正義の味方エルフマン登場やけえ
「これより恐れ多くもムンディー子爵様の領地で不埒な行いをした反逆者の処刑を行う」
「あなた!」
「お父さん!」
杭につながれたエルフの男が処刑人に向かって力なく唾を吐く。
「なにが反逆だ、お前たちはただ俺たちをこき使って金を儲けているだけだろう。自分の森に帰ることのどこが反逆なんだ」
「だまれ!」
処刑人が棒でエルフの男を殴る。
「やめてえええ!」
足元の台に縋り付く妻とみられるエルフが蹴り落とされる。
「おやおやどうかされましたかな?」
灰色のローブを着た男が台の上に上がる。
「フランシス様!」
「お前が親玉か!」
「いえいえ、私はただの錬金術師。ここの労働でなにか気に入らないことでも?」
「ここの待遇はひどすぎる、みんな痩せてしまったし、病気にかかったものもいる」
「それがなにか?あなたの里でも痩せた人や病気にかかった人はいたでしょうに?」
「…明らかにその人数が違う。それに睡眠時間だって、自由な時間だってないじゃないか!」
「確かに、森の中に比べたら厳しい環境でしょうよ。けれども、食べ物は絶対に出てくるし、魔物や獣に襲われることもないじゃありませんか。自由な時間だってやるべき仕事を終わらせればあるはずですよ」
「ふざけるな、綿花を50キロなんて誰にでもできるものじゃないだろ!」
「でも、あなたたちエルフの中にはそれを達成している人もいるのですよ。ほかのエルフに出来ないことはないでしょう?」
…俺のバイト先にもいたな。もっともなことを言ってサービス残業を正当化する奴。
「…言うことはそれで全部ですか?では、お願いします」
「はっ!」
兵士がエルフの男の胸に剣をあてた。
「いやあああ!」
「抜刀術、護国!」
俺の抜いた剣が兵士の剣を弾き飛ばす。
「貴様っ!何のつもりだ!」
「浦波!」
遠距離で相手の足を切る斬撃が近づいてきた兵士の足を払う。
「逃げるぞ!」
俺はエルフの縄を切って、手を引っ張った。
「お前は…」
「いいから早く」
「ああ…」
エルフの男を逃がしながら、追ってくる兵士の足を払うことに集中する。
「逃がすな!追え!」
「あの男も殺せ!」
森の入り口付近でエルフの男が転びそのまま立ち上がれなくなった。
「おい、大丈夫か?」
「俺を置いていけ…」
お前が言うなよ…
出来るだけ殺さないように足止めに集中しているが、兵士たちはどんどん増えている。それに、弓を持った兵士も集まっているようだ。
「氷狼撃!」
「星射ち!」
氷の槍を撃ち落とすが、魔法使いも増えている。
このままではどん詰まりだ。
せめてモンセラートがあれば…
「覆射撃!」
兵士たちの手足に矢が突き刺さる。
「誰だっ!」
木の影から、裸にマントをしたエルフの男が現れた。下半身にはかろうじて布だけ巻いている。
「…まじで誰だ?」
「はっははは!俺はエルフの味方、エルフマン!エルフをいじめるものは許さん!とうっ!」
エルフマンは手に持った弓で兵士たちを次々と射ってゆく。俺は背中に隠したエボニーウィッチを取り出し地面に向けた。
「風霊駁撃!」
大地が抉れ、土煙が舞う。
「エルフマン、エルフっ、逃げるぞ」
俺たちは森の中に逃げ込んだ。
「ミヒャエル様、こちらに」
いつの間にかフェリシテが俺の前に立ち、道のない方へ誘導する。
木の枝に頭をぶつけたりしながら暗い森の中を走り抜ける。
「ああ、しかし、あの変態はどこで見つけてきた?」
「あれはサルファパレード様です」
「へっ?」
「サルファパレード家の騎馬服を着ていらしたので、身元がばれると思いあの格好になりました」
…変態じゃなかったのかエルフマン。
「まあ、私もあの格好はないと思います」
「やっぱり?」
「ええ、本人は乗り気のようですが…」
「この先にモンタグート様がいらっしゃいます」
森が開けたところにバスコがたき火に当たっていた。
「おう、どうだった首尾は?」
「散々だ、まあ、エルフは助け出したが…」
「俺の活躍がなかったら危なかったな」
「バスコ怪我は?」
「ああ、フェリシテが痛み止めをくれて、縫ってくれたからな、もう歩ける」
「…というわけで」
バスコが俺の鳩尾に拳をめり込ませた。
「すまんな」
俺は意識を失う中で、変態エルフマンが微笑んで俺を見ていることにイラッとした。
俺は顔に水をかけられて目を覚ました。
「うん…ここは?」
「ようやく目が覚めたんかこの泥棒め!」
ババが俺の顔を殴った。
「…というわけで、ガルシア家を帰したあと、手柄を独り占めしようとしたこいつに不覚を取っちまったんですがね」
バスコは俺の頭をはたいた。
「エルフを連れて逃げてくるのが見えたんでこうして連れて帰ってきたってわけですよ」
