宮廷は腐りきっとるけえ
麗らかな春の日、宮殿の中庭では俺とシモン様しかいない。
「まったくお主は手加減というものを知らんのか?」
「すいません…」
「いやな、わしも言うたよ帝国の膿を絞り出せとさ、けど、しょっぱなから、帝国騎士団の団長と副団長を血祭りに上げるのは皇帝どうかと思うわけでな」
あー、ひばりが鳴いている。
あなたも空が恋しいのね。
「申し訳ございません陛下」
「シ・モ・ン、シモンじゃ」
は?シモンとか自分で言うなよ。
かわいいとでも思ってんのか?
「申し訳ありません、シモン様」
「しかし、どうするかのう。まだ、将軍にも宰相にも言うてないんよ。もう、どうなるか、想像もつかんしなあ」
「そうですね、一応提出した報告書にも対策は書いてありますが、病気により辞職っていうのしかないでしょうね」
「…お主も随分政治家になったのう」
いやみまで言うとは上等じゃねえか。
「…どうした。随分怖い顔をしておるの」
「正直に申し上げてもよろしいですか?」
いってやんよ、やってやんよ。
「陛下、いや帝国には失望いたしました」
「…何を知った」
「リドルフィ兄とブルーイュ騎士団長から吐かせたことは全てです」
あの後、バスコが連れて帰ってきた暗殺者、ジルバンテが連れて帰ってきたブルーイュと騎士団の面々。そいつら全員から吐かせた情報は頭が痛くなるものだった。
贈収賄は当たり前、恐喝にたかり、ゆすりは日常茶飯事。おまけに貧民街から女子供をさらっての人身売買、密造酒、塩、金の違法な売買、囚人の虐待に騎士団内でのいじめ、パワハラ…
「あれじゃあ、盗賊の方がましってものです。盗賊なら盗みと殺人の2つしか犯していませんからね」
「…よう言うたのう」
シモン様の顔が険しくなる。
「ええ、正直陛下を見限って領土に引きこもろうかとも思いました」
「ならば、そうしたらよい」
「そうしないのは山々ですが、私の体は私一人のものではないのです。いえ、私のものですらありません」
ミヒャエルに返さなきゃいけないし。俺は俺の体を取り戻さなくてはいけない。
「…う…だ…」
「はい?」
「俺はただっ…ぐすっ…帝都を…良くしたいと…うわあああああ!」
「シモン様?」
「帝都を…わああああん…帝都の為に…ぐすん」
既視感。
しのちゃん陛下…なんかかわいいから許すか。
…
……
………だめだな。
「シモン様」
「うぐっ、はあ、はあ、はあ」
「シモン様?」
「なに…」
「歯を食いしばりなさい」
「へっ?」
俺は固く握りしめた拳でシモン様を殴りつけた。
「へぶしいいいい!」
シモン様は椅子から転げ落ちた。鼻からは血が噴き出している。
庭の土が盛り上がった。
陛下直属の護衛部隊ロワイノー。姿を消し、壁や地面に潜り、水に潜むほとんど暗殺者に近い部隊だ。
「来るなっ!命令じゃ!来るな、頼むから…」
陛下が手を振ると、地面が元に戻ってゆく。
「シモン様、これを…」
俺は陛下に手を貸し、ハンカチを差し出す。
「…ああ」
「シモン様、よく聞いてください。これはアドナイアスに聞いたのですが、手に持った剣は落としてはならず、開いた本は読まねばならぬといいます」
いや、ガルバリウスだっけ?まあどっちでもいいけど。
「陛下は前世で良いことをしたのか悪いことをしたのか知りませんが、帝国の皇帝にお生まれになりました。皇帝に生まれたからにはその義務と責務には忠実にならなくてはなりません。私もお手伝いすると言ったはずです」
「ぐすっ、すまん。わしは、わしは…」
「さあ、行きましょう。俺は最後まで陛下の味方です」
「タクミ…すまぬ」
ん?
んんんんんん?
「シモン様?」
なに、ぶちかましてんの?このわんこ陛下?
「よい、皇帝の加護、神眼霊視ですべてわかっておる。お主の素性も過去もな」
皇帝の持っている加護、神眼霊視。俗にいうサイコメトリー能力で、バスコの神眼霊目の上位加護に当たるらしい。
「それじゃあ、最初からわかっていたんですか?」
「どストライクだったしのう」
「はあ?」
「エリアーヌがいなければ、求婚するレベル…」
「まじっすか…」
いやいや、リアル大奥とか絶対お断りだからな。
階段に蝋燭が塗ってあったり、倉庫に閉じ込められたり…
「それは冗談として、ミヒャエルすまなかった」
「いえ。私もやりすぎました」
「そのなんじゃ…最後にのう、お願いがあるのじゃが」
「なんです」
「ぎゅっとしてくれんか?」
「……」
なにを言ってるんだこのわんこ陛下は?
「安心せい。わしに男色の趣味はない」
うん、なんというか返答に困るな。
けれども、シモン様は緑色のうるんだ眼で俺を見ている。
その視線はとても純粋で、吸い込まれそうに…いやいやいや何を考えているんだ俺は。
けど、まあちょっとだけならいいかな?
殴ったままだと後味悪いし…
「ちょっとだけですよ…」
「うむ是非もない」
俺は同じくらいの身長の陛下を抱きしめた。
シモン様は触れてはじめてわかるくらい小さく震えている。
「シモン様…」
俺は背中にまわした手をほどく、シモン様の手は離れない。
「シモン様…そろそろ…」
シモン様の手は離れない。
「ちょっ…陛下!離って…もう、やめっ」
「何をしていますの!?」
俺とシモン様が振り向くと、エリアーヌ様が大きな扇子を片手に仁王立ちしている。
「ひっ、エリアーヌ様」
フレドリカ様と同じ緑の髪と瞳。しかし、外見はフレドリカ様よりも背が高く大人に、いや、年相応に見える。
「ごきげんよう、ガルシア侯爵この間はお茶会にいらっしゃらなくて残念でしたわ」
「えっ、ええ。こんどは是非」
俺はシモン様を力づくで引き剥がした。
ふええ、とか言うな男のくせに。
「では、これにて…」
うん、逃げよう。
「ガルシア様…」
エリアーヌ様の手が俺の肩にかかる。
「はひっ、なんでございますかで、ござましょう!?」
「今度は、鎧を着てくださらない?」
「それはどうして?」
「その…戦、もう帰ってこられない戦に向かう前日、いえ、前の晩に契りを交わしあう武人と主人って、良いと思いません?」
帝国はとことん腐っとるで。
「モンタグート殿はイメージではありませんし、リリエンタール殿は中性的過ぎますし、こう適度に美形なミヒャエル様が一番ですわ」
ミヒャ×シモンってか?ちなみに俺は受けか攻めか?
「毎年、新作を楽しみにしておりますのよ」
新作?なんの新作?
「ジーン・ティアニー先生の新作ですわ!この間は東屋での逢瀬が…」
「…もう結構です」
俺は興奮してミヒャ×シモンの布教を本人にするエリアーヌ様を置いて庭を後にした。
てか、なんで東屋での事を知ってんだ?
あれは、俺と陛下とごく一部しか知らないはずだろ。
…まさか、ジーン・ティアニー先生って宮殿の人なのか?
陛下を薄い本のネタにして無事ってことは、結構偉い人なんじゃ…
俺は前よりも重い気持ちでゼカリア門を後にした。




