作戦会議でデコイ役を仰せつかったけえね
リベルトこと、サイドシェリーが言うにはこういうことらしい。
オラニエ家には代々一族のみが知る地下都市を持っていて、そこには、貴金属や宝石はもちろん、戦闘に特化した魔物も飼育され、有事の際には絶対防御の要塞に変わるらしい。で、帝国騎士団団長のジェネラシオン・ドゥ・ブルーイュになぜか見つかってしまった。
「それがなんでまずいんだ?」
「いやその、実は…」
マリアが立ち上がった。
「その地下都市には帝都の宮殿までつながる通路があるのですっ」
「まぢ?」
「ええ、その気になれば一時間で宮殿を掌握することも…うぐっ」
マリアは部下に口をふさがれた。
やばすぎだろ、帝都のセキュリティゴミじゃん。
「それで、ブルーイュ団長はオラニエ家に金銭を要求してきたのです。初めは、オラニエ家もそれに応じていたのですが次第に要求がエスカレートして行き…」
メイディランドが重い口を開いた。
「妻を、サイドシェリーを要求してきたのです」
リベルトこと、サイドシェリーが泣き出した。
「ブルーイュ団長は街でサイドシェリーを見た時に一目ぼれしたようです」
マリアがサイドシェリーを慰める。
「それで?なんで入れ替わったの?」
「はじめはリベルトが言い出したのです。サイドシェリーに成りすまし、ブルーイュ団長を討つと。魂魄交換を行った後、リベルトが団長の家に行きました」
サイドシェリーが懐からハンカチを取り出した。
「私は賊に見せかける役でした。リベルトが密かに集めた兵を使って城壁を攻撃。混乱に乗じてリベルトを回収する予定でした」
マリアが目尻に涙を浮かべながら、サイドシェリーの手を取った。
「私たちがそのことを知ったのは、ミヒャエル様がサイドシェリーを捕えた後でした」
「…で今に至ると、リベルトいや、サイドシェリーは?」
「恐らく捕えられたのかと。まあ、外見がサイドシェリーですから殺されてはいないと思います」
マリアたちは立ち上がると床に膝をついた。
「ガルシア様、無理なことだというのは承知しております。オラニエ家で出来ることなら、何でもいたします。リベルトを、オラニエ家をお助けいただけないでしょうか?」
サイドシェリーやほかの人間がマリアにならって膝をつく。
「えーー。うん。しょうがない、いいよ」
アドナイアスが椅子からずり落ちる。
「軽っ、まあそういうと思っていましたよ」
「ジルバンテ、今帝都にいるガルシア侯爵軍で帝国騎士団に勝てるか?」
ガルバリウスとジルバンテは俺の顔を見てくすくす笑っている。
「明日の夕方以降であれば可能ですな」
ジルバンテがどや顔で俺の顔を見ている。
「なんで夕方?」
「明日の夕方頃には、ガルシア侯爵家が誇る近衛、精鋭、騎馬隊が到着いたします」
「俺がなんて言おうが戦る気満々じゃねえか」
アドナイアスがマリアを立たせお茶を注ぐ。
「よく言うでしょう、私が弓を持ち、矢をつがえ、弦を引き絞り、的を定める。しかし、放てというのはあなただと」
「なんか知ってるけど、違う気がする」
「とにかく、作戦ももう考えてあるんです!こうなったら徹底的にやりますからね!」
びたーんと紙の束を机に叩きつける。
「…これ全部覚えるの?」
「当たり前です。ほらっ、あなたたちも席に着きなさい。オラニエ家にも手伝ってもらいますからね!」
アドナイアスが手を叩くと、兵士がフィダルゴブラッキーを持ってきた。
「フィダルゴブラッキー!」
シャベルに抱き着く美女というのはこんなにも奇妙なものなのだろうか?
