華麗な脱出劇じゃけえ
「さてと」
俺はフランシスとエルフババを机の足に縛り付け、魔法具や武器っぽいものを取り上げた。
もっとも、俺は魔法具の鑑定などできないから、模様や文字が書いてあるものは硬貨から下着まですべてをひったくった。
「おっ、メレアルカスだ。ラッキー」
フランシスの懐から見つけたメレアルカスを見つけて、調子に乗った俺は実験室の瓶やフラスコ、木箱をあさった。
「こうしてると本格RPGみたいだな」
恐らくタクミヒャエルが渡したと思われる、メレアルカスや宝石、魔法具や書類などをエルフを覆っていた布に包んで背中に背負った。
「なんか泥棒みたいだな、まあ、泥棒だけど」
武器を探そうとしたのだが、実験室には短いメスのようなものしかなかった。
「剣はないよな…」
とりあえず、空の空き瓶を握りそろそろと表に出た。
ワインセラーに人の気配はないが、上の階で人の声がする。
「フランシスが俺の事を紹介していればよかったんだけどな」
俺が出て行っても、エルフを逃がそうとした男として捕まってしまうかもしれない。
俺が樽の影で隠れていると、誰かが部屋に入ってくる音がした。
足音は不規則で遅い、壁に手をつく音もする。
相手は酔っているか、泥酔しているかのどちらかに違いない。
俺は空き瓶を構えて、樽の中に隠れた。
「あっち行け」
足音は俺の隠れている樽から10歩までの所に来た。
「あっち行けってば」
男が一旦樽に手をつく音がした。
俺は男を待ち構える。
「ああもう」
男のつま先が見えた。俺は瓶を振り下ろす。
「ぐああっっっ…」
すかさず、樽によじ登り、フットスタンプを喰らわせる。
俺ってば、剣術ばっかりしてたからプロレス技が恋しくなってるのかな。
俺が男になってからすぐ、ロリ叔父さんのよし君が、しょっちゅうプロレス技をかけてきたから勝手に覚えたのが今になって役立ってる。
よし君ありがとう、でも小学生には手を出すなよ。
「さてと…」
俺は男の上着と剣を奪い取った。
ついでに財布も奪おうかと思ったが、別にゴールドに困っているわけではないのでやめた。
…まあ、困ってるんだけどな。
「しかし、上着くっさ。何日洗ってないんだ?」
階段の影から様子を伺いながら登る。一階では兵士たちが酒盛りをしている。
「やれるか?」
ほとんどの兵士が大分酔っているが、それでも数が多い。
負ける気はしないが、下手に怪我をさせるのもつらい。
そっと、つま先に力を込めて2階に上がる。
人の気配はない。
通りに接していない部屋は3部屋。
一番手前は寝室のようで、ベッドとおしゃれな間接照明、ワインとつまみが用意してある。
「しかし、窓がないな」
二番目と三番目の部屋は鍵がかかっている。
「通りに飛び降りるか…」
通りに面した部屋に入ろうとしたが、その時、下の階から足音が聞こえてきた。
「ほら早くしろ」
「さわんじゃねえよ、このブタ」
「くうっっ!たまんねえな、あんた最高だぜ」
「殺すぞカス」
「ニェンちゃんサイコー!」
変態が…
俺は、一番手前の部屋に隠れた。
「なんでお前が私の部屋に来るんだよ!」
「まあまあいいじゃねえか、酒も用意しといたよう」
…ん?
まさか、この部屋か?
まずいぞ、この部屋には隠れられそうなクローゼットもタンスもないし、ベッドの下も狭くて体が入らない。
「帰れってば!」
「そういうなよ、こっちの口は嫌がってないみたいだぜ」
「こっちの口ってか、普通に私の口じゃねえか!」
声がすぐそばで聞こえる。
俺はドアの後ろに隠れ、剣を抜いた。
「っち、さっさと飲んで帰んなよ」
「ありがてえ」
男と女はドアを勢いよく開け、俺はドアごと壁に叩きつけられた。
「ぐっ…」
「なんか聞こえたかい?」
「いいや、それよりもさあ…」
「ちょっとなにすんだい」
「おめえもそのつもりだったんだろ?」
「ちょ、まじで殺すぞ!」
「動くんじゃねえよこのくそあま」
俺は剣を手にいつでも飛び出せるようにしていた。
女を助けるつもりはなかったが、最悪、二人を気絶させて逃げるつもりだった。
「いいかげんにしやがれ!ぶっ殺すぞこのモグラァ!」
「がうあ…そこはだめえ…」
モグラ?まさか…な。
ドアの隙間からそっと見るとおっさんが股間を押さえて泡を吹いていた。
そして、おっさんを足蹴にした釣り目の女エルフがこっちを睨んでいる。
「お前…」
「ミヒャエル…」
なんかマリアって性格違わないか?