ババが俺の腹を蹴った。
いい加減にしろよこの野郎。
「エルフはどうした?」
「いや、それがエルフマンってやつが現れてエルフを連れて行ってしまってね。俺もこの通りで」
バスコはシャツをめくって矢傷をババに見せた。
「ひでえな、こりゃそうとうな腕利きだ。やはりエルフの生き残りが森にいるのか…」
ババはサンダリオの弓の腕を見て、エルフだと思ったらしい。
「まあいい、お前は雇ってやろう」
ババは俺を担ぎあげると、エルフたちが寝泊まりしている建物の地下にある檻の中に放り込んだ。
「おめえがどうなるかは、フランシス様が決める」
檻の隙間から棒を差し入れて俺を殴ると去って行った。
「ってええ…」
「おい、お前は人間だろ。どうしてこんなところにいる」
「ええっ?」
真っ暗な中、俺が入れられている檻の隣からずっと10ほどの檻がある。
「ああ、俺は夕方ごろ処刑されそうになったエルフの男を助けたんだが…」
「テオドールか!」
「いや、名前は聞いてないんだけど、一人しかいなかったから多分…」
「あいつも馬鹿なやつだ。加護を持つ人間に逆らうなんて…」
この、ステファンとか言う老エルフ(見た目はテオドールと変わらない)が言うには、ムンディーはガルシア家やモンタグート、サルファパレードなどから兵士を借りて子爵領内を統治しているらしい。
「その対価が綿ってことか」
「ムンディー子爵の加護は繊維業に関するものだと聞く、他にも糸や布などを作るために働かされている貧民は多いと聞くが…」
「てかさ、なんでエルフって綿花畑で働かされてんの?こういったらなんだけど、顔立ちは整ってるからそのさ…」
エルフには悪いんだけど、こう慰み者になっているイメージだったけどな。
「エルフとの婚姻は帝国法では獣姦と同じだ。最悪領地から追放される」
まじでか、とことんひどい扱いなんだな。
「それでも働かされているのは我らには風の精霊の加護があるからだ。初級の風魔法ならほぼ無限に使えるのでな」
ステファンが指を回すと、部屋の隅にある綿ぼこりが球状になって俺の目の前に集まった。
「まあこれを併用して綿を集めるわけだ。まあ人間の3倍は収穫できる」
ステファンは里から連れてこられた経緯を教えてくれた。
ある日、子爵の使いが里に来て、人頭税を請求したらしい。
狩り、木材、森での収穫物を得ている以上、税金を払う必要があるというのだ。
しかし、金銭をほとんど持っていないエルフたちに支払えるはずがなく、その代わり労働で支払うようにと言われたらしい。
「俺たちが連れてこられたとき、すでに何人かのエルフがここで働いていた。この綿の収穫方法も錬金術が考案したらしい」
「そっか…」
「だから、テオドールを助けてくれたのには感謝するが、私たちを助けようなんてことはしないでくれ。里に帰っても事態は悪くなる一方だ」
「戦わないのか?」
「人間の軍隊には勝てぬ」
「ムンディー子爵の領地には戦いの加護を持つ人間はいないはずだけど…」
「我らエルフには弓の腕前と風の精霊の加護しかない、剣や槍、馬は使えぬし、風の精霊魔法しか使えぬ」
「十分強そうに思えるけどな…」
「同じ人数ならそうかもしれないが、人間の方が数は多い」
ガルシア家なら楽勝だろうけど、他家の経営に口をだすのもな…
エルフってとことん人間扱いされていないらしいし。
必要があれば、人体実験とかにされてもおかしくないだろう。
「見たところあんたは無抵抗主義っぽいけどさ、どうして檻に入れられてるんだ?」
「これのせいよ」
別の女エルフが檻の隙間から手を差し出した。
手の甲が緑色に輝いている。
「ハイエルフの紋章、四大精霊が与える加護なんだけど、あいつらは私たちが暴れるのが怖いのよ」
「なるほど、人質ってわけか」
さて、どうするかな。
マリアやバスコはそれぞれ行動しているだろうし。
あと、変態エルフマンも。
俺を気絶させたとき、エボニーウィッチはバスコが持って行ったらしく、俺は何も持ってない。
「あいつらを待つか…」
エルフを助けたときはよくわからなかったけど。
灰色ローブに七三に分けた黒い髪、まあ、俺には負けるけど美形?かな。
イカサマ錬金術師にしては頭がよさそうだし、意外と若い
。もしかしたら、俺と同じ年かもしれない。
「エルフを逃がした男さんとでも言いましょうか」
「なんの用だ…」
「いや、冒険者あがりにしてはなかなかの腕だと思いましてね。私は剣はやりませんが、それでも貴方の南方剣術が素晴らしいこと位はわかりますよ」
「お世辞はいい。なんの用だと言った」
「その腕をここで、いや私の下で生かしませんか?」




