初めてのバトルじゃけえ
「どうしましょう」
マリアは目に見えて混乱している。
「ようしマリア、穴ごと吹っ飛ばせ」
「へええっ、でも…」
俺はマリアを抱きしめて囁いた。
「マリア、よく聞いてくれ。二人を引き裂こうとする奴らを許しちゃだめだ…」
「そうですよねっ!マリアやりますっ!魔力発破!」
派手な音がして穴がふさがった。
いや、ふさがったというより地面が吹き飛んだ。
「よし、あとは…」
俺は首に下げた銀色の笛を吹いた。
「現れろ!カスバート!」
空から真っ白なペガサスが舞い降りる。
そう、カスバートとはあの剛力ち○ぽ丸のことだ。
領地に帰ってすぐ、俺は真っ先に名前を変えてやった。
一月に一度しか使えないというアドナイアスの言葉通り、名前を変えた直後は、恐ろしいほどの疲労感が俺を襲った。疲労感はすぐに癒えたが、命名を行おうとすると激しい頭痛がしたので俺はまだ、ジルバンテの槍の改名しかできていない。
「まあ、美しいペガサスですわね」
「ああ、カスバートに追いつける馬はほとんどいないし。騎馬の加護、忠義奉公があるからアドナイアスの糸もつけられない」
騎馬につけられる加護、忠義奉公は主人の命令以外は受け付けず、精神に作用する魔法や調教する加護から防御するというものだ。
アドナイアスはきっと俺の衣服や何やらに探査法術をかけているだろうが、当主の加護、超抵抗を使えばそれらから身を守ることが出来る。
まあ、俺がムンディー子爵領に行くことはばれているだろうが…
「マリア、アドナイアスが帝都にいるムンディーを連れてくるまで、多分急いでも5日、その間にけりをつけなくちゃいけない」
加護を持ったカスバートの翼なら半日で到着するだろう。
「わかりました!エルフさんたちを助けるためにマリア頑張ります!」
オパーイが背中に当たる。
いや、正確に言うと大きなおっぱいが背中に当たってなんか辛い。
「ミヒャエル様?」
「いや、いやらしい事とか考えてないよ?」
「それはよいのです。許婚ですから」
いやいいんかい!
さすがはズ○ネタ手袋を渡す女。マリア…恐ろしい子
「そうではなく、今あそこから土煙が上がった気が…」
「よく見えるな」
「夜目はオラニエ伯爵領の誰もが持つ加護ですから」
「じゃあ、降りてみるか」
マリアの指差す方向に降りると、森の木々がへし折れ、血や刃物の跡がそこら中にあった。
「…盗賊か?」
「でも、死体がありませんね。こんなに激しい戦いをした後なのに…」
俺はモンセラート、マリアはフィダルゴブラッキーを構えた。
「マリア、俺から離れるなよ」
「きゃっ、ミヒャエル様から言われてみたい言葉ランキング9位!」
そんなもんがあるのか、一位が気になるな。
俺たちは10分くらい、辺りを警戒していたが、生き物の気配はない。
「…何か聞こえるか?」
「いえ、少なくとも半径300メートルには何も」
「そうだな、もう事が終わったのかもしれないが…」
「どうしましょう?」
「ここは侯爵領だ、何が起こったのかはわからないが野放しにもできないしな…」
「とりあえず、今日はここで休みますか?」
本当ならもっと距離を話しておきたい所だ。
でも、嫌な予感もするしな。
「そうしようか、少し眠って待とう」
俺は周囲の木を切って、魔法で火を起こした。
精霊魔法に比べ、魔法はとにかく効率が悪い。
とてもではないが、攻撃に使えるものではない。
「ミヒャエル様どうぞ」
マリアがお茶とサンドイッチを出してくれた。
「サンキュー」
なんかこういうのっていいな。
周りに血が飛び散っていなきゃだけど。
「私が火を見ていますから寝ていてください」
「いや、俺が見ているから、マリアは寝てろ、疲れてるだろ?」
「いえでも…」
俺はマリアの手を握った。
マリアの心拍数が上がってゆくのを感じる。
「いいから寝てろ、なっ?」
「はっ、はい!」
マリアに毛布を掛けて、俺は持ってきた手帳を開いた。
手帳には呪文や忘れがちな単語を書いてある。
「なんで精霊魔法だけが使えないんだろうな」
ミヒャエルは使えていたわけだし、俺が使えない理由がないんだけどな。
…ん?
影で何かが動いた。
「マリア、起きろマリア!」
「えっ、二度漬けは禁止ですう」
何を言っているんだこのモグラ娘は。
「いいから起きろ!」
「ふええっ!」
フィダルゴブラッキーを握らせると、俺はモンセラートを抜いた。
「何者だ、出てこい!」
シャアアアアア……
「上ですっ!」
マリアが空気創造で圧縮した空気を放つ。
ギィシャーーー!
木の枝と共に、大きな蛇が落ちてきた。
「こいつだったのか」
「恐らくは、全く動かなかったので音もしなかったのでしょう」
「でも、木についた跡とは合わないな」
「風の魔法を使うのかもしれません。とにかく気を付けてください」
俺とマリアは2手に別れ、それぞれ左右から蛇を攻撃した。
「抜刀術、虎口!」
「フィダルゴブラッキー!」
両方から切りつけた攻撃が蛇の胴体をえぐる。
「八重垣!」
「フィダルゴブラッキー!」
いや別に叫ばなくてもいいんですよマリアさん。
両方から走り、切りつけ、大蛇はみるみる傷だらけになっていく。
シャアアーーー!
「うらっ、東雲一閃!」
大蛇の攻撃を南方剣術奥義で返す。
攻撃はより大きな攻撃に潰され、防御はそれを上回る攻撃に破れる。
「留め技、星射ち」
モンタグートの剣に回避と防御はない。
あるのは、一撃必殺の剣と返し技だけ。
あるものは野蛮人と言い、あるものは強者の技と呼ぶ。
「しかしな、それはどちらも間違っている」
バスコは休憩中によくその話をした。
「昔は避けるだけの判断力も守れるだけの甲冑も持たない兵士が多かったのだ」
布の服に戦場で拾った剣を握り敵に突進していく兵士。
モンタグートの剣はそんな彼らのための剣だという。
「風霊駁撃!」
「魔力発破!」
俺とマリアの魔法を両側から受け、大蛇は真っ二つになった。
「はあはあ、マリア無事か?」
「ええ、ミヒャエル様も御無事でなによりです。それより強くなられていて驚きました」
まあ、あの時は素人だったしな。
バスコに感謝って所か。
「しかし、この蛇傷だらけだな?」
鱗が剥げていたり、切り傷があったりする。
「誰かが戦っていたのでは?」
「誰かって、こんな災害みたいな戦いをするやつがどこにいるんだ?」
「わかりませんけど…」
その時、マリアの後ろの草むらがざわめいた。
「誰だっ!」
「誰ですっ!」
俺達は武器構えて待ち構える。
「おうおう、仲のいいことだな」
そう、こんな災害じみた戦いをする男は、バスコ・モンタグートしかいない。
「バスコ!お前盗賊退治に行ったんじゃ…」
「うむ、俺もそうしようと思ったんだが、フェリシテから妙な手紙が届いてな」
暗殺の加護を持つペルペチュコ家の暗殺者。
帝都に残ってタクミ捜索を行っていた彼女がバスコに手紙とは…
「ムンディーの所に錬金術師がいるらしい」




