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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第二部 ガルシアライフハック編
31/135

修行パートじゃけえ!

「ミヒャエル様」

……なんだよ。


「ミヒャエル様」

……今日は会社休みだろ。


「……ミヒャエル様!!」

ほっぺたを固い棒状のもので殴られる。

「はいいっっ!」


2メートルぐらいある天蓋ベットの脇に、メガネをかけた巨乳の牛が控えていた。鼻輪はない。

「おはようございます」

牛がしゃべった。

「う…うし!?」

牛はおっぱいを悲しそうに揺らしながら、俺を殴ったと思われるしゃもじを両手でいじり、部屋から出て行った。

「モウ、たくさんですわ」


説明しよう、これはループものではない。


俺が俺が目覚めたのはガルシア侯爵領のガルシア城の自室。

お越しに来たのは“マイニーモー”という魔物だ。

人間と共生している数少ない魔物の一種で、メイド仕事を手伝ってくれる。

いわゆる“靴屋の小人”みたいなものだが、なぜ手伝ってくれるのかは帝国七不思議の一つとされている。


とまあ、帝国になじみながらも、俺は3か月もの間、アドナイアスのしごきに耐え抜いた。


様々な加護を丸暗記し、魔法、法術、精霊魔術の呪文を暗唱出来るようにし(あんま使えない)、貴族の名前、家族構成、帝国の街、山、川、平野、森の名前、城の人間、軍の人間、町の代官の名前…などなど、何百何千という名前ばっかり覚えた。


そのほかにも、貴族の嗜みは一通りできるようにし、その間に手紙を書き、読み…と林〇先生もびっくりのスパルタ教育を施された。


元々勉強は嫌いではなかったし、新しい物事を覚えるっていうのはどこか気分のいいところがある。

それでも、眠たくなるとアドナイアスの電撃が俺を襲い。ガルバリウスが煮出した軍用眠気覚ましを飲まされた。


そして、今日、なんとかお飾り領主としての試験が行われる。


「ミヒャエル様、調子はどうですか?」


アドナイアスは一度も俺の事をタクミと呼ばない。


「ああ、多分大丈夫」

「ミヒャエル様は地名が苦手ですからね。注意してくださいよ」

「逆に最近はそればっかりやってたから自信あるよ」


似たような地名があって困り果てた俺を見かねて、ガルバリウスが「帝国覚え歌」を作ってくれた。

“蛍の光”に似たリズムでずっと歌っていたら、屋敷のメイドさん達が真似をするようになったので、廊下で歌うことを禁止されたけどな。


「そうですか、では試験の前に…」

「?」


アドナイアスは窓を開けて、叫んだ。


「モンタグートどのおおおお!お帰りくだされええええ!」

「いやだあああ、だれが帰るかああああ!ミヒャアアアアエエエエエル!あーそおぼおお!」


ちなみに俺の勉強部屋は城の塔部分、だいたい12階くらいの高さにいる。

そして、バスコは城壁の外にある教会の塔から身を乗り出して叫んでいる。


「だああれえがああ!あそぶかあああ!このぼけええええ!」


俺はアドナイアスの隣に身を乗り出して、バスコを追い払う。

そう、バスコはガルシア領土に来て、3か月もの間、ずっと俺の城に通っていた。

初めはアドナイアスやガルバリウスもお茶なんかを出してもてなしていた。

しかし、この脳筋は空気を読めなかった。

俺の勉強時間に押しかけてきては、やれ剣を造りに行こう、やれ馬を見に行こう、やれ木の上に隠れ家を作ろう、やれザリガニを取りに行こう、やれシャボン玉を飛ばそう…など、どんどんガキの遊びにシフトチェンジしていき、俺は正直めんどくさくなってきていた。


とうとうある日、紙のお面をかぶり、抜身のジュアニータを持って城に侵入してきたあのボケに、ジルバンテはぶち切れ、バスコはガルシア城を出禁となった。

ちなみに、侯爵が出禁になるのは史上初の事である。


「みいいいいいひゃあああええええるうううう!でてこおおおい!」

「いやじゃぼけええええ!」


ああ、なんかあのバカと話していると頭から単語が抜けそう。

ガルバリウスがお茶を持ってきた。


「ミヒャエル様、アドナイアス表に聞こえております…」

「だって、あのバカ勉強の邪魔ばっかりするんだぜ?」

「ガルシア領土内にはバスコ殿のご友人が少ないですからな。お淋しいのでしょう」

「だからって…」

「ミヒャエル様だって剣を教えていただいたではありませんか」

「むぅ…」


勉強の合間に剣術の稽古の時間があったのだが、ジルバンテの代わりにバスコが割り込んできたのだ。

まあ、剣の腕だけは一級品で俺はメキメキと上達していった。


「いや、でも邪魔だろ」

「後でお相手して差し上げると言えばよろしいでしょう」

「邪魔しないでください。私たちは巨悪と戦わなくてはならないのです」


いや、お前は窓から悪口言ってるだけだろ。

いや、悪口は俺か?


