?それに、治癒魔法用にお手もお送りしたはずですが…」

「うむ、あれはありがたく頂戴した。だがな、これは戒めだ」

「戒めですか…」

「よくわからんか?」

「理解できませんね」

「それでいい。それが南方剣術の奥義だ。お主に理解出来るわけあるまい」

「…奥義ですか」

「ああ東雲一閃しののめいっせんだの、ラパロマだのは奥義ではない。剣を握るものの中にしみ込んだ哲学こそが奥義だ」


俺はバスコを改めて見直した。

ちゃらんぽらんで何も考えていないようで、その実一番深いところまで考えている。


「それよりも見ろ、なかなかの逸品だぞ」


バスコが指差したその武器を見て、俺たちは気を失いそうになった。


ローゼンバウム家の家宝アルヴァスシュープリーム…


その宝剣が“モンタグートの戦利品コーナー”に飾ってある。


「バスコ…これは」

「おう、エルゼ・ポールセンを倒したときの戦利品だ」

「…モンタグート殿、これは我が家の家宝、お返しいただけませんか?」

「それはできん。正当な戦いで手に入れたものだからな」

「剣戟で手に入れたら良いのですね?」


ローゼンバウムは腰のレイピアに手を伸ばした。


「おう、ミヒャエル喜べ。しょっぱなから北方剣術の親玉だぞ」


バスコが腰の鈍刀に手をかける。


「まてまてまて、こんな所でなにすんねん!」


「安心しろ。命まではとらん」

「ええ、私もです」


「…お父さん!」

「ええ!鉄器創造!金属操作!土石創造!土石操作!土霊壁ガイアガード!」

「石質操作、風霊壁エアリエルガード!」


お父さんが生み出した鉄と土石の壁を俺が硬化する。


「いいかげんにしろ!陛下の前で侯爵が決闘する気か!」

「ローゼンバウム。お前も自重せよ」


シモン様もちびりそうな顔をしながら俺の後ろに隠れている。


「陛下がそうおっしゃるなら…」

「むう、悪かったな」


バスコが剣から手を降ろす。


「興が削がれました。しかし、ローゼンバウムの剣を甘く見ないでいただきたい」


ローゼンバウムが剣の柄を叩く。


「!」


俺とお父さんが生み出した壁と精霊魔法が一瞬で崩れた。


「それでは…」


ローゼンバウムが部屋を去ると俺の後ろにいたシモン陛下がへなへなと崩れ落ちた。


「陛下大丈夫ですか?」

「これが大丈夫に見えるか?だっこじゃ」


…それが目的か。


「だっこじゃ」

「はいはい。そろそろ城に行きましょう。バスコも…」

「なあミヒャエルこれ見ろ…」


バスコが柄を持ちあげると、柄の真下がぽっきりと折れていた。

俺もバスコも八紋武眼はちもんぶがんを持っているのに全く気がつかなかった。


「…この剣じゃ負けたかもな」

「ローゼンバウムか…めっちゃ強ええじゃん」


陛下は俺の首に手を回している。


降りろボケ。


「バスコ。今の見えたか?」

「見えん、あれは加護、神剣光速だろうな」

「知ってたんかよ」

「あれほどとは思わんかったけどな…」

「ありゃ、みんな北方剣術習うわ」

「なに、剣技を弄んだ奴の末路よ」


「なに言ってんだよ」


「ミヒャエル、おしっこ」

「陛下我慢なさってください」


こいつは何を言ってるんだ…

今年で二十四だろ?

「ミヒャエルおしっこじゃ。トイレに…」

「陛下」   


バスコがシモン様の肩を叩く。


「ミヒャエルの姿をご存知ですな?」

「なっ、何を言っとるのじゃ。お主は…」

「というか、タクミだということもご存じですな?」

「いや、じゃから」

「へ・い・か」


バスコが陛下の頭を掴む。


めりめりという音が聞こえ、陛下の手が俺の首をぎりぎりと締める。


泣いている陛下を折檻寸前まで追い詰めると陛下はすべてを吐いた。

「陛下、女性にそういうことをしては」

「いやな、その…うううっ!」


「またか…」


「うううっ…わしはっ…帝都をっっ…うわあああん…帝都の…為にいいいいい!」


俺は再び右手を振り上げた。


「陛下、歯を食いしばりなさい…」

「いやだあああ!」


シモン様は俺に抱きついてなかなか殴れない。


「ミヒャエル、どけ」


バスコが俺の肩を引くとシモン様をぶん殴った。

シモン様は吹っ飛んだ。

壁にぶつかると壁にかけた武器と一緒に転げ落ちた。


「…ぐう」

「シモン様!」


陛下は壁に激突し、泡を吹いて倒れた。


「シモン様!シモン様!」

「うーん、むにゃむにゃ」


「シモン様!」

「うーん、ちゅーしてくれたら起きるかも」

「…」


バスコが壁の斧を取り出す。


「ミヒャエルどけ、そいつを殺せん」

「バスコっ、やめっ、お父さん!」

「金属操作!」


オラニエ伯爵が杖で斧を突き、バスコの斧が溶け、バスコを縛り上げる。

「オラニエ、離せ、離さんかっ!」

「ほら、シモン様早く起きないとバスコにらせますよ」

「タクミ…結婚しよう」


「まじで、殺しますよ…」

「うん、馬車に乗って帰るわ」


「ちょっと待ちなさい」

「ん?」

「抱き枕は置いていきなさい…」

「やだ。これ皇帝命令ね」

「…ちっ」

「何ぞ言うたか?」


この変態陛下め、こんなんだからミヒャ×シモンが流行るんじゃないか。


閉館するまで俺は貴族の相手をして時間を潰した。

ひょっとしてこの中にもタクミやそれに協力する貴族達の情報が得られるのではないかと考えたが、そんなことは全くなく、それ以上に疲れただけだった。

「で、入場料は?」

「そんなもの取るわけないでしょう。こちらから招待したんですから」

「…グッズ売上は?」

「パンフレットや図鑑、レプリカの売り上げは上々です。図鑑増版する必要がありますね」


この世界には俺が発明するよりも前に活版印刷が存在している。

最も本や紙の企画がないからいちいちそれにあわせた枠を作らなくてはいけないのでほとんど職人技になっている。


「あとは…マリア俺の言いたいことがわかるな?」

「はい…」

「陛下に取られたブツは…まあいい。マリアじゃどうしようもないだろうしな。俺が言いたいのは…」

「すみません…反省しています」


なんかマリアがおかしいな。

こんなしおらしいモグラじゃないはずだ。


「私が皇帝陛下の行いをとうとうと説明いたしました…」

「ええ、愛も過ぎれば気持ち悪いだけだとわかりました…ミヒャ×シモンなんて馬鹿な考えも反省いたしましたわ」


誰がバカだ!


「ジーン先生にもお断りの手紙を出しておきます…」


なんかがっくりと肩を落とし、ミヒャエル様人形を抱きしめている。

悪気がないだけに、落ち込んでいるマリアを見てると可哀そうになってしまった。


「いや、明日には出発しないといけないのに…」

「ご安心ください、ジーン先生のお弟子さんにサボー・ティアニー様がいらっしゃいます」

「その人に頼むってか?」

「ええ、宮廷の人気はジーン先生ですが、民間ではむしろサボー様の方が人気があるとか…」

「ちなみにサボー先生の、その、専攻は?」


マリアは急に笑顔を取り戻した。

俺はすべてを悟った。


あ、こいつ馬鹿な子だったわ…


「サボー先生はミヒャ×バスコを専門にされてますの!」



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