表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
41/135

反逆のバスコじゃけえ

フミカは本日数十回目の竜巻を起こしバスコの肩に腰掛けた。

透き通った緑の大妖精の姿は暗闇に混じり、目をこらさなければ見えない。

エルフたちが竜巻の通り過ぎた跡を弓で襲撃し、戻る。

子爵別邸の前に積まれた酒樽の中には砂が詰められており、矢や初級魔法を完全に遮断した。

土嚢をこしらえる時間がなかったための急ごしらえだが、バスコは酒の中に砂を入れるとき非常に惜しそうな顔をした。


「これでいいのかしら?」

「ああ、完璧だ」

「それにしても、人間って大胆なことするわねえ」

「フミカ、エルフを一時的に逃がしたとしてもそれは一時の事だ。どうせ、人間はまたエルフを狙ってやってくるさ」

「まあいいわ、私はエルフが助かればいんだから」


バスコはフェリシテが回収してきたジュアニータを手に満足そうに腰掛けた。

3か月前に会ったガルシア家と帝国騎士団との戦い。

ロクな訓練も受けず、鈍りまくった騎士団と帝国最強の武門ガルシア家とでは元からのポテンシャルが違う。

しかも、ガルシア家のお家芸、鉄器無効が加われば相手になるはずがなかった。

しかし、それでもバスコは羨ましかった。


モンタグート家が太守と呼ばれない理由。

それは、帝国統一以前の先祖の働きによるものだ。

まつろわぬ国が徐々に減って行く中、最後まであがなった最強の国。

その規模と力を持って帝国四家をも超える侯爵位が与えられたが、それでもあえて三大太守と呼ばれ、モンタグートは帝国の主要な地位に含まれなかった。


「モンタグート様、マリア様がハイエルフを連れてお戻りになりました」

「わかった、通せ」


変装を解いたマリアがフェリシテの返事を待たずにドアを開けた。


「モンタグート様!これはどういうことですか?」

「おうご苦労さん。サンダリオを迎えにやったから、ミヒャエルももうすぐ戻ってくるだろう」

「ミヒャエル様の話ではもっと穏やかな…」

「お前もミヒャエルも甘い、逃がしても、ム

ンディーを説き伏せてもエルフの状況は変わらん。言うなら、餓えた子供に1週間だけ食事を与えるようなもの。その後、彼らを待っているのは緩慢なる死だろう?」

「でも、このままじゃガルシア家や他の家が黙っていませんよ!」


モンタグート家はその鬱憤を晴らすように剣術の復興に努めたが、本音はいつも同じだった。


心の踊るような戦いに身を投じたい。


盗賊退治でもなく、魔物退治でもなく、人と人、知力と武力と武器が交差する戦場を夢見ていた。


「なあ、マリア俺は子爵領で半日働いたが子爵家は腐っている。エルフだけじゃない。貧民街はどんどん広がっているし、治安も悪化している。物価の上昇も異常だ。それなのにムンディーはすこぶる景気がいい。それはどうしてだと思う」

