武器博物館開館じゃけえ
表から人のがわめきが聞こえる。
アドナイアスがお茶を持ってきた。
「ミヒャエル様、準備はよろしいですか?」
「ああ、行こう」
あれから1月、今日はこの帝国初の博物館がオープンする日だ。
ガイドには退役間近の老兵を採用し、今のところはカンペを読み上げる方式だ。学芸員は見つかっていない。
館内は対ガルシア家用の武器、ガルシア家がこれまでに収集した秘宝の類、帝国統一前の他民族、他種族の装備品。蛮族が狩りに使用していた罠や弓など。
別館とはいえ、博物館にはかなりのスペースが出来てしまったので、バスコ達から倉に眠っている武器類を大量に借りることになった。
開館式には帝国貴族の全員を招き、それに伴いインフラ、飲食、宿泊施設を増やした。
儲けが出るまではオラニエ伯爵から借金をして工事費などにあてたので、一応ガルシア領土は特需に沸いている。
「今年は豊作でしたし。なんとか家宝を売らないで済みそうです」
「まあ、借金で回っている経済だから、あんまりあてにはできないけどな」
オラニエ伯爵は城の近くに別邸を購入し、マリアと一緒に毎日通っている。土産物の貴金属やお金を借りている大事なスポンサーだから丁寧に扱ってはいるが…
「で、マリアは?」
「ミヒャエルグッズの販売に勤しまれています」
マリアはオラニエ家のコネを使い、帝国中から画家、お針子など生産職を呼びよせ、ミヒャエルグッズの生産に勤しんでいる。
一例を挙げると…ミヒャエル様ブロマイド(半裸バージョンは予約生産性)、ミヒャエル様人形(カスバート人形は別売)、ミヒャエル様キャンディー(金太郎飴みたいになっている)、絵本「ミヒャエル様とマリア」(一番売れていない)などなど…
「店は全部潰したはずだが…」
激怒したオラニエ伯爵と一緒に販売店に圧力をかけ、販売先をことごとく潰したはずなのだが…
「博物館前に屋台を出されています。人目があるだけに強制撤去もできず…」
「で、売れてんの?」
「…バカ売れです」
…まあそんなこともあるが、ガルシア領ではこの日の為に用意した土産物品が飛ぶように売れている。
実質的なガルシアブランドの第一歩だ。
「土産物や特産品の売り上げは?」
「10年物のワインはもうほとんど在庫がありません。食料加工品は全般的に人気ですね。それから、貴金属をふんだんに使用した短剣が人気です」
ガルシア家が位置する南方には唐草模様に似たつる草と花が装飾としてが定着している。そういった装飾を施した短剣や剣帯が貴族の子息に飛ぶように売れているという。
「帝国ではあの件以来、ミヒャエル様の人気がうなぎのぼりですからね。同じ武器を揃えたいという輩が多いのでしょう」
「そっかー、もっと早く準備していれば良かったな」
「そうですね、それでも武器類、時に短剣しか売れていない所を見るとまだまだ北方剣術が多数を占めているということを思い知らされます」
「他のものは売れてないのか?」
「服飾、装飾品はほとんど売れていません。やはり、帝都で揃えるというのが多数派なんでしょう」
まだまだ、ガルシアミクスの波は遠いらしい。
「あとは、デザイナーと商品開発だけだな」
「ええ、ジーン先生からもお返事が来たそうですし」
そう、マリアの書いた手紙がジーン先生の創作意欲を刺激したらしく、何枚かのデッサンと共にシャイロノエル領で会う約束をしたのだ。
それ以来マリアは薔薇のお茶館に入り浸っている。
薄い本をオラニエ家別荘に買い込んでいるらしい。
「ジーン先生は素晴らしい方ですわね。やはり、私が尊敬しているだけの事はありますわ」
「まあ、まだデザインを使うって決めた訳じゃないからな」
「いいえ、ミヒャエル様も先生にお会いしたらきっと…」
「ならねえから」
自分の薄い本出してる作家に会うってどんな気分なんだろうな…
「それより店の調子はどうだ?」
「それがもう、午前中にはすべて売り切りそうな勢いですわ!」
「…変なもん売ってねえだろうな」
「…売ってませんとも。その…今日は…」
逃げようとするマリアの背後に手をついて、襟首を掴んだ。
「正直に言え、言わなきゃ…」
「言わなきゃ…エッチなことをする…とか?」
「いいや…フェリシテ」
フェリシテが天井から降りてきた。
手にはマリアの家から持ってきた薄い本を大量に持っている。
「はっ…」
「マリア、お前が嘘を吐いた瞬間ジーン先生の著作を燃やす」
「そんなあ…」
「第一問、俺の半裸絵画を販売しているな?」
「…いいえ」
この件に関しては調べがついている。
「残念だよマリア君。フェリシテ。“赤い砂漠の王子と鷹匠”を燃やせ」
「はっ…」
フェリシテが魔法で薄い本を一冊焼き捨てる。
「いやああああ、帝国の宝がああああ!」
「正直に言わないと次の本を燃やすぞ?」
「…あります。でもっ、予約生産性で…」
「まあいい、店に出していない商品を全部吐け」
「ミヒャエル様聖水、ミヒャエル様パンツ、ミヒャエル様ソーセージ、ミヒャエル様フェロモン香水、ミヒャエル様ゼリー、ミヒャエル様抱き枕…」
「もういい」
…明らかにやばいのが混じってねえか?
