恋人たちよ南を目指しんちゃい
「エルフだって?」
ようやくファンタジーって感じだな。
…いや魔法とかペガサスとかあったっけ。
「ええ、ガルシア侯爵領の南西にある土地、セクローン大森林にエルフの里があったんだけど…その人間につかまってしまったの」
「捕まったって全員か?」
「…ほぼ」
エルフってもっと強いイメージだったけどな。
「精霊魔法と弓が上手い以外はなんのとりえもない生き物です。人を疑う事もしませんから、コロッとだまされたのでしょうね」
「わかった、そのエルフたちはどこにいる?」
「大森林を抜けたところにあるムンディ子爵の綿畑で働いているわ」
「…また、ムンディーか。アドナイアス、ムンディーは今帝都にいるんだよな」
「ええ、ガルシア家とモンタグート家の人間が軟禁しております。毎日状況を伝える手紙も来てはいるんですが…」
「3か月の間ずっとか?俺は何も聞いていないぞ?」
「どうも真実を知っているようには思えないんですよ。こう、王子の手の平の上で踊っている感じがするというか…」
「そうか、でもこれからは俺にも教えてくれよ?」
「申し訳ありません…」
「フミカ、俺たちもできる限りのことをする。案内を頼めるか?」
「もちろん!上手くいったらあんたにも加護をあげるわ」
「まじ!?」
加護を与えられる人間は皇帝、皇帝から叙勲された貴族、帝国騎士団の団長などが帝国の99%以上を占めるが、一部例外もある。それが、剣聖、魔導師、魔王、そして精霊女王である。
雑多な加護がほかにもあるらしいが、帝国に2人しかいなかったりとレアスキルというよりは奇病扱いされているらしい。魔王は1200年以上前に確認されたのみだ。
精霊女王の加護は激レアスキルだ、今後の事を考えても絶対に欲しい。
「アドナイアス。ムンディー子爵領に行く用意を」
「わかりました」
「何かあったらこの枝を折ってちょうだい。私が行くわ」
俺に枝を渡すとフミカは部屋をさんざん吹き散らして、フミカは消えた。
「さて、と。ミヒャエル様、本当に行かれるおつもりですか?」
「え?」
「確かに精霊女王の加護は魅力的ですが、エルフの為にそこまでしなくとも…」
「え、だって捕まってんだろ?」
「捕まっていますが、別に帝都臣民でもないですし。ムンディーに任せればよいでしょう。加護もない相手にそこまでする必要性を私は感じません」
そう、帝国はエルフを人間と認めていない。
積極的に迫害するわけではないが、エルフの森では狩人とのトラブルが頻繁に起こっている状況だ。
「なあ、エルフが人間じゃなくても、加護を持っていなくても、弱者をいたぶるっていうのが俺には我慢できないんだ」
「また、それですか。第一あなたは領主です。よそのエルフより、貧民街の人間を一人でも救う方が大切だと思いますけどね」
「…お前は反対なんだな?」
「ええ、どうしても行かれるのであればお部屋に軟禁されていただきます」
アドナイアスの杖が光る。
そこまで言うか?
「…お前には失望した」
俺は部屋のドアを蹴って開くと、そのまま自分の部屋に入った。
部屋に運ばれた夕食を取り、部屋にあるバスタブで風呂に入り、ベットに入った。
しかし、寝れない。
考えれば考えるほどムカついて眠れない。
なんだあいつ、頭が固いと思っていたけど、なんやかんや帝都では協力してくれたから味方だと思っていたのに。
…あいつら結局喧嘩がしたいだけじゃないか。
「あーむかつく」
こうなったら、城から抜け出してでも。
いや、城壁にはアドナイアスの法術がかかっている。
秘密の抜け道でもあったらな。
…ん、抜け道?
「…忘れてた!!」
「マリア、すまん!」
泥だらけのマリアは抜け道ですごく頑張っていた。
どのくらい頑張っていたかというと、城を抜け、街の外まで届いていたくらいに…
「ふええ、私の事なんてお忘れになったのかと…ぐすん」
「悪かった、この埋め合わせはきっとするから」
俺に抱きついてきたマリアの頭をポンポンと叩いてやる。
泥にまみれてもマリアからはいい匂いがする。
「ふえっ、なんでもですか!」
「ああ、童貞だってやるぞ!」
この体でエッチな事ってできるかな?自信はまったくないけど…
「はわわわ、どどどどどど…」
マリアは顔を真っ赤にして泡を吹いている。
「というのは冗談だが、もう1個お願いしてもよいか?」
「いやですっ!」
まあそうだよな。
「これで最後、これで最後だから」
「いやですうっ、絶対いやですうぅ…」
マリアはとうとう泣き出してしまった。
「いや、マリアすまなかった。もう無理は言わない」
「違うんです、その…もう一人にはなりたくないんですぅ」
「マリア…」
俺はマリアの涙を指で拭ってやる。
「俺と一緒に…お城抜け出さない?」
「ふえっ!それってつまり駆け…」
「違う」
「ぐすん、そうですよね、こんなモグラ娘なんて…」
「いや違うんだって」
俺はマリアにフミカのことを話した。
それで、俺が抜け出してでも、エルフたちを救いたいということも。
「それでマリアにも一緒に来てほしいんだ」
「でも、わたし。お馬鹿で、のろまなモグラだから…」
「俺が頼りに出来るのはマリアだけなんだ」
「…オラニエ家の地下都市には選ばれたごく一部の人間とドワーフ達が働いています。でも、彼らが人前に姿を表すことはありません。人間はとことん彼らに厳しく、とても暮らせないからです」
マリアは手に持ったフィダルゴブラッキーを壁に叩きつけた。
轟音ともに壁が砂煙をあげてへこむ。
「一度、ドワーフの子とこっそり地上に出たことがあります。私はおじい様に貰ったお金を持ってその子とお菓子屋さんに入ったんです。お金を払ってリボンのついた箱を受け取って、地下に潜ったんです」
マリアは泣き止んで真剣な顔をしていた。
「地下都市の秘密の倉庫で私たちは秘密のお茶会をすることにしました。木箱の上にバラのカーテンをテーブルクロスの代わりに並べて、お母様から頂いたお茶のセットを並べて、私たちはおそろいのリボンをつけました」
「可愛かったんだろうな」
マリアは微笑んだ。
「ええ、とっても。それで、私たちはすっかり準備を整えるとリボンを外し、箱を開けました…」
「…まさか」
「ええ、箱の中は瓶の破片と生ごみでいっぱいでした。それ以来、私とその子が一緒に遊ぶことはなくなりました」
「…ひどいな」
「ええ、でも帝国はどこも同じ状況です。貴族たちも同じようですし…」
「…マリア、俺と来てくれるか?」
「ええ、もちろんです」
俺はマイニーモーを呼びこっそり旅の支度をし、モンセラートとエボニーウィッチを腰に差した。
机の上には「アドナイアスのバーカ、わからずや」とだけ書いた紙を置いたが、考えれば考えるほど腹が立ったので、「このレイシスト!鬼!差別主義者!」と書いた紙を追加しておいた。
マリアは食べ物だけもって、フィダルゴブラッキーを背中にしょっている。
「よし、行こうかマリア」
「はい、初めての逃避行ですわね!」
「行くのは南方だけどな」
俺とマリアは、手を取り合って街の外へ出た。
「あっ!」
「どうした?」
「兵士たちが穴を見つけたみたいです。あと10分で追いつきます!」




