実験台はお前じゃけえ!
次の朝、俺は鍛冶屋を訊ねた。
「なあ、おっちゃん」
「なんでえ、いきなり」
「熱耐性、防熱補助って持ってるだろ?」
「お、おう」
「どんなもん?」
「どんなもんって言われてもなあ…」
おっちゃんは手を出した。
分厚い手の平は堅く、腕は丸太のように太い。
「一人前になる頃にはこうなっちまうからな。加護か鍛えたおかげかどっちかわからねえ」
「それもそうか」
「でも、これくらいなら出来るぜ」
おっちゃんは燃える石炭の中に手を突っ込んで、真っ赤な鉄を取り出した。
「おおすげえ、俺にも貸して」
「おい、おめえあぶねえって!」
おっちゃんの手から焼けた鉄を拾い上げると確かに熱いが、我慢できない程ではない。
「あちっ!」
「おいおい、気いつけろよ。熱無効ってわけじゃねえんだからな」
まあ、こんなもんか。
俺は2種類の紐を編み上げた。
1本は革、木の繊維、綿の繊維を編み上げた紐。
皮革強化、繊維強化を使った頑丈なもので、水分補充、皮革硬化、木質硬化を使えば重さを持った硬鞭のように使うことができる。
もう1本は、細い鎖に古い鍵を絡ませたもの。
これも、道具硬化、鉄器硬化を使ったので通常の倍以上の強度を誇る。
これは相手に引っ掻ける、武器に絡ませる、巻き付けるなどの攻撃が可能だ。
「ようしバスコめ目にもの見せてくれる」
まあ、バスコに恨みはないんだけどね。
霊廟とか教えてくれたし。
まずは師匠越えからだ。
その次はアドナイアスお前だ!
朝日が昇ると真っ先に俺はバスコの借りている屋敷に行った。
「バースコ君、遊びましょ」
ドアをバンバン叩く。
「おう、なんだ夜這いか、もう朝だぞ?」
ブルーのパジャマを来たバスコはいかにも阿呆っぽい。短くて足が出てるし。仮に夜這いに来てもこのパジャマ見ても一気に冷めるな。
「ちげえよ馬鹿!新しい技を編み出したんだ。手合せしてくれよ」
「お前から言い出すなんて珍しいな」
「まあいいからさ」
俺は屋敷に上がり込み、バスコを着換えさせ、パンを持たせ、顔を拭いてやった。
「歯も磨けよ」
「…仕上げをしてくれ」
「やんねえよ馬鹿。ほら行くぞ」
場所はガルシア家の練兵場。
早朝の爽やかな空気を吸い込み俺はモンセラートを抜いた。
「覚悟しろよ?」
「まあ、手加減はしてやるよ」
「…あんまり舐めてると怪我するぜ。浦波」
「八重垣」
バスコと数回打ち合うが、演算処理、計測、視力向上、視力補助のおかげで完全に相手の動きを読むことができる。
それに、記憶向上のおかげで、バスコは40回ほど打ち合うと、また、元のパターンに戻ることに気がついた。
「どうした、そんなもんだったか?」
「抜かせ、天元!」
鋭い踏み込みを乗せた技を重量軽減で受け流す。
「そいっと」
一回転して着地するがすかさず、連撃を喰らわせる。行きつく暇もないほどの攻撃を放っても体力向上、肺強化、無呼吸のおかげで息切れ一つしない。
「綾瀬!」
「落葉!」
返し技を受け、右の袖に仕込んだ鎖を剣に放つ。巻き付いた鎖はガッチリとかみ合い、完全に絡まった。
「ほう、考えたな。しかし、力なら俺の勝ちだぞ」
「そうかもなっ!」
土石軟化で一瞬液化した地面に鎖を止める。
「なっ!外れん」
バスコは鎖でつながれたワンちゃん状態。
あとは確実に仕留めるのみ。
「くらえ!」
左の袖に仕込んだ強化紐を足に絡ませる。
「ぬうう、こんな紐ごとき」
水分補充、皮革硬化、木質硬化を使用し紐の強度と摩擦力を大幅に上げる。ついでに摩耗補助をかけて擦り切れないようにする。
「留めだ、東雲一閃!」
軟化した地面が大きくえぐれ、砂埃が舞う。
視界が一気に覆われるが、俺には防塵、防塵補助、神眼霊風があるので全く影響はない。
偏光調整で砂埃の中に俺の影をバスコの正面に移す。
「くらえい!」
調音、消音、消音補助で俺の発する音を消し、音創造でダミーの声を発する。
「ぬう、星射ち!」
斬撃が見当違いな方向に飛んでいく。
「お前の負けだ」
後ろからバスコの首筋に剣を当てる。
「くっくく」
「負けた癖になに笑ってやがる」
バスコはマントをばさっとめくった。
「ミヒャエルお前の腹を見ろ」
「ん?」
俺の腰のあたりにはバスコの短刀がぴったりと当たっていた。
「くっそおおおお!」
「最後に油断したのが悪手だ、八紋武眼があることを忘れるな。空間把握系統や視野を広げる加護は少なくない」
モンセラートを納めて、地面に寝転がる。
「んあああ!くやじいい!今日は絶対勝てると思ったのになー」
地面に寝ころんだまま、加護を解除した紐と鎖を外して袖に巻き戻す。
「随分いいものを見つけたな。だが、一度見せたら二度は難しいぞ」
「わかってる。一応奥の手として持ってるだけだし」
「それがいい、暗器は暗器。正当な武術の敵ではないからな。それより…」
バスコは俺の脇に両腕を差し入れ、高い高いの格好で持ち上げた。
「腹が減った、朝飯にしよう」
「…マイニーモーに用意してもらってくる」
俺はズボンの砂を払うと厨房に向かった。
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「なんだったんだあいつは…」
バスコは袖で冷や汗を拭った。
負けることを許さないバスコの欺瞞。
ミヒャエルに突き立てた短剣、それを出したのは首にひやりとした感覚を感じてからだということを誰も知らない。
「いきなり強くなりすぎだろ…まさか魂喰いを…」
両手で頬を叩き最悪の考えをあわてて打ち消す。
「いや、まさかな。指揮官クラスでも殺さんとあそこまで変わらんしな…」
ミヒャエルがバスコを呼ぶ声が聞こえる。
「バスコー!飯だぞ!」
バスコは鞘に収まったジュアニータを振って答える。
「しかしながら…」
首をさすって、先ほど感じた冷たい感覚を思い出す。
「惚れ直したぞタクミ…」
バスコは神眼霊目を発動し食堂に向かった。




