ジルバンテとの対決じゃけえ!
「ミヒャエル様本当に私の相手になるとお思いですか?」
「黙れ」
「南方剣術を多少訓練されたそうですが…」
「黙れと言ったぞジルバンテ」
ジルバンテは手に刃を潰した剣を握っている。
俺はモンセラートを鞘に納めたまま握っている。
「かかって来いよ」
ジルバンテが口を開いた瞬間、モンセラートを抜き放った。
「抜刀術、虎口!」
「静雨」
鞘で受け流されたモンセラートが勝手な方向に飛ぶ。
ジルバンテの抜いた剣が俺に迫る。
「魔力発破!」
「なっ」
爆発で俺とジルバンテが吹き飛ぶ。
俺は大事なことを失念していた。
俺には発破無効の加護がない。
つまり、両方にダメージが通る自爆技なのだ。
「あんまり、多用はできないな…」
「はああっ、綾瀬!」
煙の中から出てきたジルバンテを迎え撃つ。
神眼霊風、八紋武眼、空間把握のおかげで、ジルバンテの剣筋と次の動きが見える。
剣に力を入れなくても、丹田呼吸のおかげで100%の力が出せ、無拍子のおかげで完ぺきなタイミングで剣撃が放てる。
オマケに、重量操作のおかげで俺の攻撃は3倍近く重く、ジルバンテの攻撃は想像以上に軽い。
欲を言えば、さらに精霊魔法を併用したいところだが、ジルバンテには四大属性無効があるからな。
「どうした?このままじゃ負けちゃうぞ?」
「ぬうあああああ!」
ジルバンテの声が大きくなる。
剣速も早くなるが、俺も並列思考を使って相手の攻撃を先読みする。
協力して相手の動きを読み、協力して自分の行動につなげる。
しかし、ジルバンテはまだ剣聖、狂戦士、剣閃飛来と超情報処理を使っていない。
「ジルバンテ、加護をつかえ」
「あなたごときに…」
拳を握り、ジルバンテの頬を殴る。
生体分解を込めた拳が肉を抉った。
「使え、使わなきゃ隷属を使ってでも使わせるぞ」
「…後悔なさいませんよう」
ジルバンテの剣速が俺の目に捕えられなくなった。
剣の操作を容易にし、剣速、斬撃などを大幅に強化する加護剣聖。慣性の法則を無視した動きを可能にする加護、剣閃飛来。満身の力で振るった剣も途中で返すことが出来る。
「速すぎだろ…」
俺は間合いから外れ、鉄と土砂で障害物を作った。
ジルバンテはあっさりとそれらを両断する。
「後がないですぞ?」
「真似すんなぼけえ!」
空気創造と熱創造で熱波をジルバンテの前に放つ。
髪や皮膚が焦げるにおいがした。
「魔力発破!音創造!」
調音で最大限の音に上げた爆音を耳に叩きこむ。
三半規管が一瞬おかしくなったジルバンテを殴り飛ばす。
「…降参って言えよ」
「それだけは絶対に…」
アドナイアスが俺との間に割って入る。
「ジルバンテいけません!」
「うがああああ!!」
狂戦士を使ったジルバンテがアドナイアスを投げる。
その、一瞬後には俺の目の目の前に立ち、剣を振りぬいた。
俺の顔に剣風が当たる。
「ミヒャエル様!」
倒れていたのはジルバンテの方だった。
「がっ、はあっ、あぐっ」
ジルバンテの剣は垂直に曲がっている。
オラニエ家の加護、金属操作。
それに…
「有機物操作でお前のヘモグロビンの働きを弱めた。体、頭に酸素が回らないはずだ」
曲がった剣に呼吸のできないジルバンテ。
俺はモンセラートをのど元に突き付けた。
「ジルバンテ、お前の間違いを認めるか?」
「…ミヒャエル様、何をなさいました?」
「それは秘密ってやつだ」
「そこまでして強くなりたいんですか?」
「強いとか弱いとかは関係ない。俺たちは負けられないんだ」
バスコが言っていたように、どんな手段でも使う。
恐らく、相手もそうだから…
「ジルバンテ、負けを認めなさい」
「…アドナイアス、お前までも」
「誰がどう見たってあなたの負けでしょう?いい加減見苦しいですよ?」
ガルバリウスがジルバンテに近づく、治療をしようとしているが、まあ貧血だからな治療なんて…
出来てる。
「ガルバリウス、お前なにしたの?」
「血を入れ替えました。呼吸器ではなく、血脈に問題がありそうでしたのでな」
「…まじっすか」
安定のガルちゃんだぜ。
「さてさてジルバンテ、深呼吸してよく考えな。俺に従うか?」
「…申し訳ございませんでした」
「まあ、いいさ。これからガルシアブランドの作戦会議だ!」
俺達はオラニエ伯爵やバスコ、戻ってきたサンダリオや呼びつけたオクタビオを交えて、ガルシアブランドについて話し合った。
金属の仕入れ先はオラニエ伯領で賄い。皮革は森でエルフが狩ったものや、パルマンティエ家で仕入れたものを使用することにした。そのほかの材料もできるだけ、ガルシア領内やモンタグート、サルファパレードなどの南方貴族から仕入れることで合意して、その場で書類を交わした。
