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加護持ち領主の和平活動  作者: アイゼン・ジム・トンプソン
第一部 帝都動乱編
22/135

恐怖を克服するのが人間の美徳じゃけえ

「ええっ!どうやって?」

「わかりませんよ。そのダライラマとかいう僧侶の粉を飲んだのかもしれませんし。ほかの方法かもしれません。しかし、帝国内で生まれたとあれば、たとえ奴隷であっても、自然と領土内の加護がつきますからね」


俺達はムンディー邸の応接間に通された。

「なあ、帝国の外ってないの?」

「…海の向こうにあるかもしれませんが、ムンディー子爵領は内陸の土地です。そこまで、外国人がやってくると考えるよりも、人肉食に目覚めた異世界の変態と考えた方がわかりやすい」

「悪かったな」


アドナイアスが俺のカップにお代わりを注いだとき、ムンディー子爵が現れた。

「おや、ガルシア侯爵様にアドナイアス殿、どうかされましたか?」

「ムンディー子爵ごきげんよう」


アドナイアスはムンディー子爵と握手をした。

「さて、王子はどちらにいらっしゃいますかな?」

「はい?」

ムンディーは額に汗を浮かべ、明らかに動揺していた。

「なっ、なんのことでしょう?」

アドナイアスは空いた手で持った杖をムンディーの顎に押し当てた。

「今夜、ミヒャエル殿のスピーチを聞いていなかったんですか?なめたことをするとぶっ殺しますよ」

アドナイアスの杖が赤く熱を帯びている。

「あちっ、熱い!」

「もう一度だけ聞きます!王子はどこですか?」


ムンディーが叫んだ。

「私は知らないのです!あの日、ミヒャエル様が指定した場所に馬車を用意していたのですが、閣下は現れませんでした!」

「ほう、やはり、異世界人を保護していたのですね」

「異世界人?」

「王子が用意させた魂魄交換の人間ですよ」


「えっ、あの、へばお、そして…んん」

なんかむかつくな。


俺はモンセラートを抜いた。

「なあ、いい加減にしないと頭の皮はいで捨てるぜ」

「ミヒャエル様。やりすぎです」

ムンディーは泡を吹いて失神している。


「なあ、ムンディーが用意したのって本当に異世界人か?」

「魂魄交換用の人員を用意していたのは間違いないようですが、ムンディーには聞かされていないのかもしれませんし、それこそ新大陸を見つけたか、新しい魔術でも産み出したのかもしれません」

「異世界人がもう一人いるって考えるより、わかりやすいよな」

「ええ、念のためタクミ殿が異世界人というのは伏せておきましょう」


アドナイアスはメレアルカスを取り出し、ムンディーにあてた。

「…むうっ、はっ」

「おっはー」

「ミヒャエル様、剣をしまってください。ムンディーが漏らしてますよww」

「へfgtぎbgfぎふじこ!」

ムンディーは再び気を失い。アドナイアスはメレアルカスを取り出し、ムンディーにあてた。


アドナイアスはムンディーを魔法で縛り上げ、天井から吊るした。

「ムンディー子爵、これ最後です。知っていることをすべて話しなさい」


「…初めはミヒャエル様に言われて、領土の境界線に一時の隠れ家を提供しておりました。その後、ミヒャエル様から魂魄交換の話を聞かされ、その交換する人間を用意することになりました。その相手の素性は知りません。ミヒャエル様が連れてこられましたから」

