ジルバンテのターンじゃけえ
激しい剣戟の音が城壁に響く。
「ぬううううん!」
ガルシア侯爵の近衛兵と戦っているのは見回りをしている帝国騎士団の正規兵だ。
「うがあっ!」
凶槍ビーチク丸を振り回すごとに、数十人の兵士が吹き飛ばされる。
「ジッ、ジルバンテ殿。乱心でもされたか!」
ジェネラシオン・ドゥ・ブルーイュ帝国騎士団団長がジルバンテの槍をクレイモアで受ける。
「乱心はお主の方だろう、帝国騎士団の権力を乱用し、他人、いや部下の妻君を奪うとは言語道断!」
「いや、それは…」
「言い訳無用、降伏すれば命までは取らんが、どうする?」
ブルーイュは馬の背に括り付けた包みを広げた。
「くっ、くっ、くっ……」
「何がおかしい?」
「俺を誰だと思っている?シベリウス神聖帝国の騎士団長ジェネラシオン・ドゥ・ブルーイュだ。代々、騎士団長を務めてきた我らがお前らのような田舎者に負けるとでも?」
ジルバンテは憐れむような目でブルーイュを見た。
「負けるさ…血統に頼ったとき人は誰でも堕落する。誰でもだ」
「ならば、この剣で確かめてみるがいい!」
ブルーイュはガルシア家が出しゃばって来ると想定し、とある武器を手に入れていた。
魔物の大腿骨を研ぎあげて作ったクレイモア、帝国騎士団の倉庫に眠っていた骨とう品である。
「ほう、骨製のクレイモアか、確かにそれならば我らにも近衛兵にも傷をつけられるな」
見ると、最初は混乱していた騎士団も骨製、あるいは木製のハンマーを手に応戦している。
「見た所、ガルシア家の襲撃を予期していなかった訳でもないようだな」
「あのリドルフィが出しゃばった時から、薄々こうなるのではとも思っいた。しかし、ガルシア家がここまで阿呆だとは思っていなかったがな」
「阿呆か、確かにな…。一歩間違えれば逆賊、道を外せば帝国中が戦乱に元通りだ」
ジルバンテの突きを受けるたびに、ブルーイュの剣が真っ白な破片が飛ぶ。
「しかしな、今のミヒャエル様は不正義をよしとせんのだ、見過ごすことも、無理に目をつぶることもよしとはせんのだ」
ブルーイュが大振りだが、隙のない横薙ぎがジルバンテを襲う。
ジルバンテの槍より、リーチが長く、一撃辺りの威力は強い。
少しずつ、ジルバンテが押され始める。
「…そして、お前のような輩がのさばるのが一番許せんのだ」
クレイモアがジルバンテの肩を切り裂く。
「威勢はいいが、それに伴う実力をつけるべきだな」
「…っ、そうだなお互い加護を隠したままでは失礼というものだ」
ブルーイュの加護は帝国騎士団全員が持つ、裂傷増加、剣閃一文字、止血阻止の3種。上位騎士が持つ、皮膚硬化、武器硬化、重量操作の3種。騎士団団長が持つ、四大属性無効、帝国剣技、不可視楯の3種、計9種の加護を持っている。
「帝国で一番強いというのは帝国で一番研究されているということ、騎士団の加護を私が知らないとでも思ったか?」
「…それはお互い様だろう」
ガチガチの防御で少しずつダメージを蓄積、時がたてば経つほどに有利に進め、じわじわと相手をなぶり殺す。
絶対に負けられない帝国の守護者に与えられた。護国の加護。
「私がなんて呼ばれているか知ってるか?」
「剣聖ジルバンテ…。その傷を武器のせいにするなよ?」
「しないさ」
ジルバンテは槍を投げつけ、ブルーイュから距離を取った。
腰に下げた剣をゆっくりと抜く。
「さあ、戦おうか?」
ブルーイュはのけ反った。ガルシア家の将軍に代々伝えられた宝剣、骨喰いジャンヌゲルバイス。
どんなに分厚い装甲を纏っていても、触れずとも、相手に向けて振るだけで骨を砕く魔剣。
魔術とも加護ともいえない、不条理な力。
「怖いか?別に普通の剣を使ってもよいぞ?儂にはこれしかないだけだからな」
「抜かせっ!」
剣を交わすと一瞬でブルーイュのクレイモアが折れる。
「……ッ!」
「己の剣が骨だということも忘れたのか?」
ジルバンテは数メートル先の帝国騎士に向かって剣を振る。
「ぐあっ!」
剣風さえ届かない距離で、帝国騎士の肩が砕けた。
ジルバンテは数回剣を振るい周辺の騎士を次々と打ち倒す。
「さあ、好きな武器を拾え」
ジルバンテも騎士の握っていた剣を手に取る。
「…舐めるなよ」
ブルーイュは強がるが、舌打ちをして木にいくつもの牙を埋め込んだクレイモアを拾い上げる。
裂帛の気合いと共に、二つの武器が打ち合う。
ジルバンテの剣は南方剣術をよりスピーディーにアレンジしたもの。
一撃必殺をひたすら繰り返す。
ブルーイュの剣は帝国剣術に加護が加わったもの。
小さな傷を積み重ね、大きな相手を倒す剣。
ジルバンテの剣がブルーイュの肩を削ぎおとした。
タイミングによっては首の骨をへし折った一撃。
ブルーイュの肩から流れる血は瞬時に止まり、肉が固まった。
痛みは感じていない。
ブルーイュはあくまで、ジルバンテの指や足、目など行動を束縛する箇所を狙う。
不意に振り下ろしたジルバンテの剣が下がる。
「もらった!」
ブルーイュが突きをジルバンテの顔に放つ。
間合いもタイミングも完ぺきな一撃。
本来ならば、受けることも躱すことも不可能な一撃。
しかし、ジルバンテは振り切った剣を異常な速度で戻した。
「!!!!!」
剣閃飛来。バスコと同じく驚異の剣速を生みだすジルバンテの持つ加護。
ブルーイュの手から離れた木剣が宙を舞う間、ジルバンテの剣が八度切りつけた。
「まあ、加護の違いがあるのは否定せんが…」
ジルバンテは苦い思いで気を失ったブルーイュを見つめた。
ジルバンテの持つ最強の加護、剣聖。
ガルシア侯爵とは異なる由来を持つ加護。
これは己の力ではないのだ。
加護があるから勝てたのだ。
実力なら拮抗していた。
どんな相手と戦ってもその想いは消えなかった。
しかし、この力を振るったことに悔いはない。
「腰の剣がある限り、俺はガルシア家の将軍だ」
ジルバンテは骨喰いジャンヌゲルバイスを目に見えない速度で何度も振るった。
「ぐおっ!」
「がはあっ!」
「うわあぁぁ!」
一瞬で周囲が静かになる。
「ジッ、ジルバンテ様!」
「おう、皆無事か?」
ジルバンテは駆け寄ってきた部下に、戦闘終了を告げる。
「軽傷者が数名。あとは無傷です」
「そうか、捕虜を捕え手当せよ。それからマートルフォリー殿を連れてまいれ」
後は、マートルフォリーの催眠術に任せれば一件落着。
これで自分の役は終わりだ。
ジルバンテは拳を突き上げた。
「我らの勝利だ!」
勝利の雄叫びがあがった場所は奇しくも2日前と同じ場所だった。