「ほほう、初めて領主らしいことをしたな」
「お前はもっと働け」
「まあまあ、乗合馬車屋って陰口叩かれるよりはいいじゃない」
「マリアはミヒャエル様のところに永久就職ですう…」
「おいマリア、あんまり舐めたこと言うなよ?」
「…マリアお前は黙ってなさい」
まあ、比較的無事に終わったとだけ言っておこう。
俺たちの遠征も商品の生産のめどがついてからと決まった。
「確かに、現在もローゼンバウム家の装備を真似して青の布と鎖で腰に剣を吊るす奴が多いからな」
「私たちの衣装はどうしましょうか…ミヒャエル様ミルクは?」
マリアは俺のカップにお茶を注いだ。
「そのままでいい。衣装?そんなもん普段着でいいだろ?」
「でも、それじゃあ真似できなくなってしまいます」
「ミヒャエル…このモグラ娘の言うことは最もかもしれんぞ?真似するにはそれらしい衣服を整えなければならん」
確かに、新選組のあの羽織は1年も使われていなかったという。それでも、新選組といえばあの衣装が強烈にイメージされている。
「…誰かいいやつはいるか?」
「帝都の仕立て屋は?」
「それだったら俺らの普段着と変わらないだろ」
マリアが立ち上がった。
「はいはいはいはいはい!」
「マリア!大人しく座りなさい!」
「まあまあ伯爵、で、マリアなにかアイディアでもあるのか?」
「ジーン・ティアニー先生はいかがでしょう?」
ジーン・ティアニー…
ジーン・ティアニー?
ジーン・ティアニー!
「あの変態絵師か!?」
「ミヒャエル、知っとるのか?」
「お前はお茶会に呼ばれたことがないんだったな…」
バスコは噂が祟って、今までお茶会に呼ばれたことがない。サンダリオ、オクタビオも親交のあったバスコについてサロンに行ったのでお茶会にはほとんど行っていないらしい。
「で、あの変態がなんだって?」
「変態ではありません!ジーン・ティアニー先生はミヒャ×シモンの開拓者として帝国の貴族女性の尊敬を一気に勝ち得ているのですよ」
まいったぜ、帝国の女性はみんな腐ってやがる。
「…そいつの本を持ってるか?」
「お家に置いてきました…あっ、でもガルシア領には薔薇のお茶館がありますから…」
「薔薇のお茶館?」
「表向きは富裕層の女性がお茶を楽しむ場所ですが、裏ではジーン・ティアニー先生をはじめとする薄い本を販売しているのです」
アドナイアスは口をポカンと開けた。
桃色ローブがお茶で濡れている。
「シュミット家が春画の販売を…」
「シュミット家?」
「シュミット家は帝国の茶葉の8割を生産しています。それから、高級ティーセットやお茶館も帝国中に店を構えています。最近は茶菓子の販売も始めたとか…」
「儲かってんの?」
「儲かっている、いないはさておき、当主のヘルムット様は実直な商売で知られる名君です。黒い噂はもちろん浪費の噂すら聞いたことがありません」
まあ、そりゃびっくりするな。
伊○園がTEN○A売り出すようなもんだし…
あ、でも前にド○キで「おーい○ーション」って売ってたっけ…
関係はないと思うけど。
「まあ、それは後で見るとして。そのジーン先生をどうするつもりだ?」
「ジーン先生の作品はそれぞれシチュエーションが違っているのです。先日は黒騎士ミヒャエル様が騎馬民族の王子シモン様と…」
「皆まで言うな。つまり、俺らの衣装、武器デザインをジーン先生に任せようっていうんだな?」
「ええ、ジーン先生に送ったファンレターのお返事もありますし…」
「…皆はどう思う?」
「俺は反対だ。ミヒャ×シモンなんて不埒な春画を描く輩の考えた衣装なんて嫌だ」
「僕は別にいいけど、帝都にばれたときね…」
「いいんじゃないか?ついでにエルフマンの活躍も広めてもらえれば…」
まあ、すぐには決められないか…
「マリア、ジーン先生にお会いしたいと手紙を書いてくれ。あちらの話も聞いてからでも遅くはない。ちなみに、ジーン先生ってどこに住んでるんだ?」
「ジーン先生は今、シャイロノエル領にいると伺いましたが…」
「サンダリオ」
「ああ、決まりだな…」
初戦はシャイロノエルVSサルファパレードって所か…
「アドナイアス準備をしろ、博物館の開館を見届けたら、俺たちはシャイロノエル領に行くぞ」
「…初戦から大物すぎませんか?」
「まあ、初戦だから派手にした方がいいだろ?」
バスコがマイニーモーに運ばせた酒をそれぞれのグラスに注いだ。
「決まりだな、乾杯!」
「「「「お前はグラスを持つな!!!」」」」
バスコが錫のカップに持ち替えた所で俺たちは一晩中飲み明かした。




