悪魔の錬金術師じゃけえ!
「錬金術師…ですか?」
マリアがポカンとした顔でバスコを見た。
錬金術師という職業は今の帝国には存在していない。
ほとんどがサプリメントを販売する詐欺師のような位置づけになっている。
「俺もそう思ったが、フェリシテがいい加減なことを書いてくるとも思えないしな」
「で、その錬金術師はムンディーのところで何をしているんだ?」
「合成生物の研究らしい。俺もムンディーが騙されているのだと思っていたが…」
バスコは腰の大剣ジュアニータを抜いた。
「これを見てはなっ!」
南方剣術奥義、東雲一閃。地面を走るジュアニータの斬撃が大蛇を真っ二つにする。
「バッ、バスコ?」
「見ろ、お前たちの切った跡がもう塞がりかけている」
「えっ!」
俺達が切った切り口には薄い膜が張り、血も止まっていた。
「俺はこいつと遭遇して、ほぼ一日刻み続けていたのだが一向に死ぬ気配がない。ちょっと居眠りこいてたらいなくなっちまったから探していた所だ」
「いや寝るなよ、安全面でやばいだろ!」
「でも、困りましたわね。このまま放置するわけにもいきませんし…」
バスコが蛇をスライスして、ジュアニータの剣先に刺す。
「なにしてんの?」
「いや…腹が減ったからな」
「そんなもん喰うなよ!」
「大丈夫だ、昼にも食ったがどうもない」
俺は抜刀術で蛇の肉片を弾き飛ばし、たき火に放り込んだ。
「悪いマリア、こいつになんか食うものやってくれ」
「ええ…モンタグート様これをどうぞ…」
さすがのマリアもドン引きしている。
唇に乾いた鱗が張り付いているからな…
そりゃあ、ちょっとはいい匂いがするけど…こう焦げて香ばしいにおいがしているし…ん?
「そうだ火だ!」
「火ですか?」
「ああ、たんぱく質が熱変性することで不可逆性を…つまり、再生はできないはずだ!」
「しかし、これだけの蛇をウェルダンにするには、ちと骨がおれるな」
「…マリア、精霊魔法とか使えない?」
「すみません。私、土と水の魔法なら得意なんですが…」
「一応バスコ、お前は?」
「わっはっは、モンタグートが魔法に頼るなどご先祖様に叱られるぜ!」
「はあ、俺は精霊魔法は全くできないしな…」
結局、頭をたき火で焼いておくことになり、俺達は一晩中周りの木を伐りまくり、火をつけまくり、肉を焼きまくった。
「はあはあ、えぐいな」
「もうだめですう」
マリアは半目でアへ顔になっている。
まあ、昨日はほぼ一日中穴を掘っていたからな。
「なんだ、だらしがない。ミヒャエル、こんな女と結婚するんじゃない!」
「モッ、モンタグート様には関係ないでしょう!」
「やかましい、タクミの貞操は俺が守る!」
変な戦いは起きるし…
「なあ、とりあえず移動しようぜ、ここの場所が城の人間にばれてもしょうがないし…」
「もうばれてますよ…」
「フェリシテ・ペルペチュコ!」
俺の真上の枝にはバスコの子分(子分という言い方の方がしっくりくる)。フェリシテ・ペルペチュコがぶら下がっていた。
「生木を大量に燃やされたおかげで、城の人間が気づきました。先ほど捜索隊が出発した頃です」
「まじか、てかお前いつからここに?」
「ペルペチュコ家の加護を使えば森の中を高速で移動することくらい簡単です」
しょうがない、とりあえず、ムンディー領に逃げるか。
さすがに帝都にいるムンディーの許可なしに、兵士が入ることもないだろうし。
「逃げるぞみんな」
「はい!」
「おう!」
「ヒヒン!」
俺とマリアはカスバートにまたがった。
悪いなバスコさん、カスバートは二人乗りなんだ。
「…おいマリア」
「はい?」
「降りろ」
マリアがそっぽを向く。
「いやです!モンタグート様は重いですからお歩きになった方がよろしいわ!」
「なんだと!お前の方が重いわ!」
「失礼なレディに向かって重いだなんて…」
「やめやめ!わかったからやめろ!俺が降りてフェリシテと歩くから!」
マリアがカスバートから降りた。
「…モンタグート様、仕方がないから代わって差し上げます」
「…マリア、疲れているだろう、そのまま乗っていろ」
なんなんだこいつらは?
オラなんだかいらいらしてきたぞ?
「フェリシテ、こっちへ来い」
「…?はい」
「うらあっ!」
俺はフェリシテを抱えてカスバートに乗り、そのまま高く飛び上がった。
「みいいいひゃあえるううう!」
「ミヒャエル様あああ!」
マリアとバスコは歩けばいいな、うん。
朝焼けがきれいだ。
結局、俺とフェリシテが午後のお茶を楽しんでいた頃ようやく二人はたどり着いた。
「おう、早かったなあ」
「ぜえぜえ、ミヒャエル様ー」
「この小娘がいなけりゃ、もうちっと早く来れたのによう」
バスコは肩にマリアを背負っている。
まさにお荷物ってやつだな!