聖水、ソーセージ、ゼリーって…
「フェリシテ、オラニエ別邸の倉庫から該当商品を持ってこい、ベルイジスに手伝わせて構わん」
「はっ」
結局、想像していたものとは違い。俺のイラストをあしらったパッケージのただの清涼飲料水、ただのソーセージ、ただのゼリーだった。イラストのクオリティが低いから店には出していないだけだったらしい。
「ミヒャエル様…そろそろ」
「ああ」
俺は戴冠式で着た晴着を身に着け、開館式場に出た。
会場では見た顔の貴族やその子息、一族と思われる面々が見える。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。帝国の文化振興の一助となるべく始めた試みですが、ご来場…」
長いな…
文字記憶を使って暗記したのはいいものの長い。
スピーチになれたら、ジョークとかも混ぜてみるか。
「…ではごゆっくりお楽しみください」
拍手を手にステージを降りると、アドナイアス、ガルバリウスが真っ青な顔で待っていた。
「どうした?」
「ミヒャエル様…陛下が…」
「はいい!?」
「ようミヒャエル久しぶりじゃな」
「シモン様…」
白シャツに半ズボン、色が大分白く、髪色も茶色になっているが、間違いなく17代目ラルヴァンダード皇帝がそこにいた。
「どうじゃ?変装してみたのじゃが…」
「大変よくお似合いです。その…それは…」
シモン様は小脇にミヒャエル様抱き枕を抱えていた。
あれ、禁制にしたはずじゃ…
「ほれ、さっき露店で買ったのじゃ」
「そのミヒャエル君人形はですね…その」
「知っておる、売っとらんのじゃろ。先ほどネロリの君に出くわしての。ガルシア城に隠すのがベスト、灯台下暗しですわ。ふふふ。とか言っとったので取り上げたのじゃ」
「取り上げたって…」
「わしの馬車にすべて積んどる…ふふふ」
背筋がぞわっとした。
聖水、ソーセージ、ゼリー、抱き枕…真っ当な商品のはずなのにいやな想像しか出てこない。
「その、お体にさわるといけないので…」
「心配するな食いはせん…ふふふ」
なにする気だよ…
本当になにする気だよ…
「ヘッ、陛下、皇妃様は…」
俺の顔を見たアドナイアスがフォローを入れた。
「エリアーヌは里に帰っとる。その隙を突いたというわけじゃ」
「隙って…」
「それより、館内を案内してくれんか?」
里帰りして、帰ってきたら夫の部屋にはイケメングッズと使用済みの抱き枕が…
背筋がぶるっとした。
「きっしょ…」
「何か言うたかの?」
「いえ陛下」
陛下はガルシア博物館を大変気に入り、興奮しっぱなしだった。
「わあ、兄上あれはなんですかあ?」
「これは、ドラゴンの鱗を使ったスケイルメイルだね。鬼霊魔法に弱いってことを除けば軽くて頑丈だったから一時期はこれがスタンダードだったらしいね」
そう、シモン様は見た目を最大限に生かし、俺の事を兄上と呼んでいる。
それを見た貴族たちは、
「まあ、ミヒャエル様、かわいい弟さんですわね」
「飴食べる?」
「お姉さんと遊びましょうよ…」
などなど大変好評だったわけだが、それが皇帝と気づいた人間が誰もいなかった。
まあ、俺も挨拶とかを早く終わらせられたから、よかったんだけどな。
「兄上これは…」
「これは、これはガルシア侯爵殿。最近はご活躍のようですな」
シモン様の話に割り込んできたのは背が高く、やせ気味で、ブロンドの髪をオールバックに流した中年の男、冷たい青い目が俺をじっと見ている。
「…陛下もいらしているようで」
「なっ、ローゼンバウム…」
エーレンフリート・ラ・ドゥ・ローゼンバウム侯爵。
俺の叙勲式には来なかったがローゼンバウム家の当主にして北方剣術の総本家当主。
「初めましてガルシア殿。叙勲式には参加できず申し訳ないことをしました。それからエルゼ・ポールセンの件もご迷惑をおかけしましたね」
言うものの、無表情のままだ。
「…いいえ」
「あんな事もあったので、この度帝都に我が息子ローレンツを派遣することにしましてね」
「そうですか」
ローゼンバウム侯爵が展示物の大刀を指さした。
「それにしても南方剣術ですか…確かにこうして飾っておくのがふさわしいかもしれません」
「…それはどういう意味ですか?」
俺たちのいる部屋から貴族たちがいなくなった。
太守同士のトラブルに関わりたくないのだろう。
「北方剣術が普及しているのは優れているからに他なりません」
「それは使い手次第では?」
「もしモンタグート殿が北方剣術を学んでいれば、右腕を失うこともなかったかもしれませんな」
俺は扉を閉め内側から鍵をかけた。
「ローゼンバウム殿、どこでそれをお聞きに?」