「その相手は?」

「私の屋敷に軟禁しております」

アドナイアスはムンディーを天井から降ろした。

「申し訳ないがムンディー殿には我が領地まで来ていただく。抵抗されないように」


俺はため息をついて、カップに残ったお茶を飲み干した。

「はあ、…ん?」

机に戻したカップがカタカタと鳴っている。カップだけではなく、壁にかかった絵も、シャンデリアも揺れている。


次の瞬間、轟音と共に部屋の壁が吹き飛び、大ナタを持った山羊の頭と下半身を持つ大男が現れた。

「なっ、ランゲルゴート!?」

「きっしょ…」

「A級の魔物です。私の後ろから離れないでください」


アドナイアスはメダルを2枚取り出した。

「顕現せよ。シャコック、カンデラブラ!」

メダルが弾け、2メートルぐらいあるカラスと両手にレイピアを持った大猿が現れた。

風撃削刃ピラーファング!」

見えない刃がランゲルゴートの皮膚を切り裂いた。


グアアアアッ…


アドナイアスは火、水、木、土など様々な属性の魔法を連続して放つ、シャコック、カンデラブラが素早く動き回って的を絞らせない。

氷狼撃ハティーアロー!」


鋭い氷の槍がランゲルゴートの胸に突き刺さる。ランゲルゴートはしばらくもがいていたが、やがて、動かなくなった。

「おおっ、すげえじゃん」

「いえ、まだです」


ランゲルゴートが入って来た穴から第二、第三のランゲルゴートが見えた。

「…うそん」

アドナイアスは桃色ローブの裾で額の汗をぬぐった。

「ミヒャエル様、馬車の後ろに剛力ち〇ぽ丸がいます。彼に乗ってお逃げください」

「お前は?」

「ムンディーもいますし、残ります。何、死にはしませんよ」

「いや、めっちゃ汗かいてるじゃん」

アドナイアスは部屋に入れまいと、氷魔法で追撃をしている。

「俺も戦う!」

俺はモンセラートを抜いた。

「ランゲルゴートは初心者の手に負える生き物ではありません。私もあなたを守りながら戦うよりも、ずっと楽なんです」

「…」

「さっさとなさい!」

アドナイアスはメダルをもう2枚取り出して召喚獣を呼び出した。


「…死ぬなよ」


「あなたの子供を見るまでは死にません」

縁起でもないことを言うなよ。


アドナイアスはニッと笑って俺の方を見た。

「…私、領地に帰ったら結婚するんです」

「…お前、わざと言ってるだろ」


「ふふん」

アドナイアスは汗びっしょりの顔でウインクした。


かっけえな、おい。


アドナイアスが氷狼撃ハティーアローで2匹目のランゲルゴートを倒すと、それを合図に俺は庭へ出た。

「剛力ち〇ぽ丸!」


ゥゥゥゥウウウウ


暗闇から姿を表わしたのはランゲルゴートだった。

「はっ?」


とっさにランゲルゴートの鉈をモンセラートで受け流す。一撃で俺の腕がしびれる。

「オラッ」

モンセラートを持ち替え、ランゲルゴートの目を突く。鮮血が頭から流れ、無茶苦茶に鉈を振り回す。


「とどめだっ!」

鉈をかいくぐり、胸にモンセラートを突き刺した。


「…結構やれるじゃん俺」

俺は倒れたランゲルゴートの上に立ち、刺さった剣を抜こうとした。

「あれっ?抜けない?」

固まった肉に食い込んでモンセラートがビクともしない。


グアアアアッ…


「え?」

さっきよりも一回り大きなランゲルゴートがこちらを見ている。


「ちょっと、ちょっと抜くまで待ってよ」

ランゲルゴートが鉈を振りあげた。


「うあああああああ!」


「風霊駁撃!《エアリアルショット》」

どこからか飛んできた見えない刃でランゲルゴートはバラバラになり吹き飛んだ。

「助かった…アドナイアス?」



「やあ」


聞き覚えのある声が聞こえた。

「誰だ?」



暗闇から、黒髪を束ね、華奢な体を持つ美少女が姿を表わした。

「やあ、久しぶりだねタクミ。いや、今はミヒャエルかな?」

「ミヒャエル…」



俺の体で、今のミヒャエルの肉体。


微笑みを浮かべた白野森シロノモリ 卓美タクミが立っていた。

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