霊廟の発見じゃけえ
「よう、調子はどうだ?」
俺とマリアはフランシスを訪ねていた。
「ああ、貴方でしたか」
「進捗は?」
「流石にまだ、実験道具を揃えている状況ですからね」
エルフたちが暮らす森に小屋を構えたフランシスは各地からババ(魂魄交換を施した)に素材を採りに行かせている。
「で、これが今までの成果です」
フランシスが差し出したのは俺が用意させている「ガルシア式化学便覧」の草稿だ。酸、アルカリなどの薬品、鉄、銅、金銀などの金属、それらの性質が書いてある。
この世界に今ある情報と、俺の世界の化学情報をまとめて出版する予定だ。
「なるほど、なるほど、これでいいから進めてくれ」
「本当は秘中の秘なんですがね」
「そういうな、お前が知ってるってことは30、40年後には社会の常識になってるさ
「そういうもんですかねえ」
「草稿が出来たら小まめに送ってくれ、金は後で届けさせる。じゃあな」
ドアの取っ手に手をかけたところ、フランシスに呼び止められた。
「ミヒャエル様」
「ん?」
「エルフを人と認める法を発令されるそうですね」
「耳が早いな」
「ええ、食料を運んでくる兵士が言っていましたよ…まあ好みではありませんが」
そういやこいつ、あれだったな。
うん、あれだったな。
「…エルフに手を出すなよ」
「まあ双方合意ならいいでしょう」
「隷属魔法を使ったら殺すからな」
「ふふん、まあそういわずに」
フランシスの視線を感じて、マリアは俺の目の前に立ちふさがった。
手にはフィダルゴブラッキーを構えている。
「ミヒャエル様は私のものですう」
「いや、違うから」
「私が言うのもなんですが、エルフ達と人間との間に差異はほとんどないと私も思います」
「以外だな?」
「さんざん実験しましたからね、それだけに良くわかるのですよ」
部屋をノックするエルフの声が聞こえた。
「ミヒャエル様、モンタグート様がいらっしゃいました」
「ん?バスコが?」
戦いを先導した男がモンタグート侯爵だということは伏せてある。薄々気がついたエルフもいるが皆事情を察して何も言っていない。
「よう、ミヒャエル」
「おめえ、なにしてんだよ」
バスコは綿を詰めた手袋を袖に縫い付けている。
ガルバリウスの話によると2~3年は再生が可能だが、それ以上経つと切り落とされた状態のまま固定されてしまうという。
「なに、怪我はもういいからな。ちょっとしたリハビリってやつだ」
「何がリハビリだボケ。で、何しに来た」
「いやお前に話があってな」
「ん?」
「少し歩くか…」
「なばっ、モンタグート様抜け駆けは…」
「そういうことじゃない安心しろ」
マリアはバスコの真面目な様子に気を抜かれたようだった。
「行くぞ」
「ちょっと待てよ」
俺はバスコの後を追った。
「…なんだよ話って」
「お前、加護についてどこまで知ってる?」
「まあ、一般常識程度には」
「霊廟、神鏡については?」
「知らん」
「…だろうな」
「ん?」
確か、前にも言ってたな。
「当主のみが行使できる隷属と同じ当主のみが使用できる部屋がある。歴代の当主が加護による統治を行った場所のことだ。ガルシア家の事はわからんが、秘中の加護帳や日記、それから配下の加護を操作できる霊壁があるはずだ」
「操作って?」
「加護を消すことはできんが、働かないように封印することはできる。それに、管理下にある人間の加護を把握することもな」
…聞いてねえぞ。
「アドナイアス達を責めてやるな。その気になったら領内の加護をすべて封じることもできる。それに代々伝わる秘密が書いてあるからな。ミヒャエルに戻ることを期待してぎりぎりまで伝えなかったんじゃないのか?」
「まあ、そうかもな」
「霊廟は大抵隠してあるが…まあ太祖の絵画の後ろとか、そんな所にあるな。“ガルシア侯爵家当主ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルが命じる霊廟よ開け”と言えば多分扉が開く」
「良く知ってるな」
「サンダリオの所も家もそうだからな、貴族はどこもそうだろう。それから…」
俺は城に戻ると、全員の絵画の前、全員の銅像の前、様々な場所で試したが扉はなかった。
「あいつフカシてんじゃねえだろうな…」
俺は庭園にある噴水の前に腰を下ろした。
月明かりが出ている。
この世界の月って俺の世界よりも大きいんだよね。
月の光で俺の影がはっきりと写っている。
「なあにが、“ガルシア侯爵家当主ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルが命じる霊廟よ開け”だ」
ゴゴゴゴゴ…
ん?
噴水の水が割れ、地下へ続く道が現れた。
…あった。
「これが霊廟か…」
俺は指先に火魔法を灯した。
地下深くにあると思われる霊廟の天井は高く、円状の部屋になっている。
真ん中には金色の石碑があり、うっすらと光っている。
「で、これが霊壁と」
俺は霊壁に手をついた。
「ガルシア侯爵家当主ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルが命じる我ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエルの加護を示せ」
霊壁が輝き、文字が現れた。
ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエル
ガルシア侯爵当主
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魂喰い(Ⅱ)
隷属(Ⅰ)
神眼霊風(Ⅱ)
超抵抗(Ⅲ)
妖精女王(Ⅰ)
妖精女王はエルフを訪ねたときにフミカにもらった。精霊魔法の威力を高め、かつコントロールを容易にしてくれる加護であるだけでなく、複数の妖精から加護を受けるときにも必要らしい。
「まっ、あんたには風の妖精の加護はやんないけどね!」
と言ったフミカを殺そうかと思ったけどな。
「やっぱりあったか」
ガルシア家当主の加護魂喰い。
殺した相手の力の一部を自らのものにする加護。
使い方によっては最強の加護と言われる。
鉄器無効がいつまで最強の加護かわからない。
初代ガルシア卿を常に護国の楯とするために与えられた加護だという。
「…考えてみれば、素人の俺が結構戦えるのもリドルフィーの力が宿っているからかもな」
ミヒャエルの体とはいえ、初体験の南方剣術もあらかたマスターしたし。てか、タクミヒャエルにも勝ったしな。
加護帳もあった。
ガルシア家が認めた職業が持つそれぞれの加護が書いてあり、その他にも間諜に調べさせた他の領地の加護とその効果が書いてある。
もちろん、遊女やヤ○ザみたいに加護がつかない職もあるが、そういうのは“領民:庇護”になる。
まあ、防御力+1程度の効果しかないらしいが。
「へえ、結構加護ってあるんだな…」
加護を付けるには役場、代官、文官、それから親方と呼ばれる帝国のトップ技師の宣誓が必要になる。
その時、RPGがある世界にいる俺にしか考え付かないアイディアを思いついた。
「あれっ、てか俺って俺に加護をつけれんじゃね?しかも全部」




