モグラ娘の反抗期じゃけえ
バスコは俺との手合せ以来、毎日のように戦いを挑んでくるようになった。
利き腕が無くなった分、蹴りや体当たりが増え、さらに技のキレも増した気がする。
「うらあっ」
「ふんっ、落葉」
振るっているのはジュアニータの代わりの無銘刀。破壊力も切れ味も比べ物にならないほど劣っている。
剣を使うのが難しいか?と俺が聞いたのに対してバスコは笑ってごまかした。
口数も少なくなったし、ケツも見てこない。
数人のエルフに矢を放たせて、避ける訓練をしたり、サンダリオに馬術を習うようになったり。
俺も何度か一緒に稽古したが、バスコの集中力は異常だった。
一度見たものは出来るまで徹底的に繰り返し、体に叩きこむ。そういう、迫力みたいなものが俺とは圧倒的に違っていた。
「覚悟の差だ。バスコは明日エルゼや剣聖と戦って死んでもいいと思ってるんだ」
一方俺はというと、何らかの手段を講じて他領地の役職に就けるように画策していた。
今俺が増やせる加護は大きく分けて5種類。
1ガルシア軍の加護 ←リスクがあり一時停止中
2他家の職業の加護 ←今のところこれがベスト?
3流民、親方、剣聖、魔導師など帝国以外を由来とする加護 ←どうしたらいいのか見当もつかない
4妖精の加護←妖精ってどこにいるの?
5加護の付いた武器、防具の収集 ←高い
例えば、同じ役職でも加護は違うことがあるし。
パルマンティエ領は牛飼い、羊飼いにも加護がついていたりする。
同じように、ガルシア家では加護がつかない職業でも他の領地では加護がつくという可能性もある。
「ってもなあ…」
他の領地に干渉する権限はない。
あのムンディー領でさえ俺の自由にはならない。
ムンディーに無理やり迫ったとしても、全部の職業なんて覚えてないだろうしな…
「やっぱり霊廟を見つけるか…」
例えば宰相、大臣クラスなら一般職に命名する権限を持っているので、うまく抱き込めれば7割の加護は収集できるが…
「やっぱりバレたらまずいよな…」
貴族の全員が俺と同じように底上げしてしまえば、強くなる意味がなくなってしまう。
特に、タクミヒャエルが魔導師グラ・フレナートと組み、サンスーシ子爵が協力している可能性がある今。これ以上奴らの力を増す行為は慎んだほうがいい。
バスコやマリア、サンダリオには教えてもいいと思うが、こいつらには致命的な弱点がある。
馬鹿なのだ。
そう、馬鹿なのだ。
ぽろっとばらしかねない。
ちょっと想像するだけでも20通りの漏えいパターンが頭に浮かぶ。
「ミヒャエルって加護を重ねがけしてるよね?」
「ふええ、なんでわかったんですかあ!?」
「ミヒャエルって加護を重ねがけしてるよね?」
「はっはっはは、バレてしまっては仕方ないな!」
…などなど
「むーん。後は、魔法を伸ばすか…」
俺は地面に五角形のステータス表を書いていた。
1武術 →バスコ以下、帝国騎士副団長以上
2魔法 →風の精霊魔法を最近エボニーウィッチなしで使える
3加護 →強いけどガルシア軍騎士以下
4武器、防具 →武器は最強レベル、防具は特になし
5部下、味方 →最強、最強
「偏ってんなー」
大体、俺に由来する部分が低すぎる。
剣もバスコ以外に教わっていないから、自分の客観的なレベルがわからないし。
魔法に至っては、今まで実戦では1種類しか使っていない。
加護は肝心の鉄器無効がないしな。
「課題がありまくりだ」
「ミヒャエル様、こちらにおいででしたか」
愛すべきベルイジスが俺の肩を叩いた。
このベルイジス、バスコに忘れられ置いてきぼりにされ、一人で盗賊と戦っていたというなかなか骨のある男だ。
まあ、今はガルシア家の騎士として鉄器無効があるから俺よりもこいつの方がチートかもしれない。
「え、だれですか?」
「…ミヒャエル様。本当にそれやめて下さい」
目じりに涙を浮かべている。
「ごめんごめん、で何か用か?」
「オラニエ伯爵様がいらっしゃいました」
そうだった。マリアは家出がばれてオラニエ家では大騒ぎになった。
「これは、ガルシア侯爵様。この度は誠になんと言ったらよいのか…」
モグラみたいなお父さんは顔を真っ赤にしながら、ひたすら俺に頭を下げている。
「あのバカ娘はしばらく家で監禁いたしますので…」
「まあ、お父さんそうおっしゃらずに」
「いえ、私の教育が悪かったのです。あの娘は体が弱かったので地下都市で好き勝手させていたのが…」
「あのお父さん…」
「おもちゃ代わりにシャベルで遊ばせたのが悪かったのかもしれませんなあ。いつの間にか最年少でグレンドーラの隊長になってしまって…」
ドアのノックと共にマリアが連れてこられた。
「お父様!」
「このモグラ娘!心配かけよって!」
お父さんは杖を床に打ち付け、マリアを土砂の魔法で包んだ。