「バスコーーーー、終わったら相手してやんよーー」

「おう!公園でまってるからなあああ!」


バスコが虫取り網を振り回して応じる。

公園て、子供か。

アドナイアスが俺を睨んだ。


「ミヒャエル様はモンタグート様を甘やかしすぎです」

「いいじゃん、勉強はちゃんとするからさ」

「…それは試験が終わってから言ってください」


アドナイアスが紙の束を机の上に叩きつけた。

え、テストいうたやん。


「仕方がないでしょう、あなたが学んだことはこのくらいの分量なのですから」


うん、よく頑張った俺。

終わったら馬に乗りに行こう。

バスコは置いて。

今日中に終わる気がしないけどな。





………


……………


…………………………


「でえええきたあー!」

「もう朝ですよ」

「仕方ないだろ、物量的にこれが限界だわ」

「そうですか」


アドナイアスはずっと居眠りこいていたくせに、隣で朝ごはんを食べている。

もちろん、俺の分はない。


「今日は自由にされて結構ですよ」

「まじで!」

「護衛をつけるのなら外出してもかまいません」

「…アドナイアス、なんかあった?」

「はい?」

「その熱とかいろいろ」

「ないです、それとも初級魔法の練習でもされますか?」

「いっ、行ってきまーす」


俺は顔だけ洗って城下街へ出た。

ベルイジス、シベールが後ろからついて来る。

このベルイジス、帝都のガルシア家に石を投げたとしてしばらく監禁されていた兵士である。


事が終わった打ち上げの後、俺とかくれんぼしていたバスコがうなだれていたベルイジスを見つけるまで、全員がその存在すら忘れていた愛すべき男だ。

俺たちはゴタゴタしていて気付かなかったのだが、このベルイジス、飯時になると使用人の食堂で飯を食い、洗濯ものを洗い場に出し、部屋の掃除を行うばかりか、最後の戦いについて来たらしい。


「ミヒャエル様、お待ちください!」

「ああいたのか、ベルイジス」

「いたのかじゃありませんよ、昨日の試験中からいたじゃありませんか」


まじで!?そっからいたの?

