俺と俺との対決じゃけえ!
俺の顔に鞭が飛んできた。
足をすっと動かしてそれを避ける。
「浦波」
「エポックス」
地面に突き立てた剣で足元を払う斬撃が弾かれる。
「帝国剣技は防御技が多いんだよ、まあ、ブルーイュとかは責める一方らしいけど」
「ふんっ、綾瀬!落葉!」
「サクラメント」
タクミヒャエルが体ごと回転して斬撃を躱し、受ける。
何度も攻撃を繰り出すが、その度に弾かれてしまう。
「どうした?このままじゃジリ貧だよ?」
「お前の方が体力がないだろうか」
「僕のせいじゃないんだろうけどね」
相手も俺も本当に殺す気で戦っていない。
お互いに風霊駁撃が使えるはずだが使っていない事からそれがわかる。
俺は、俺の肉体を傷つける訳には行かないし、奴も俺を捕まえて吐かせたいことがあるんだろう。
「君もなかなかの腕前らしいけど、その程度じゃ、僕に傷一つつけられないよ?」
「抜かせ!」
タクミヒャエルの剣は剣の有効打を殺す、間合い、タイミングに合わせて剣を繰り出す、積極的な防御技だ。少しでも気を抜くと、鞭や剣が俺の顔や手足を目掛けて飛んでくる。
「この鞭術ってムンディー子爵家の十八番でね、僕も習ってみるまで馬鹿にしてたけどなかなか良いもんだよね」
「…鎧相手には効かねえぞ?」
「ああそれ、ムンディーも言ってたな。まあけど、今頃の装備で鎧武者なんていないだろ?」
帝国剣技の利点の一つに「武器を選ばない」というものがある。
ほとんどが体捌きによる回避と武器での受け技が基本のため、剣でも槍でも棒でもなんにでも応用が利く。ミヒャエルも鞭をうまく使い、中距離からの攻撃に変えている。
「でさ、君結局何の用さ?」
「お前をふんじばって連れて行く」
「どうして?」
「てめえの胸に聞いてみな!」
防御さえ攻撃に変え、とにかく相手を攻め反撃させない南方剣術。
相手の攻撃を避け着実にダメージを積み立て、隙があれば急所を突く北方剣術。
そして、ガチガチに守りを堅め、相手の目や耳、手足などを狙い、封殺してゆく帝国剣技。確かに、やり方が小ずるい。実際には鎧を着ているというからダメージはほとんど通らないだろう。
「風霊撃!」
「星射ち!」
「へえ、やるじゃん」
しかし、それぞれの剣術は互いを研究し、技を編み出してきた。モンタグートも例外ではない。
対帝国剣技用に編み出された、モンタグート家秘伝のお留技、迦陵頻伽。
「相手が防ぐ暇も躱す隙もない完璧な一撃を放てばいい」
バスコは俺にこう説明した。
「しかし、少しでも躊躇があってはだめだ。焦り、油断、驕り、恐怖、そういう感情全てを捨てなくてはならない」
モンタグート家の加護、瞬時硬化を使えば相打ちになる危険性はグッと減り、その恐怖も軽減される。
しかし、俺には防御する手立てがない。
「…おいお前、絶対受けろよ」
「なにを…?」
「うらああああああああ!」
剣を平に構えて突進する。
「秘技、迦陵頻伽!」
防御を無視した捨て身の一撃。
鎧ごと切り裂く必殺剣。
剣の腹がタクミの剣を叩き折り、鎖骨から右肩の骨をへし折った。
「あああっっっっ…」
「峰打ちじゃ…安心せいっ…っっっってええ!」
タクミの鞭の柄が俺の横腹に刺さっていた。
引き抜くと柄の先から仕込み刃が突き出ている。
「こんな古典的な手に…油断…したね」
「うっせ…」
俺とタクミヒャエルは道の上に倒れた。
「ねえ…痛み止め持ってない?」
俺はポケットの中身を探り、実験室から持ち出した小瓶を見せた。
「あの変態が持っていた奴だけど…試してみるか?」
「やめとく、それより君こそ血を止めないとやばいんじゃないの?」
「そうだなっと…」
俺は魔法の火で剣先を炙った。
「よしなよ。南方剣術のやりすぎでモンタグートみたいになったんじゃないの?」
「ははっ…それは否めねえな」
時間をかけて真っ赤になった鉄を腹の傷に押し当てる。
「ぐあああああっ!」
「…うわ、腹の肉煮えてるし…見てるだけで痛い」
剣の熱が無くなると、俺は剣を降ろした。
「ぶっ、あぐっ…はあはあ…」
「ねえ、生きてる?」
「…ああ、何とかな」
俺は地面に頬をつけた。
夜気によって冷やされた地面が気持ちいい。
しばらく、つけていると遠くから馬の足音が聞こえる。
カスバートの気配を感じないから、子爵領の人間かそれともサンダリオか…
「おい、どっちか知らねえけど馬が走ってくるぜ?」
「そうみたいだね、頭を上げる元気もないけど…」
「おーい無事か!」
やって来たのはサンダリオ…ではなくエルフマンだった。
「なにあの変態?」
「知らねえ…いや知ってるけど…」
「エルフに変態っていたんだね…」
「いたみたいだな…」
「やあ、青年無事か!?」
「お前誰だよ…」
変装で性格までが変わってしまうっていうのなんていうんだっけ?