「まあいい、呼ぶぞ」
俺は緑の枝を折った。
「遅いのよっ!」
フミカが俺の目の前に現れた。
機嫌はぷんぷん丸である。
「うおああっ!」
「いつまで、待たせるのよっ!この馬鹿侯爵!」
「まあいろいろあったんだよ」
俺は再生能力を持つ大蛇やムンディ男爵の屋敷にいる錬金術師の話をした。
「…ふうん。そうね、無関係とも思えないし、頭に入れておいた方がいいかもね」
「で、エルフたちはどこに?」
「あっちよ、もう少ししたら綿花畑があるわ」
「ミヒャエル様、お待ちになってください」
フェリシテ・ペルペチュコが俺の袖を引いた。
「どうした?」
「ミヒャエル様、マリア様はガルシア家から手配状が出されています。捕まるわけではありませんが、大きく足止めを喰らう可能性があります」
「…その間にアドナイアスが来たら終わりだな」
「そこでです。我がペルペチュコに伝わる変装術をお試しになられては?」
「変装術?」
フェリシテが肌色の粘土を取り出す。
「これを顔に貼り付けます」
「なるほど、特殊メイクか」
「特殊メイク?なんですか」
「いや、こっちの話」
フェリシテが俺の顔に肌色の粘土を貼り付け、形作っていく。
「それからこの染料で髪の色を変えます」
数分後、俺は栗色のちょっと悪そうな冒険者風になった。
「次はマリア様を…」
「ちょっと待て、マリアはエルフみたいにしてくれ」
「エルフですか?」
「ああ、潜入捜査ってやつだな。エルフに対しても話を聞けそうだし」
「なるほど、よい考えかもしれません」
マリアは髪をもっと明るい金髪にし、エルフ耳をつけ、ちょっときつい感じのエルフ美女になった。
「ミヒャエル様ー。どうですか?」
「うん、台無し」
「ふええ、そんなー」
「違う、“じろじろ見てんじゃないわよ、キン〇マ蹴り飛ばすわよ!”だ」
「そっ、そんなこと言えません!」
「違う、“はっ、ふざけたこと言ってたら、キン〇マ蹴り飛ばすわよ!”だ」
「ふええ、なんで最後は同じフレーズなんですかー」
「違う、“キン〇マ…」
「まあ、ミヒャエル。そう言ってやるな」
「まあいい、次はバスコだ」
バスコは黒髪の悪人顔に出来上がった。
本来なら必要なかったのだが、どうしてもやりたいと言い張ったので仕方なくだ。
もっとも、無精ひげが伸び、蛇を燃やしまくった時の煤で顔が汚れ、元々凶悪な顔つきをしていたので、髪の色を変えた以外はほとんどいじっていない。
「ミヒャエル…」
「なんだよ」
「眼帯ってどうだろうか?」
「似合うけどやめとけ」
俺達はエルフが働いているという綿花畑へと急いだ。
フミカの言った通り、丘をすぐ抜けたところに綿花畑が視界いっぱいに広がった。
「うわー、ふわふわがいっぱいー」
「マ!リ!ア!」
「すみません…」
「わっはっは!手厳しいなあ!」
「お前は安定のクオリティだけどな…」
しかし、どこを見てもエルフはいない。
というか、人っ子一人いない。
「おいフミカ。どうなってんだよ!誰もいないじゃねえか」
「えええ?おかしいわねえ?いつもだったら、鞭でぶたれているエルフたちがねえ、それはもう、ごみのように…」
「おい、口のきき方には気をつけろよ」
「でも、変ねえ」
「仕方ない、エルフ達が暮らしている建物まで案内してくれ」
フミカに連れてこられたのは、隙間だらけ、ほこりだらけ、ただ大きいだけの倉庫だった。
周りからは嫌なにおいがするし、壁には血のようなシミが見える。
「…ひどいな」
「ええ、それだけエルフがひどい扱いを受けてるってことよ」
「お前たち、何をしている!」
槍を持った衛兵4名が俺達を呼び止めた。
「エルフをどうするつもりだ!」
「おいおい、兵隊さんよよく見ろ、このエルフはオタクのエルフとは別だぜ。なんなら、管理者を呼んで確認するといい」
おっ、バスコなかなかの名演技だな。
「…肩を出せ」
「ん?」
「うちのエルフなら右肩に焼印の跡があるはずだ」
「おい、出せ」
俺はマリアの肩を叩いた。
「じ…」
「なんだ?さっさと見せんか!」
俺はマリアが頑張り屋さんだけど、ちょっと残念な女の子ってことを忘れていた。
マリアは肩を掴んだ衛兵の股間を蹴り上げ、叫んだ。
「じろじろ見てんじゃねえです!キン〇マ蹴りつぶすぞこのモグラが!」




