恐怖を克服するのが人間の美徳じゃけえ
「ええっ!どうやって?」
「わかりませんよ。そのダライラマとかいう僧侶の粉を飲んだのかもしれませんし。ほかの方法かもしれません。しかし、帝国内で生まれたとあれば、たとえ奴隷であっても、自然と領土内の加護がつきますからね」
俺達はムンディー邸の応接間に通された。
「なあ、帝国の外ってないの?」
「…海の向こうにあるかもしれませんが、ムンディー子爵領は内陸の土地です。そこまで、外国人がやってくると考えるよりも、人肉食に目覚めた異世界の変態と考えた方がわかりやすい」
「悪かったな」
アドナイアスが俺のカップにお代わりを注いだとき、ムンディー子爵が現れた。
「おや、ガルシア侯爵様にアドナイアス殿、どうかされましたか?」
「ムンディー子爵ごきげんよう」
アドナイアスはムンディー子爵と握手をした。
「さて、王子はどちらにいらっしゃいますかな?」
「はい?」
ムンディーは額に汗を浮かべ、明らかに動揺していた。
「なっ、なんのことでしょう?」
アドナイアスは空いた手で持った杖をムンディーの顎に押し当てた。
「今夜、ミヒャエル殿のスピーチを聞いていなかったんですか?なめたことをするとぶっ殺しますよ」
アドナイアスの杖が赤く熱を帯びている。
「あちっ、熱い!」
「もう一度だけ聞きます!王子はどこですか?」
ムンディーが叫んだ。
「私は知らないのです!あの日、ミヒャエル様が指定した場所に馬車を用意していたのですが、閣下は現れませんでした!」
「ほう、やはり、異世界人を保護していたのですね」
「異世界人?」
「王子が用意させた魂魄交換の人間ですよ」
「えっ、あの、へばお、そして…んん」
なんかむかつくな。
俺はモンセラートを抜いた。
「なあ、いい加減にしないと頭の皮はいで捨てるぜ」
「ミヒャエル様。やりすぎです」
ムンディーは泡を吹いて失神している。
「なあ、ムンディーが用意したのって本当に異世界人か?」
「魂魄交換用の人員を用意していたのは間違いないようですが、ムンディーには聞かされていないのかもしれませんし、それこそ新大陸を見つけたか、新しい魔術でも産み出したのかもしれません」
「異世界人がもう一人いるって考えるより、わかりやすいよな」
「ええ、念のためタクミ殿が異世界人というのは伏せておきましょう」
アドナイアスはメレアルカスを取り出し、ムンディーにあてた。
「…むうっ、はっ」
「おっはー」
「ミヒャエル様、剣をしまってください。ムンディーが漏らしてますよww」
「へfgtぎbgfぎふじこ!」
ムンディーは再び気を失い。アドナイアスはメレアルカスを取り出し、ムンディーにあてた。
アドナイアスはムンディーを魔法で縛り上げ、天井から吊るした。
「ムンディー子爵、これ最後です。知っていることをすべて話しなさい」
「…初めはミヒャエル様に言われて、領土の境界線に一時の隠れ家を提供しておりました。その後、ミヒャエル様から魂魄交換の話を聞かされ、その交換する人間を用意することになりました。その相手の素性は知りません。ミヒャエル様が連れてこられましたから」
「その相手は?」
「私の屋敷に軟禁しております」
アドナイアスはムンディーを天井から降ろした。
「申し訳ないがムンディー殿には我が領地まで来ていただく。抵抗されないように」
俺はため息をついて、カップに残ったお茶を飲み干した。
「はあ、…ん?」
机に戻したカップがカタカタと鳴っている。カップだけではなく、壁にかかった絵も、シャンデリアも揺れている。
次の瞬間、轟音と共に部屋の壁が吹き飛び、大ナタを持った山羊の頭と下半身を持つ大男が現れた。
「なっ、ランゲルゴート!?」
「きっしょ…」
「A級の魔物です。私の後ろから離れないでください」
アドナイアスはメダルを2枚取り出した。
「顕現せよ。シャコック、カンデラブラ!」
メダルが弾け、2メートルぐらいあるカラスと両手にレイピアを持った大猿が現れた。
「風撃削刃!」
見えない刃がランゲルゴートの皮膚を切り裂いた。
グアアアアッ…
アドナイアスは火、水、木、土など様々な属性の魔法を連続して放つ、シャコック、カンデラブラが素早く動き回って的を絞らせない。
「氷狼撃!」
鋭い氷の槍がランゲルゴートの胸に突き刺さる。ランゲルゴートはしばらくもがいていたが、やがて、動かなくなった。
「おおっ、すげえじゃん」
「いえ、まだです」
ランゲルゴートが入って来た穴から第二、第三のランゲルゴートが見えた。
「…うそん」
アドナイアスは桃色ローブの裾で額の汗をぬぐった。
「ミヒャエル様、馬車の後ろに剛力ち〇ぽ丸がいます。彼に乗ってお逃げください」
「お前は?」
「ムンディーもいますし、残ります。何、死にはしませんよ」
「いや、めっちゃ汗かいてるじゃん」
アドナイアスは部屋に入れまいと、氷魔法で追撃をしている。
「俺も戦う!」
俺はモンセラートを抜いた。
「ランゲルゴートは初心者の手に負える生き物ではありません。私もあなたを守りながら戦うよりも、ずっと楽なんです」
「…」
「さっさとなさい!」
アドナイアスはメダルをもう2枚取り出して召喚獣を呼び出した。
「…死ぬなよ」
「あなたの子供を見るまでは死にません」
縁起でもないことを言うなよ。
アドナイアスはニッと笑って俺の方を見た。
「…私、領地に帰ったら結婚するんです」
「…お前、わざと言ってるだろ」
「ふふん」
アドナイアスは汗びっしょりの顔でウインクした。
かっけえな、おい。
アドナイアスが氷狼撃で2匹目のランゲルゴートを倒すと、それを合図に俺は庭へ出た。
「剛力ち〇ぽ丸!」
ゥゥゥゥウウウウ
暗闇から姿を表わしたのはランゲルゴートだった。
「はっ?」
とっさにランゲルゴートの鉈をモンセラートで受け流す。一撃で俺の腕がしびれる。
「オラッ」
モンセラートを持ち替え、ランゲルゴートの目を突く。鮮血が頭から流れ、無茶苦茶に鉈を振り回す。
「とどめだっ!」
鉈をかいくぐり、胸にモンセラートを突き刺した。
「…結構やれるじゃん俺」
俺は倒れたランゲルゴートの上に立ち、刺さった剣を抜こうとした。
「あれっ?抜けない?」
固まった肉に食い込んでモンセラートがビクともしない。
グアアアアッ…
「え?」
さっきよりも一回り大きなランゲルゴートがこちらを見ている。
「ちょっと、ちょっと抜くまで待ってよ」
ランゲルゴートが鉈を振りあげた。
「うあああああああ!」
「風霊駁撃!《エアリアルショット》」
どこからか飛んできた見えない刃でランゲルゴートはバラバラになり吹き飛んだ。
「助かった…アドナイアス?」
「やあ」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「誰だ?」
暗闇から、黒髪を束ね、華奢な体を持つ美少女が姿を表わした。
「やあ、久しぶりだねタクミ。いや、今はミヒャエルかな?」
「ミヒャエル…」
俺の体で、今のミヒャエルの肉体。
微笑みを浮かべた白野森 卓美が立っていた。