「この子は?」
「俺の敵だエルフマン、縛り上げて連れて行こう」
「了解だ青年!」
エルフマンが縄を持って馬から降りた。
「待ってもらおうか…」
「誰だお前?」
汚いローブを来た爺さんがタクミヒャエルを抱え上げた。
全く気配を感じなかった。
手ぶらでタクミヒャエルを抱えてフラフラしているのに、勝てる気がしない。
「この子を連れて行かせる訳にはいかんのでな」
「痛いって、マジで痛いって、そっとして…ぎゃあああ」
変態エルフマンは弓を構えた。
「どけい!この正義の弓がお主を貫くぞい…」
「ほっほほ、やれるもんならやってみな」
爺さんの挑発に乗ったエルフマンは弓を放った。
「風霊防壁…火霊奔流、雷霊奔流、風霊奔流、鬼霊奔流…」
爺さんは矢を防壁で防ぐと天に向けて上位精霊魔法を一息で4種放った。
「これでもまだやるかの?」
「…エルフマン、俺たちが叶う相手じゃない」
「わかってもらえて嬉しいわい…」
「お前は一体誰だ?」
「グラ・フレナート…魔導師フレナート」
魔導師。剣聖と同じく、魔導師の加護を持つ人間。
加護を受ける条件は他の魔導師から継承すること。
もしくは、決闘で魔導師を殺すこと。
帝国には6名の魔導師が代々いるが、三大太守のリリエンタール家以外は公表はされていない。
爺さんはタクミヒャエルを抱えたまま闇に消えて行った。
「大丈夫かサンダリオ…」
「すまんなミヒャエル…」
「仕方ない、魔導師相手じゃ勝ち目はないさ」
「しかし、魔導師ったら帝国に6人しかいない人間国宝だろ?」
「ああ、殺されなかっただけ運が良かった。所でバスコは?」
「…あいつは今、エルフを率いて反乱を起こしている」
「は?」
「エルフによる、エルフのための、エルフの国を作るんだとさ…」
「本気で?」
「既にムンディー子爵別邸は落ちた…」
うそん…
「それよりも悪い知らせだ」
「?」
「ジルバンテ将軍がムンディー子爵領に入ったと、俺の部下から連絡があった」
「だって、ムンディーはまだ帝都に…」
「ムンディー子爵とアドナイアス殿はまだ帝都だ。どうやら、事後報告で済ますみたいだな」
「そんなあ」
まずい、絶対にまずい。
ジルバンテが来たらバスコとのバトルは免れないだろうし、剣聖の加護を持つ二人がぶつかったらどちらかが死ぬ。
いや、鉄器無効がある分ジルバンテの優位か?
「仕方ない、ジルバンテは俺が止める。お前はバスコとエルフ達をガルシア領の森に逃がしてくれ」
「しかし、お前その怪我じゃ…」
俺は笛を吹いて上空に待機していたカスバートを呼んだ。
「侯爵軍なら医者くらいいるだろ…おら、ケツを支えろ」
「死ぬなよ…」
「死なねえよ、お前も魔導師には気をつけろよ」
上空には大きな明かりが2つ見える。
恐らくジルバンテとバスコだろう。
バスコの方は時折竜巻が上がっているからわかる。
「あいつ、フミカにも手伝わせてるのか…」
侯爵領を壊滅させる力を持っている大妖精が味方ならエルフとバスコ、フェリシテだけでもしばらくは大丈夫だろう。
俺はジルバンテがいると思われる明かりの方向へとカスバートを急がせた。
総勢200人近い騎馬隊が松明を掲げ、バスコの方向へ向かっている。
「止まってくれ!」
カスバートを道の真ん中に降ろし、兵士を止める。
「貴様!ガルシア侯爵軍の邪魔をする気か!?」
「待ってくれ!俺だミヒャエルだ!」
「嘘をつけ、ミヒャエル様は金の髪を持つ大変美しいお方だ!お前のように育ちの悪そうな不細工と一緒にするでない!」
「はあっ?」
そういえば、俺変装してたんだっけ?
けど、顔自体はそんなに変わってないと思うんだけどな。
俺は袖で顔をゴシゴシこすった。
「てってれー!」
兵士は腰を抜かした。
「ミ、ミヒャエル様!?」
「よう、ジルバンテ呼んで来い」