外に出てから冗談で言ったのにな。


「どちらに行かれるのですか?」

「とりあえず、店が開く時間までその辺を一周するよ」


朝の空気は冷たく、俺は深呼吸をしながら歩き回った。

時折、焼き立てのパンの匂いとか、馬の準備をする宿屋が用意する朝食の匂いとかが道々に漂ってくる。


「しまった、朝ごはん食べて来ればよかったな」

「何も召し上がっていないので?」

「ああ、アドナイアスから逃げてきたからな、お前は何か食べたのか?」

「大丈夫です、城の食堂で食べますから」


そういや、ガルシア家の兵士って薄給を薄めたくらい安いんだよな。

俺のせいだけど。

俺はポケットから硬貨を何枚か取り出して渡した。


「シベール、悪いけどこれでなんか買ってきてくれるか?俺たちは公園で待ってるから」

「わかりました」


俺たちは初代ガルシア侯爵の銅像がある公園に入り、剣の型を練習した。


「…で、これが八重垣やえがき、続けて浦波うらなみ、最後に納刀する」

「やはり、ミヒャエル様の剣技はいつみてもほれぼれいたします」

「お世辞はいいって」

「いやいや、昔見せていただいた帝国剣術も大したものでしたが、こんなに早く南方剣術を会得されるとは思いもしませんでしたな」


…ん?ミヒャエルって南方剣術じゃないの?。

ガルシア家が南方貴族だし、バスコがゴリ押しするからてっきり南方剣術だと思ってたんだけど。


「…何事も経験だろ?」

「いや、ミヒャエル様が言うと説得力がありますな」

「…せっかくだし、バラでも見て回るか」


公園にはミヒャエルの母親が愛したと言われるバラが咲き乱れている。


「きれいだなっと、ん?」


俺は公園のベンチの上にある塊に目を留めた。

誰かが寝ているらしい。


「貧困が首都にまで来ているのか…」


貧民街はあるものの、一応は全員が屋根のあるところで眠れているのだと思っていたのだ。


「一応、貧者の為の救済院などはあるのですが…まだ若いようですし、働き口もありそうですがね」

「…一応声だけでもかけておくか」


俺は寝ている人の肩をゆすった。

ぼろぼろの毛布、いや、麻の袋から大きな手足がはみ出ている。


「あのー、大丈夫ですか?」

「んんん…」

「その寝るところなら、侯爵家が用意していますよ」

「んんんん…」


ベルイジスが男の背中を蹴った。


「無礼者、恐れ多くもガルシア侯爵様がお声をかけてくださっているのにその態度はなんだ!」

「う……さ…ぞ」

「さっさと起きんか!」

「おい!よせ!」


男は蹴られても何の反応も示さない。


「うる…さい…こ…ぞ」

「起きろと言っているのが聞こえんのかこの下郎!」

「よせったらベルイジス!いい加減にしろよ」


羽交い絞めにしたベルイジスが再度男を足蹴にする。

こいつ、強いものには弱く、弱い者には強いからな。


ベルイジスの足が触れた瞬間、いきなり男が飛び上がった。


「うるさいっ!殺すぞこの間抜け!」


男が腰の剣に手をかけた。俺はベルイジスを蹴り飛ばし、モンセラートを抜きはなつ。


「抜刀術、虎口ここう!」

「返し技、護国ごこく!」


俺が抜き打ちで放った斬撃が男の剣を止める。

あまりの重さに俺の手がしびれ、肩がきしむ。

男は南方剣術の手練れらしい。


「…星射ほしうち」


下から振り上げた男の剣が俺の剣を弾き飛ばし、返す刀で、ベルイジスの背中を襲う。

俺は背中に仕込んだエボニーウィッチを抜き男に向ける。


風霊駁撃エアリアルショット!」


風の中級魔法が男に直撃し、男は吹っ飛ぶ。

でも、通常ならくず肉になってるはずなんだが…


「ぬうううう」

「おい、お前…」


男がマントのように巻いていた麻の袋や衣服が破れ、男の姿が露わになる。


「もしかして、バスコか?」

「…おうミヒャエルか?全く気付かなかったぞ」


もしかしなくても、バスコ・モンタグートだった。


「お前なにしてんの?」

「いやな、タク…ミヒャエルを待ってたら暗くなってきたので、ちょっと寝てたんだが、知らんおっさんがこの袋をくれて」

「…バスコ。俺の加護を受け入れろ」

「?いいぞ?」


俺はガルシア侯爵の加護、神眼霊風しんがんれいふうを使用した。

周辺の空間情報を把握する加護だが、相手の許可さえあれば、最近の記憶を読むことも出来る。


「昨日の事を思い出せ」

「ん?こうか?」



俺は昨日のバスコの記憶を覗いた。


~1時間後~

「ミヒャエル終わったら来るって言ってた」ワクワク


~3時間後~

「あ、ちょうちょ。でも、ミヒャエル来るまで待つんだ…へへっ」


~5時間後~

「お兄ちゃんなにしてんのー?」


「え、バスコは友達待ってるんだ」

「へー、僕たちと一緒に遊ぶ?」

「えいいの?」

「うん、僕はミー君」

「僕はバスコよろしくね」


~6時間後~

「ミー君帰るよー」

「ママ―、今日の晩御飯なあに?」

「今日わねー、ミー君の大好きなシチューだよー」

「やったー僕シチュー大好き」



「……お腹減ったな。でも、ミヒャエル来たら悪いしな」


~8時間後~

「あんたこんなところで何してんだい?」

「バスコはね、ミヒャエル待ってるの」

「あんたの友達はもう来ないよ、あんたもさっさと帰りな」

「来るもん!ミヒャエルは絶対来るもん!」

「はあ…馬鹿な子だね、ほらっ、これでも食べて待ってな」

「うわあ、おいしそうなパン。おばちゃんありがとう!」

「それ食ったらさっさと帰るんだよ」


ぐーー

「…お腹減ったな」


「…でも、二人で食べたほうがもっとおいしいよね!」


~10時間後~

「ミヒャ…ル。むにゃ…」

「おい坊主どうした?」


「むにゃ…僕ね友達待ってんの」

「もう、夜も遅いじゃねえか、さっさと帰んな」

「でも、ミヒャエルが…」

「なんか用事でもできたんだろうさ、また明日来たらどうだい?」

「やだー、ミヒャエル待つんだもん!もんもん!」

「…負けたぜ、ここは冷える、これでもかぶってな」

ポイ


「ありがとう、おじちゃん」



…バスコと俺の脳を仲介している分、かなりイメージによる補正がかかっているがおおよその内容はこういうことらしい。



「すまんっっ!」


俺はバスコの前にスライディング土下座した。

いや、かわいそ過ぎるだろ。


「なに、こうして来たじゃないか」


こいついい奴だな。

俺たちはバスコのパンを半分こし、シベールの買ってきた牛乳とパンを食べた。


「さて、ミヒャエルよ」

「なんだ?」

「今日は南方剣術奥義を授けようか…」


へっ?怒ってないっていったじゃん。


「あの…怒ってないよね?」

「まさか、昨日一日中じっとしていたからな。体がうずいて敵わん」

「…まあいいけど」


その後、俺は一日中バスコの剣を受けつづけ、傷だらけになって城に帰った。


それから、俺はジルバンテに土下座してバスコの出禁を解禁してもらった。

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