はじめてのけっとうじゃけえね
朝、俺が外に出た時、メイディランドが庭で素振りをしていた。
「おはよう」
「おはようございます、ガルシア様」
俺はモンセラートを抜いた。
別に、メイディランドを切るためではない。
「俺にも教えてくれないか?」
「ミヒャエル様にですか?しかし、私は北方剣術ですからな。ミヒャエル様は南方剣術ではないのですか?」
「まあまあ、後学のためにさ」
「まあ、私は構いませんよ」
メイディランドは手に持った木刀を床に置きレイピアを抜いた。
腰を落とし、まっすぐに構える。
「ローゼンバウム家の剣術は突きと払いがメインです。攻撃は受けず、引いてかわします」
「こう?」
「ええ、筋がよいですな」
小一時間、練習をするとメイディランドから北方剣術の型や技を教えてもらった。
こういう運動神経の良さはミヒャエルの体の持ち味だな。
「で、こう払って突きにつなげるのか…」
「…ええ」
「どうした?なんか機嫌が悪いな」
「いえ…なんでもありません」
~2時間後~
「うらああああっ!」
「なんのっ!」
2時間後俺達は木刀で試合をしていた。
メイディランドは確実な手で攻め、絶対に打ち合わない。
俺が大振りの攻撃を仕掛けると下がり、俺の小さな攻撃には攻撃で対応してくる。
逆にメイディランドの攻撃は必ず当たり、着実にダメージを積み重ねている。
「はあっ、はあ。北方剣術ってなんかやらしいな」
「南方貴族の方々は皆そう言われますよ、モンセラートは短いですから突きには不向きですし」
…まじかモンセラートだめじゃん。
「そんなことはありませんよ」
「アドナイアス」
アドナイアスはメイディランドを睨んでいる。
「モンセラートはその爪楊枝を叩き折るのに特化しているのです」
「…ほう、それは恐ろしい」
メイディランドとアドナイアスが火花を散らしている間に、俺は食堂に逃げた。
だって、次の展開は絶対「じゃあ、勝負しますか?」「望むところ」「ミヒャエル様!」だろ
食堂は昨日の作戦会議のまま残っており、隅っこには軽食を食べた跡があった。
「はっひい、もーだめですぅ」
マリアがフラフラになりながら食堂に入って来た。
「おい、大丈夫か?」
「ミッ、ミヒャエル様~。聞いてください、あのアドナイアスがひどいんですよ!」
「まあ落ち着けよ」
俺は傍にあったコップに水を注いでマリアに渡す。
「ガフガフ、ゴックン。それで、勝手に穴に入ってきては、穴を拡張しようとするし、敏感な部分を棒で突っつくし。もう一晩中付き合わされて、くたくたですぅ」
「…誤解を招く発言をするな。それで、抜け穴は?」
「ぅぅぅぅ帝都脱出用の抜け穴は完成しました」
俺はふらふらしているマリアの砂を払い、椅子に座らせた。
マリアはふらふらしながら、半目で俺を見ている。
…気持ち悪い
「そういや、フィダルゴブラッキーはどうした?」
「あの子は今、サイドシェリーが使ってます。オラニエ家の人間ならある程度は扱えますから」
「あれもオラニエ家の加護がかかっているのか?」
「ええ、初代オラニエ伯爵がゴブリンの王を討伐したときに手に入れたとされています。地質変化の加護がかかっていますから、掘るときは柔らかく、穴を固めるときはより固くできます…」
「へえ」
俺は寝落ちしたマリアを抱えて俺の部屋で寝かせた。
「寝ているだけならかわいいと思うんだけどな…」
そう、寝ているなら。
女の子って、かわいいよな。
俺も、もしみんなが生きていたら、いや、誰か一人でも生き残っていたら…
今のミヒャエルみたいにかわいくなったのかもしれない。
俺はマリアのそばに体を横たえた。
そっと髪をなでる。
胸のボタンを外し、下着を引っ張る。
マリアの手を握り、俺の頬に押し当てる。
「…何をしているんですか?」
「アドナイアス…」
「中身が女性でなかったら殺してますよ?」
「…すまん」
「あまり思いつめないでください、ゆっくり考える時間はいくらでもあるんですから」
アドナイアスは俺の考えなんてお見通しのようだった。
「行きましょう、昨日のおさらいをして、朝食にしたら決闘場までお送りします」
「アドナイアス…」
「それから、これを」
アドナイアスは一振りの短剣を差し出した。
鉄の鞘から抜くと、石を磨き上げたような半透明の刃が現れた。
光の加減で緑色に輝く。
「緑刃エボニーウィッチ。ゴーシェンロード伯爵があなたにお貸しするようにと」
「綺麗だな」
「…ゴーシェンロード家の家宝ですからね」
そんなもの借りていいのか?