「あの…マリアさん?」
「ニェンちゃん…」
「はい?」
「ニェンちゃんって呼べこらぁぁ!」
「ニェンちゃんさん!」
もしかして、オラニエのニエちゃんが訛ったのか?
「ニェンちゃん…あのさ首尾はどうだった?」
「まあ、エルフに綿花を収穫させてぼろ儲けってところかな。あと、ババがいなくなったらしいわ」
「ああ、俺もそれは知ってる」
「それから、エルフマンって変態エルフがエルフを助け出したみたいね」
「それも知ってる。ちなみにその変態はサンダリオだ」
「まじかよ、あとは、美少女が錬金術師を訪ねてきて、ハイエルフ達を連れて行ったこととか…」
俺は血の気が引くのを感じた。
ハイエルフは四大精霊の加護を持っている。
その加護と帝国民の加護は重複しない。と、言うことはハイエルフの力を持った奴の部下が増えるということだ。
「一体あいつは何を考えているんだ…」
ガルシア家にいればハイエルフの20人に等しい力はすぐに揃うだろう。
それをしないで、自前で集めるってことは…
「反乱でも起こす気か?」
「反乱かい?天下のガルシア家が?」
「かもな、ニェンちゃん、ハイエルフたちはどこに行った?」
「ここから東、カドフィール伯爵領の方角です」
「まずいな…」
タクミヒャエルの言っていたサンスーシ子爵領は帝国四家、水のカドフィール伯爵領を越えたところにある。
「…やむを得ない、エルフはバスコとサンダリオに任せよう、俺たちはその女を追うぞ」
「しょうがないね」
マリアは壁に手をついた。
「魔力発破!」
轟音と煙を上げて、壁が吹き飛んだ。
「行くよっ!」
「はいっ」
マリアはいつになったら元に戻るんだろうか?
「顕現せよ、カドフィール!」
一日一回だけ使用できる騎馬の加護。八海疾駆。召喚獣のように騎馬を呼び出すことができる。
「行くぞっ!」
俺はカドフィールに積んだ荷物から、モンセラート、エボニーウィッチとフィダルゴブラッキーを取り出して、残りを屋敷のてっぺんにある飾りに引っ掛けた。
バスコのジュアニータがあるがフェリシテなら見つけるだろう。
「いたぞ!」
「捕まえろ!」
爆発音を聞いて兵士たちが2階に上がってくる。
「ニェンちゃん、もう一発頼む」
「あんたも好きだねえ」
いや、もうキャラが違ってるしな。
「魔力発破!」
ニェンちゃんが廊下を吹き飛ばし、その勢いでカスバートは空に飛び上がった。
「あっちだよ」
マリアが指差す遠くの方に微かな明かりが見える。
「今ならまだ追いつける。頼んだぞカスバート!」
「ヒヒン!」
アスファルトで舗装されていない道と何の抵抗もない空を飛んでいくのは天と地ほどの差がある。
俺たちは馬車との距離を詰めていった。
「あそこだ!」
恐らく、タクミヒャエルが乗っていると思われる馬車の後に続いて、ハイエルフたち載せられているであろう荷馬車が続いている。
今回は俺たちの素性を隠すことに決めていた。
もし、失敗した時ガルシア家が勘付いている事を悟られると事がこじれると思ったからだ。
俺は足がつかないように、モンセラートをカスバートの鞍に引っ掻け、奪い取った剣を構えた。
「ニェン、お前は後ろの馬車を狙え、そのままハイエルフを連れてガルシア領の森に逃げ込むんだ」
「ミヒャエルは?」
「俺は前の馬車を食い止める、お前はそのまま行け」
俺はカスバートを前の馬車の真上まで進め、そのまま飛び降りた。
「東雲一閃!」
馬車の上半分が吹き飛ぶ。
俺はタクミヒャエルの隣に着地した。
口をぽかんと開けたこちらを見ている。
「よう、また会ったな」
「お、お前さっきの?」
「うらあっ!」
俺はタクミヒャエルを馬車から蹴り出した。
続いて、俺も馬車から飛び降りる。
「っつううう…ちょっと女の子に対して酷すぎないかい?」
「ふざけんな、このサディスト。覚悟しな」
俺は剣を突き付けた。
「あんたが何者かわからないけど、邪魔するならただじゃおかないよ」
タクミヒャエルは腰の剣と鞭を抜いた。
振り返るとハイエルフ達を乗せた荷馬車はUターンして戻ってゆく、マリア…いやニェンちゃんはうまくやったらしい。
「知るか、かかってこいブス」
俺は剣を構えた。