「確かに私も良い話を聞きませんでしたわ。でも…」

「反対するならエルフを連れて逃げろ、何人かはお前に賛同する者もいるだろう」


バスコは手を振った。


「モンタグート様は戦を起こすおつもりなのですね?」

「そうかもしれんな。俺にはこの剣の腕しかない」

「私は森に逃げます。モンタグート様もお早めに…」

「気が向いたらな」


マリアはエルフの内、女子供や老人、戦いたくない者を連れて森に走った。


「こっちへ、森の中なら安全ですから」


マリアは地面に対して加護、土石消滅を連続して発動する。大きく空いた穴をさらに土魔法で押し広げ、幅2メートル、奥行き20メートル近くもある横穴が一瞬で誕生する。

魔力が一気に枯渇状態に陥り、意識を失いそうになるのを必死に堪えた。


「だから、魔法は嫌いですう」


洞窟の前にフィダルゴブラッキーを構えて仁王立ちになる。

「ここからは誰も通しませんから…」


胸の前に手を合せて先祖に祈る。

「オラニエのご先祖様、土の精霊様。どうか、ミヒャエル様が御無事ですように」




ムンディー子爵別邸ではバスコが酒をあおり、フェリシテがその相手をしていた。


「今日の攻撃はもう終わったみたいですね」

「ああ、近隣の警備兵の寄せ集めだ。そう長くは続かんさ」

「でも、どうするのですか?このままでは…」

「負けんさ」

「負けますよ、いくらモンタグート様と言っても」

「まあ、そうかもしれんがな。しかし、武人はいかに勝つかということしか考えん。それが武人というものだ」

「私は暗殺者です。勝てない戦いはしません」


フェリシテは銀色の髪を耳にかけた。

その手にしみ込んだ血の量はバスコには劣るものの、決して少なくはない。

冷静に相手を仕留め、殺す。

そう心に刻み込んできた彼女だったが、目の前の男の言葉に血が沸き立つのを感じた。


この人の為なら死ねる。死んでもいい。


「モンタグート様」

「ん?」

「私、いまからムンディー子爵領、領主代行フランコ・ムンディー殿を討って参ります」

「おい」

「ではっ」


フェリシテは天井裏に消えて行った。


「あの馬鹿が…」


バスコは舌打ちをして後を追った。

ジュアニータを引き抜きムンディー子爵軍の中を突っ切る。


「抜刀術、虎口ここう!」


目の前の兵士8人の首が飛ぶ。

「雑魚め!邪魔をするな」


剣を振るうたび、血しぶきが舞い、兵士の体が飛ぶ。


「楯を揃えろ、槍ふすまを敷け」


東雲一閃しののめいっせん!」


バスコの人間離れした剣閃が前列の兵士を楯ごと両断する。


「己の腕を知れ!」


一撃一撃を瞬時硬化で流し、八紋武眼はちもんぶがんで矢を躱す。

絶対防御と破壊の剣閃を持つ化け物を見て子爵領の人間は恐怖した。


「たっ、退却だ!」


バスコに一つだけ欠点があるとすると、それは、移動能力に乏しい事である。ましてや、バスコは手足に矢傷を受けていた。

退却する兵たちを追うが、恐怖にまかれた兵たちの足には追いつけない。


「むう…」

バスコは退却する子爵領軍を見送りながら、地面にジュアニータを突き立てた。




当主代行のフランコ・ムンディーは幕舎に備え付けた寝台に身を横たえていた。

屋敷から連れてきた副官が水の入ったグラスを渡す。


「なっ、なんだ、あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!」

「ひょっとして、モンタグート家の人間では…」

「まさか、当主でもあるまいし…」

「そのまさかです」


副官は頭の皮をむしった。

いや、正確にはフェリシテが変装の皮を破り捨てた。


「なっ、なんだお前は!」

「フェリシテ・ペルペチュコ…ペルペチュコ家の次女です」


フランコは絶句した。

帝国では誰もが知る呪われた家。

第3代ラルヴァンダード帝時代に家督を没収され、取り潰された暗殺一族。

しかし、役人や貴族達の間ではその存在が現在まで囁かれている。


5代目ラルヴァンダード帝はペルペチュコ家に殺されたという噂。

先代ガルシア侯爵の死因は暗殺によるものだという噂。


その、ペルペチュコの人間が目の前にいる。

自分から名乗った以上目的は聞くまでもない。

フランコは剣を抜いた。


「むざむざ殺されはせんぞ!」

「…お気になさらず、もう済みました」

「なにお、っぐ…あっく…」


フランコは胸を抑えて倒れた。

フェリシテの渡した水に入った即効性のある毒。

心臓を速やかに止め、一瞬で相手を死に至らしめる。


「では…」


フェリシテは兜を装着し、幕舎を後にする。

剣鬼に慄く兵士たちの間をゆうゆうと通り抜ける。


そっと、森に入る。

鎧を脱ぎ捨て、木々を迂回して別邸そばの林に移動する。


フェリシテの足を刃物が通る。

薄く削げた肉が落ちた。


「……」


暗殺者の心得の基本。

幼いころからフェリシテは、たとえ肩を貫き通されてもうめき声一つ上げたことがなかった。


「ほう、見事だね」


刃物を放った主は、手を止めた。

真っ青に染めた毛皮のマントに、羽飾りをつけている。


「貴方は…」


フェリシテは足を紐で縛ると短剣を構えた。


「クンバヤか、するとお前はペルペチュコ家の人間か」

「なぜ、それを…」


沙毒剣クンバヤ、ペルペチュコ家に伝わる家宝の一つ。

毒蛇の牙を研ぎあげ、半永久的に麻痺毒がしみ出す刃を持つ。


「俺は武器には詳しくてな」

「?」

「ピエール・ドゥ・ロンサールって知らないかい?」

「剣聖ロンサール…」


剣の腕よりもコレクターとしての名の通った剣聖。

豪商の家に生まれながら、武器の収集に熱をあげ、それが縁で帝国剣技を学ぶ事になった。

その後、剣聖の持つ剣を目当てに決闘し、剣のオマケとして剣聖の加護を得たとされる。


「当たり、どうする?俺の目的はモンタグートの首だから、そのクンバヤをくれたら君は見逃してもいいよ?」

「ふざけないでください」


ロンサールはにやりと笑った。


「それは、武器を渡すこと?それとも、モンタグートの首を狙っていること?」

「両方です」

「でも君、暗殺者がタイマンで剣聖で勝てるわけないだろ?」

「勝てなくても負けはしません」


フェリシテは数十本の針と同時に闇魔法を放った。


闇王駁撃バロルショット!」

「目くらましかい?」


ロンサールは毛皮のマントを振るい針を叩き落とす。


「いやあ、見事に逃げられたなあ」


剣を鞘に納め、マントから針を抜く。


「さあて、今回の獲物はジュアニータか、クンバヤか、それとも…骨喰いジャンヌゲルバイスか」


ロンサールは再び森へと入って行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