「皆、あなたに賭けているのですよ」
「まあ、正確に言うとミヒャエルだけどな」
あの時のスピーチ。
あれはミヒャエルが俺に仕込んだものだった。
なぜか。
あいつは俺に何をさせたいんだ。
それに、あの時ムンディー邸を襲った魔物達。
あれをけしかけた人間は恐らく、今回の一件とは別にいる。
そいつは、ミヒャエルが入れ替わった事を知っている。
そして、ミヒャエルも何かをするために入れ替わりを行ったはずだ。
ミヒャエルでは絶対に出来ないことをするために…
それは大体限られている。
表ざたにできないことか、非合法なことか。
どちらにせよ、人には言えないことに決まっている…
まあ、仕方ないか。
俺は時間までひらすらに剣を振った。
昼の鐘が帝都に響く。
「これはこれはミヒャエル様、お早いお付きで」
「舐めるなよリドルフィ」
俺達の前には帝国騎士団の団員が10名とリドルフィ兄弟がいた。
全員が正装で手に抜身の剣を持っている。
「これより、ガルシア・デ・トールバルド・ミヒャエル殿とボトゥザリス・リドルフィ殿の決闘を始めます。見届け人はこの私。コシモ・リドルフィとガルバリウス殿が行います」
ルールは相手を降参させるか、参ったというまで。
あんまり、あっさり負けると怪しいし、時間稼ぎにならないから、そのへんよろしくと言われている。
「こいよ。遊んじゃるけえ」
俺はモンセラートと緑刃エボニーウィッチを抜いた。
…付け焼刃だけど、剣術といったらこれしか知らないし。
「なっ、ガルシア家が北方剣術を!」
2丁の戦斧を握ったボトゥザリスが勝手に驚いている。
ボトゥザリスの初手は大振りの連続、俺は武器を合わせずに後ろに下がる。
しかし、速い。独楽のように回転とゴリラのような背筋を駆使して相手に隙を与えない。
ちょっとでも、武器がかすると火花が飛ぶ。
「こりゃ、打ち合ったら負けるな」
「ははは、どうされた!逃げるばかりでは埒があきませんぞ?」
調子にのりやがって、時間稼ぎが目的じゃなかったらお前なんか瞬殺だってのに。
…嘘だけど。
いやいや、無理だろ、武器の相性が悪すぎるもん。
ボトゥザリスが両腕を振り上げた。
「戦斧術奥義、破壊二閃!」
斧の範囲からは離れているはず…
「うっ…!」
俺の両肩から血が噴き出した。
「ミヒャエル様!」
見えない刃?飛び道具?それとも衝撃波かなにかか?
ボトゥザリスはまた、独楽のように回り斧術を駆使する。
「これじゃあ後がないな、あれを試してみるか…」
ボトゥザリスが斧を振り上げた瞬間、俺は緑刃エボニーウィッチを投げた。
「なっ!」
ひるんだボトゥザリスは片方の斧で緑刃エボニーウィッチを払った。
一瞬空いた場所からモンセラートの刃がボトゥザリスの腹を撫でる。
「がはっ!!」
モンセラートから伝わった血が俺の手を赤く染める。
ジルバンテから教わった、捨て身の技。
防御に使用していた短剣が無くなってしまうので最後の手段だ。
「うらっ!」
腹筋で腹の血を止めた、ボトゥザリスが俺を蹴り飛ばす。
俺の体が紙のように吹っ飛ぶ。
口の中からは血の味がし、鼻から温かい液が染み出すのを感じる。
モンセラートを杖に立ち上がる。
ボトゥザリスが再度腕を振り上げる。
「止めだ!戦斧術奥義、破壊二閃!」
これで、最後…これでだめだったら降参しよう。
俺はモンセラートをボトゥザリスに再び投げつける。
「馬鹿かお前は!」
振り上げた両腕でモンセラートをたたき落とすとボトゥザリスは再度腕を上げる。
「戦斧術奥義、破壊…」
俺はモンセラートを投げつけた瞬間、スライディングして緑刃エボニーウィッチを拾う。
切っ先をボトゥザリスに向け、フレドリカさんが教えてくれた加護を開放する。
「風魔術、風霊駁撃!!」
風の刃の嵐がボトゥザリスに襲い掛かり、通り過ぎた。
地面に残ったのは2丁の斧と肉が詰まったブーツだけだった。