「土石消滅!」
マリアを包んでいた土砂が一瞬で消える。
「いやです、私は帰りません!」
「まだ言うか!」
お父さんは杖をマリアに投げつけた。
「金属操作!」
銀色の杖が空中で液状に変わり、マリアを拘束する。
…やっぱり、加護って使いようだな。
俺の金属軟化も似たようなやり方が出来るかも。
「いやあああ、離してってば!」
「では、娘は連れて行きますので…」
「お父様…私は帰りません」
オラニエ伯爵はマリアに近づき、頬を平手で打った。
「まだ言うのか!」
「私はミヒャエル様の為に…そのお役に立ちたくて…でも、今のままじゃダメなんですう…だからせめてお傍に…」
「マリア…」
「だからお父様…これをほどいてください…」
「ああ、分かったとも」
銀色の束縛が杖の形に戻って床に落ちる。
「ねえ、お父様」
「なんだいマリア?」
「それでも私強くなったんですよ?」
「えっ?」
「空気創造!」
「ぎゃぴいいいいいい!」
オラニエ伯爵が窓から吹き飛んで見えなくなる。
「マリア…」
「まあ、大丈夫ですよ。地面に追突しても死にませんから」
「地面じゃなかったら?」
「えっ?」
「例えば木とか、水面とか…」
「…多分、大丈夫ですよ」
「やれやれだぜ…」
マリアの安定したぶっ飛び具合は変わらないな。
オラニエ伯爵はその後、砂状になった練兵所の地面に突き刺さっている所を発見された。
「いやいや、あのお転婆娘にも困ったもので…」
伯爵は砂をしきりに払いながら、お茶を啜っている。
「でも、マリアに助けられたのも事実です」
「あれは、幼いころに兄を亡くしましてな…」
オラニエ伯爵の2番目の子供であるマリアには年の離れたエルナンというお兄さんがいたという。
「そのエルナンが奇病に冒されたのです…」
体が徐々に石や砂になり崩れていく病。マリアが生まれた時にはもう、足は崩れてしまっていたという。
「まあ、翌々年には現嫡子のパトリシオが生まれたのですが、マリアは兄弟の中でも特にエルナンと仲が良く、いつも心を痛めていました…」
「そのエルナンさんは今?」
「マートルフォリー領で療養していますが…すでに下半身は病に冒されていますからな…長くはないでしょう」
「マリアはなぜ…」
「エルナンが言ったのですよ。自分の人生を歩け、オラニエ家としての務めを果たせとね」
あのお馬鹿なマリアにはそんな過去があったのか。
「14で社交界に入ったあの子は必至で努力していました。化粧にダンスに礼儀作法。いつしか、あのお転婆が“ネロリの君”と呼ばれるようになったのには私がの方が驚きましたな」
「俺も始め会った時は信じられなかったけどな」
シャベルで腕へし折られたしな。
「ええ、娘もあれ以来乗り気でなかった縁談に積極的になりましてな」
嘘だろ?そういう要素なかったじゃん。
「生まれて初めて娘を救ってくれたのがミヒャエル様なのです」
「うん…」
「ですから、我がオラニエ家はミヒャエル様の為ならなんでもするというのは全く誇張ではないのですよ」
「ありがとう」
伯爵は、俺のそばに近寄って耳打ちした。
「聞けば随分と物騒なことになっているとか…オラニエの主戦力をお貸ししましょうか?」
「えっ、グレンドーラの事?」
「あれは秘密部隊です。オラニエの主戦力は土の精霊魔法を使用する魔術師大隊とゴブリン討伐隊です」
この世界ではゴブリンは雑魚ではない。
固い頭部と強い腕力と握力を持つ化け物だ。
一般兵なら退治するのに2名必要とする。
まあ、俺なら一撃だがな!
…しかし、伯爵なら絶対に秘密は守ってくれそうだな。
なにより馬鹿じゃないし。
「実は…」
俺は加護の重ねがけについて打ち明けることにした。
「ほう、禁忌を試されたのですか?」
「禁忌!?」
あれってイケナイことだったの?
「禁忌って…」
「加護が矛盾する事があるのです。それに加護を使うために必要な加護もありますし。」
帝国四家、火のシャンタルメリューのように火炎操作の加護を持っていても熱無効を同時に持っていなければ危険極まりない。
「それに、個人差はありますが、加護は10程度しかつけられないと言いますし…」
「マジで、俺30くらいあるよ?」
「もしかしたら、魂喰いが関係しているのかもしれませんな…」
「それって?」
「私の知っている限り、ミヒャエル様は1名と魔物数匹を殺めていらっしゃいますね?」
「ああ」
リドルフィ弟とランゲルゴート1匹だがな。
「少なくとも加護の容量を1人分得たのではないでしょうか…。私には魂喰いの効果を知らないので良くはわかりませんが…」
「そっか!」
「…加護をお求めならオラニエ家の加護を受けられるように取り計らいましょうか?」
「是非!」
これで俺のチートが捗るぜ!