「お姉さま落ち着いて…」
それを止めるイケメン三つ編みの中身が女だっていうのも十分奇妙だけど。
「ブルーイュ団長は昨夜の戦いのおかげで、城壁の警備をしています。その間に、ブルーイュ団長宅にとらわれている真・リベルト様を奪還。これは私とオラニエ家が行います。明日の朝までにトンネルを掘ってください」
「はい。フィダルゴブラッキーが一緒なら」
マリアはシャベルを振り回しながら興奮している。
「マリア落ち着け」
「ええ、あっ。申し訳ありません」
「おほん、同時にジルバンテと近衛兵が城壁を警護しているブルーイュ団長を強襲。転がして記憶を消しておきます」
「記憶なんて消せんの?」
「まあ、マートルフォリー男爵家から専用の加護を持つ人間を借りています」
記憶消したなんて、ばれたらまずいんじゃ…
「ほっ、ほっほ。催眠術の加護を持つのは帝国でも数人ですがの、そのうちの一人が妻の弟なんです」
ガルバリウスはいつのまにか寝間着に着替えている。
「良いのですよ、どうせブルーイュもリドルフィ兄弟もなんらかの不正をしているはずです。術をかけてるついでに不正の証拠でも吐かせましょう。後は事後報告で根回ししておけばオールオッケーです」
「そう、うまくいくかね」
「上手くいかせないと困るのですよ、今回はブルーイュの頭からオラニエ家の情報を消しておかなければなりません」
「わかった、俺は何をすればいい?」
「ガルバリウスと一緒にリドルフィ兄弟の足止めを行ってください」
「分かった。あれ?騎馬隊と一緒にやるの?」
加護のついた剛力ち〇ぽ丸と一緒なら負ける気がしない。
「いえ、決闘をしていただきます」
「へっ、でも俺勝てないよ?」
「足止めですから勝つ必要はありません。メイディランドとリベルト様を連れて決闘してくだされば結構です」
「いやいや、怪我とかするし、下手したら死ぬじゃん?」
「ガルバリウスと優秀な立会人をつけておきますから死にはしませんよ。目が抉れてもまた再生できますからご安心を。まあ、首チョンパだけは避けてください」
「…」
「なんですその顔は、あなたが決定したことでしょう?全員命をかけているんですから、ガルバリウスをつけているだけましです」
「すべて終わったらカマノ男爵の馬車がマリア様達をオラニエ家までお送りいたします」
「カマノ?オクタビウスにも話したのか」
「いえ、先ほどカマノ男爵より書状が届きました」
拝啓
ミヒャエル元気?今日のスピーチやばかったね。
なんか、騎士団とかと揉めているらしいけど、なんかあったら家の馬車を使ってよ。
自分で言うのもなんだけど、馬車や輸送の加護なら帝国で一番だからね!
オクタビオ・カマノ男爵
…あいつこんなキャラだっけ?
「一日でこれだけ人の心を掴まれるとはさすがでございます」
ジルバンテは泣いている。
「まあ、この場合、カマノ家の馬車は一番頼りになりますしね」
「そんなにすごいの?」
「カマノ家には馬車、戦車の加護があります。重量無効や重機加速など、早馬と変わらないスピードで貨物を運搬することができますからね」
ああ、だから乗合馬車屋と変わらないって言ってたんだ。
「まだ、戦があったころは平地戦最強と言われていたんです」
「すげえじゃん。家より強かったんだ」
「けどまあ、大きな河は渡れないし、山は越えられないし、雪に弱いし、夜襲はできないしで活躍の場所は限られていたんです。けれど、圧倒的な面攻撃に耐えられる部隊は存在しなかったといいます」
あのネクラのお宅ってかっこいい家だったんだな。
「ええじゃあ、サンダリオの家もすごかったりする?」
「サルファパレード子爵ですか。あの家は南方馬術の総本家です」
「おお、めっちゃすごいじゃん」
「いえ、最近はシャイロノエル家の北方馬術が主流ですからね。帝都では南方馬術用の鞍すら手に入りませんよ」
あいつが酒におぼれるのも無理はない気がするな。
「戦争がなくなって、苦労する家も多いんだな」
「何を他人事みたいに、ガルシア家がその筆頭ですって」
…そうだったな。とりあえず、帰ったら南方馬術でも習ってみようかな
「決闘は明日の昼です。決闘場は帝都外れにあるヒリアリーの森で行います。それまで、体を休めてください」
「ああ、お休み」
俺はみんなにお休みを言って立ち上がった。
俺の後ろでマリアたちの声がした。
「…ところで、アドナイアス様、私達はどちらで休めばよいのでしょうか?」
「は?」
「いえ、もうおとなしくしているわけですし、檻というのも…」
「なにを言っているんですか?あなたたちには明日の昼までに、ここから城壁の外と、ブルーイュ邸まで穴を掘ってもらわなくてはいけないんですよ?」
「え…」
「寝る暇なんてありませんよ」
「いやああああああああーーお布団!お布団ーーーー!フィダルゴブラッキー!」
ブンブン
「ふんっ、鉄器無効!!」
轟音とうめき声
「お姉さま?しっかりなさって!」
「何をやっているんですか…」
…俺はあの女と結婚するところだったんだな。
俺の部屋はまだマリアが暴れた時のままだったので、俺は一階の客室で眠ることになった。
ジャッコ…ジャッコ…
「……」
ザック、ザック…ペタペタ
「……」
ジャッコ…ジャッコ…グスン…
「……」
ウッ…カエリタイヨー…ジャッコ…
「うるせーーーーーっ!」
結局俺はガルバリウスに睡眠薬をもらって2階で寝た。




